第24話 忙しい日々の終わり(ざまぁお代わり付き)

 モンスターの名前は竜鳥りゅうちょうになった。

 どう考えても、でかいだけのヘビに負けるとは思えないが、ボス討伐は8キロの回し車エリアに何がいるか見てからにした。

 南郷どんを乗せていたガトリングホースが、寂しそうについて来る。

 どこの馬も乗せ慣れると、乗られなくなると寂しいみたい。

 南郷どんは元気に飛ぶ。サイシンは走って付いて行く。 


 出るとしたら、シフトモンスターか、2級ファミリアだろうと言うことで、暇な中佐が何人も付いて来ている。 

 僕が六人衆最後の8キロの回し車エリアに行くので、付いて行きたいと申請したら、通ってしまったそうだ。

 2級ファミリアは兎も角、分体融合でシフトボディのない中佐はいないのだけど。


 縦に二本角の生えた赤い巨漢馬が宙を駆けているのを見て、シオンさんが、飛び出してしまった。


「フレア!」


 馬がシオンさんを見る。


「わたくしよ! フレア!」


 馬が攻撃姿勢で、角を向ける。


「避けて!」


 気弾の二連射が、シオンさんが飛退いた地面を撃った。

 空跳で近付く。


「わたくしよ! 判らないの!」


 判るわけがない。初対面だ。


「キュウウウ!」


 宙を駆け上がるブラッディに乗ったシトロンも叫ぶ。

 左右から近づかれて、馬は射撃が出来ない。

 首を振って追い払おうとするが、どちらも巧みに跳んで、距離を取らせない。

 シトロンが飛び掛かって、太い首に角を突き込む。

 一瞬止まった隙に、シオンさんが、組み付いた。


「わたくしよ、フレア、フレア」


 見ていて怖いが、邪魔も出来ない。

 馬が、振り払おうとしないで、降りて来た。


「判ってくれたのね」


 崩れて吸収される。

 6スロットのテイマーって、こんなことが出来るのか。

 全く怪我はしていないので、直ぐに出て来た。

 シトロンの剛突が、痛いだけで済んじゃってるんだな。


「皆様、有難う御座いました。お陰様で、フレアに会えました」


 盛大に拍手が起きたが、知らないおっさんに肩を掴まれる。


「今すぐ帰れば、もう一回来られる」


 2級が入ってるなら、向こうは知ってるんだろうけど。

 空の2級持ちが3人いたので、もう1日するしかなくなった。

 獲れなくても、泣きは聞かない。来なかった人に情けは掛けない。

 南郷どんが育つのを待ってもらう。


 失敗はなく、赤い巨漢馬が3頭増えた。

 ガトリングホースより逞しい赤い馬は、バルカンマスタングと名付けられた。

 消化試合になったボス討伐を終えて、枕崎を後にする。

 六人衆はみんな僕より初期の適性値が高かったので、一月しないで8キロで仕事ができると思う。

 シオンさんはすでに適性値が100を越えた。 


 神戸に向かうノスリの中で、シオンさんに頼まれた。


「わたくしたちが、内山姓を名乗るのを、お許し戴けるでしょうか」


 アイちゃんが睨む。


「第四夫人?」

「いえ、そのような厚かましい気持ちは御座いません。ただ五条の姓を捨てたいので御座います」

「法的に可能ならば、構いませんが」


 名前は兎も角、姓はそう簡単に変えられなかったはず。


「有難う御座います。スキルに対する嘲りを受けた場合、相手との絶縁は認められています」


 旧家や名門では、割とあることらしい。

 ただ改名したのではなく、僕の姓に合わせたのを言って構わないと承知した。

 軍の世話になるのは、六甲下までにして、新幹線で帰ろうとしたら、五条家の人間が、飛行場の外で待っていた。


「お父様」


 言ったのはハルカさんだ。


「力を得たそうだな。特級有能協力者となったと聞いた」

「五条家とは関係のない事です」

「なぜだ」

「五条の姓は捨てますので」

「詫びる術は、ないのか」

「あれば、姓を捨てたりはしません」


 若い男が前に出る。


「どれほどの力を得たか知らぬが、借り物ではないか」


 シオンさんがフレアを出した。


「この子が借り物に見えますか」

「ん、な、んだ」


 男が後退って、尻もちをついた。

 軍の人がやって来て、五条家を囲む。


「騒ぎを起こすのでしたら、拘束します」

「その様なつもりはない」


 ハルカさんの親だった人が下がる。

 軍の人はシオンさんを見た。


「2級従魔は仕舞ってください」


 フレアが消える。そう長く出しておけるものでもない。


