第23話 赤い鳥
二村理依菜は迷っていた。
赤鷲に拘り、まだフュージョンをしていない。
あれは5キロ北や6キロで出るモンスターとは違う。
幼少時から戦闘訓練を受け、戦闘スキルを受けた愛理だから、同い年で獲れたのだ。
田宮寿々恵はレアのアカギツネを得た。
せめて、赤い鳥が欲しい。
大浦東の6キロに入る。伸突持ちの独角羚羊の、角が銀色のが出たので、サイシンに獲らせたら射撃のオーブが出た。
「クワッ」
気弾を吐けるようになって、嬉しそう。軍鶏って、表情あるんだ。
「これで、鹿児島でわたしに合ったモンスターが出てくれたら、5キロボスを討てます」
南郷どんも嬉しそうです。
回し車エリアで、カワセミが出る。
でかいと不気味で、しかも猛禽類並みに強い。
閉じた嘴で、伸突をしてくる。
腹が紺で、翼も青黒い色変わりが出た。
まだフュージョンしていない三人が頷く。
南郷どんはやはり、鹿児島を待つと言う。
リーナは赤が欲しい。
ハルカさんが前に出る。
「獲らせて下さい」
「気を付けて。気弾を吐くんじゃなくて、撃って来るかも」
「はい」
雪風を背負って跳び、左右に動いて狙いを付けさせない。
鳥が空中に静止した時に雪風が跳んだ。
迎撃姿勢を取った鳥が撃たれる。
雪風は尻尾を広げて着地。
ハルカさんは鳥の翼の根元を刺して、一緒に落ちる。
雪風が駆け寄って嘴を押さえ、喉元に穂先が突き刺さって、人より大きな鳥は結晶になった。
暗いサファイアの珠が出る。
跪いて取り、髪が抜けて、濃紺の細い羽毛に生え変わった。
雪風を見ながら立ち上がり、防具を収納した。
周囲を気にしない人だ。
霊晶甲はブラックオパール。背中の翼は瑠璃紺。
ふわっと飛んで来る。
「これで、六甲西を制せます。有難う御座いました」
「帰るまでに雪風も強化しよう」
「はい、お願い致します」
普通エリアでも僕らが入るとレアモンが出易いので、判っている特定の場所に行かないでも済む。
午後から入り直すと、赤い鳥がいた。見た目はカワセミなのだが。
「アカショウビン? かな?」
付いて来た少佐が言う。
「わたしのです!」
リーナが言って、プーラが四肢を広げて飛び立った。
鳥の嘴から気が撃ち出されるが、空飛ぶリスは華麗に躱す。
お返しに下から撃たれた。
そちらを気にすれば、空戦機動最強の、鋭い爪を持ったケモノが引っ掻いて行く。
空中を転げ回るような機動で翻弄され、動きを止めれば撃たれる。
落ちた鳥の背に槍が刺さり、結晶になった。朱色の珠が現れる。
髪は赤茶色の羽毛になったが、霊晶甲は赤瑪瑙、背中の翼は朱肉の朱色。
「わたしも、あなたのものです」
「なんか、重いが」
「大丈夫です、もう、身の程を弁えましたから」
「中学生の言うことじゃないな」
「卒業してません?」
「判らない」
リーナも不遇職から期待される特別職になって、浮ついていた自覚はあったようだ。
午後には7キロの普通エリアで新入りのファミリアを鍛えつつ、奥に向かう。
高能力のフュージョンモンスターか、量産型のシフトモンスターが期待されている。
回し車エリアで出て来たのは、どちらでもない赤茶色の鳥だった。
がっしりした鶴か。
「ノガンモドキ、と言うことは飛行力が取れる?」
警護隊の隊長が独り言で呟く。
大ノガンモドキ、通称オオノさんは、大天狗山の8キロエリアのURだ。シフトボディに翼が生える。
「ズズちゃん、獲れる?」
「いきまーす」
跳躍するズズちゃんと一緒に、アンディが飛んで行く。
大軍鶏は普段飛ぶのをあんまり見ないが、普通に飛べる。
射程に入り次第、アンディが気弾を吐く。
避けた処をズズちゃんに撃たれ、アンディの前蹴りがまともに喉に入ってしまった。
仰向けに落ちて行って、墜落と同時に胸を撃たれて終わった。
アンディに蹴られた時点で終わっていたくさい。
空中で死んでも、地面に着くまでは結晶にならない。
出て来た琥珀色の珠を融合すると、髪と同じ臙脂色の翼が生えた。
「これはポイント高い。弱くても飛行型になれるなら、猛禽類獲るより楽でしょう」
隊長が喜んでいる。戦車を安価で戦闘ヘリに改造できる、みたいな話。
アンディが強いんだけど。
量産型フュージョナーはいっぱいいるので、今回は付き合えない。
南郷どんは、カワセミは赤でも青でも今は獲らないというので、翌日は8キロエリアに入る。
待望の、猛禽類のシフトモンスターが出た。黒と茶の斑。お腹も茶色。
イヌワシに比べたら、嘴が小さい。
先行隊長が喜色満面。
「トンビ、かな?」
「烏天狗って、トンビなんですよね」
天狗党が結成できる。子分はシェイプシフターだが。
「菅沼大尉、あれでいいか」
「はい、確実な強化手段を浄化師殿が見つけてくれているので、ベースは気になりません」
「では、行け」
「はっ」
いかにも陸軍な兄ちゃんが疾駆して行く。
お供は3級のメガリス。