「申し訳ありません」

「いえ、あなたが謝られることではないです」


 シオンさんハルカさんとは、駅で別れた。


 高校の始業式は4月15日なので、少し時間がある。

 タラオを呼んで、3級が取れそうか聞いた。


「やれると思うが、なにがいいんだ。お前が色々出したって、今村中佐から聞いた」

「猫なら角猫、後は三角山羊か大軍鶏がおすすめ」

「軍鶏なら見せられる」


 ズズちゃんがアンディを出す。


「おおっと、これは、いいんじゃないの?」


 戦力として見るなら、こっちだろう。格闘系なら判るよね。 


「でも、獲りに行けんの」

「別に、獲っちゃいけないものじゃない。北大谷の6キロにいる」

「そのモンスのいるとこまで行くのに、軍を頼むんじゃないの」

「いや、もう僕ら4人で6キロは突破できる」

「おま、どこまで行ったの?」

「枕崎」

「それ聞いてねえよ」


 一般人は6キロに入るには許可がいるが、僕は申請するだけでいい。

 お義父さんにタラオ達を連れて行きたいと話したら、軍を同行させて欲しいと言われた。


「4級3級のオーブはいくらでもいるんだ。外国が買いに来てる。余っちゃいないが、戦略物資だな。特に4級は金持ちと為政者のステータスシンボルだから」

「3級をタラオ達にただで入れちゃ駄目かな」

「何人だ」

「多くて3人」

「なら問題ない。それ以上出るのは判ってるんだ」


 安全になったので、マサにも声を掛けた。

 いずれ金塊を取りに行きたいので3級は欲しいと言う。

 戦力的に大軍鶏を選んだ。

 ミャーちゃんは山羊。いざと言う時には乗れる。

 その内ミャーちゃんも、フュージョンさせようと思っているけど。


 北大谷に行ったら、西村少佐がいた。


「お久しぶりぃ」

「はい、ご無沙汰しました」

「どこ行ってたのぉ」

「枕崎」

「そうだったわ」


 当分使えるな。

 銀塊はいらないので、マサがただで貰えることになった。

 監視所で変身して出て来ると、ミャーちゃんが驚いた。


「なんで、ズズまで変身してんの」

「言ってなかったっけ」

「全然メールもなかった。忙しいんだろうと思って、こっちからは遠慮してたし」

「そんなんだっけ。あたしゃシュンシュンのペットの、赤いメギツネになったんだ」

「なんだか苦労したのね」

「ハーレムカースト最下位よ」

「相手が中佐の娘と浄化師六人衆筆頭じゃね」


 などと言っている内に6キロに着く。

 中に入ると、ツル梨がなっていた。カラスウリに見えて味は梨の、ダンジョンにしか生えていない果物だ。

 発見率は四つ葉のクローバーレベルなのだが、普通のカラスウリ並みに沢山ある。

 ミャーちゃんのファミリア、冬毛リスの銀二とマサのモモンガアッシュが採って行く。

 西村少佐に絡まれる。


「シュンちゃん芸風変えた?」

「これ僕のせいですか。こんなことなかったのに」

「ないの?」

「8キロでもなかったですよ。なんだろう、原因は」


 少し入ると、一粒売りされているような大きなイチゴが、地面に撒いたように生えていた。

 高級品っぽいので、専門家のミャーちゃんと銀二が採集する。


「採集者と一緒に入った事がなかった。収穫を採集にした人とは別なのか」

「それかな。出たら、探究者呼べないか聞いてみる」


 西村少佐が浮き浮きと言う。

 新しい収入源と高級ダンジョンフルーツへの期待が、全軍に広がって行く。

 普通エリアでタラオの分の3級オーブまで取れたので、回し車エリアに入った。


「やだあ、メロン生ってる」

「メロンは野菜」

「イチゴだって野菜よ」

「梨は野菜じゃない」

「ツル梨はツル草だもん」


 僕と少佐は無視されて、ミャーちゃんだけでは無理なので、採集持ちの人もメロンを採集する。

 果物を取っていると一日終わってしまいそうなので、メロンを取り終えたら大軍鶏を探した。


 見つけたら、ただの大ウサギにしか見えないスクネが誘き寄せてくれた。

 横から撃って、マッハが高速で頭上を越える。

 気を取られて上を見ている軍鶏に、タラオが低く飛び付いて倒し、絡みついた。こいつ、寝技覚えたのか。

 嘴も蹴りも届かない位置で首を絞められて、軍鶏はわからせられた。

 名前はケライノ、ハーピーの1人、黒い女。

 タラオにしては凝った名前だ。


 

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