急降下してきた鳶に対して、左右に跳んで空跳で上を取った。
リスの振った爪が当たっていないのに、羽毛が飛び散る。
長目の伸気斬を持っているね。
マスターの大尉は伸気突で突く。
2人なのに、烏の群れがトンビを襲っている風景が重なる。
大きさは鷲と変わらない鳶は、有効な反撃も出来ないまま落ちた。
出た琥珀色の珠を掴んで、ごっつい兄ちゃんが、女子高生に変わる。
「シフトボディ、出します」
装甲貼り終わるまで、見ないようにしよう。
「有難う御座いましたあ」
猛禽類にしては可愛い感じの鳥頭の、おでこに着いた宝石からお礼を言われた。
もっとしてぇ、みたいな視線を感じながらの夕食になった。
明日みっちゃんに5キロボスを獲らせたら、鹿児島に向かう。
道後のみっちゃんといぶし銀の角猫ダンディのコンビは、ボスエリアに入った途端に射撃、顎を引き角を振り立てて来た鹿を飛び越えて、後ろ足を撃った。
振り向いた鹿は、何かされて死んでしまった。
鹿のお尻が大き過ぎて見えなかった。
北上するみっちゃんと別れて、外で待っていたチュウヒに乗って、その日の内に鹿児島に着いた。
鹿児島のダンジョンは、5キロが霧島市の城山公園跡、10キロは枕崎市の瀬戸公園跡で、立地条件は良い。
入り口付近なら、家族でピクニック気分で入れる。
そんな処に、約一名を除いて全員が変身した集団が入る。
何かあったのではないかと、社会不安を起こしかねない。
普通は軍は後ろから入る。
【ボス討伐とボスエリア北の捜索を行います ボスエリアに近づかないで下さい】
大きな看板が出ていた。
ボスは大蛇。初めての爬虫類である。
毒はなく、ただ巨大なだけだそうだ。名前もダイジャ。
以蔵と並んで走り、僕が飛び上がると首が持ち上がった。
下から以蔵が斬り上げ、僕が頭に衝撃波を流して仕留めた。
「その衝撃波は何処で売っているの」
お供の少佐に聞かれる。
「非売品です。9キロエリアの割と奥にあるんじゃないでしょうか」
「月の裏の方が行きやすいわ」
お気楽に北上する。八か月前には考えもしなかった処に来ている。
軽トラよりは小さいかと言うイノシシが出て来た。
だれのオーブにも反応しないので、倒してしまう。
黄色いオーブが出た。
「あら珍しい。ポーションオーブだわ」
浄化水に溶かすと、病気にも怪我にも効く回復薬になるそうだ。勿論錬成師じゃないと出来ない。
悪いものではないが、南郷どんが欲しかったものではない。
ちょっと距離があるので、午後の内に枕崎に移動する。
南郷どんがテンパっている。
「10キロが出る前は、フュージョンモンスターが5キロエリアのレアモンだったんだから、5キロから出ることもあるんじゃないか。ボスエリアの北も10キロの5キロの回し車も似たようなものでしょ。6キロの方が出易いので、今まで10キロの方の5キロを見てないよね。回し車から出るもんだから、普通のエリアも見てない。出易い6、7の回し車で出なかったら、普通エリアを丁寧に探しても良いと思う」
「はい、有難うございます。きっとどこかに出ると思います」
どうしてもここで獲りたいんだな。
期待もむなしく6キロで出たのは、ちょっとドラゴンっぽいオオトカゲだった。
足が恐竜みたいに縦に付いている。直立四足歩行。
「これ、8キロエリアの奥で出るのの小さいのですね」
「これ出るんですか」
「SRくらいですが。皮が硬くて厚いので、盾にはなるんですが装甲には向かないんです」
一人で獲ってみたが、大きな皮はドロップしたものの、マナコアは透明だった。
持ち帰った皮を錬成師に渡すと、皮膚の追加装甲になると言う。
現状で最も防御力の高い装甲だった。
土俵際に追い詰められた南郷どんを連れて向かった7キロの回し車エリアには、赤い鳥が立っていた。緋色と呼ぶには少し暗い。
軍鶏より首が太く、足も太い。嘴も長い。鶴よりは短いか。
ふとましいのに、大軍鶏のサイシンより頭一つ以上大きい。
「あれが、わたしのです!」
「ちょっと待って、とんでもなく強そう。鳥じゃないよ、あれ。鳥頭の飛べる羽毛恐竜だ」
「わたしに相応しい」
「正面からは止めて。スクネに誘き寄せさせる」
「はい」
流石に初見の敵相手に、正々堂々なんてことはしない。
やはり、飛ばずに走ってきた。
いつになく必死で逃げて来るスクネを追ってきた鳥頭竜を、南郷どんと サイシンの気弾が襲う。
すっ転んだら、後は刺しまくり蹴りまくり、起き上がる隙を与えずに倒した。
謎の鳥は、緋色の珠になった。
髪は鮮やかな赤い羽毛になり、瞳は黄色に近い琥珀色。
「変身します」
女性が取り囲む。
霊晶甲は赤味の強いオレンジガーネット、翼は茜色。
「待った甲斐があったね」
「はい」
それ以上言葉が出ないようだ。
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