第22話 十勝尽くし

 海野さんの拒魔犬獲りは、即座に承認された。

 僕が8キロエリアに入るだけでも軍を動かす価値がある。

 5キロエリアボス単独討伐の成功例が出て、6人の育成の成果が上がったので、榎田中佐に少し情報を明かされた。


「海野さんは、こっちに欲しい。拒魔犬出せるだろう。大池北はあそこまでの戦闘力はいらない。六人衆の二軍を育て始めてるんだ。彼女達は適性値40以上だったんだけど、君と同じ38以上を集めている。それなりにはいるんだが、5キロエリアボス単独討伐を最終目標にすると、断る子も少なくないそうだ」


 やはり、浄化師は性格的に戦闘向きではない人間が選ばれるようだ。

 大人の浄化師は応募もしないと言う。

 家の中で安全に年収1000万稼げる人間が、今の仕事を止めて一日何時何処からモンスターが襲って来るか判らないダンジョンの仕事が出来るか、と言うことらしい。

 10億貰っても嫌だろうな。 


 軍としては意識改革の為に、5キロエリアボス単独討伐が出来る浄化師の情報を少し広げるつもりなのだが、戦えない浄化師が余計にプレッシャーを受ける恐れがあるのも危惧しているそうだ。 

 昔はそんなこと国が気にしなかったんだけどね、と言われた。

 海野さんの拒魔犬獲りは問題なく終了し、力丸と名付けられた。

 

 今生の別れでもないので、また会いましょうとさらっと別れて、北海道に向かう、と言うか連れて行かれる。

 チュウヒより大きく航続距離があるティルトローター機ミサゴが、迎えに来ていた。


 沼津のチカちゃんがガトリングホースが欲しいと言ったので、大天狗山に寄ってもらった。

 白いのが出て来て、さほど抵抗せずに従い、小夜姫と名付けられた。


「わたしは、他の子はいりません。二期目に熱海出身者が居るので、その子が育ったら、沼津の担当になりたいと思っています」


 最初の六人に選ばれたからと言って、誰もが10キロの担当をしなければならないものでもない。

 松山に行く途中で沼津に寄り、ボス討伐を見ることにした。


 十勝のダンジョンは、平野が5キロ、富良野が10キロである。

 細かい地名がない。平野ダンジョンなんて名前はここだけなので、それでいい。

 学田駅から北に1キロ行くと富良野ダンジョン、そこから北に10キロ行くと平野ダンジョンと言う、清々しい迄のだだっ広さである。

 なお、平野ダンジョンは実際は山の中にある。


 小さい方が遠くにあるので人気がなく、富良野市としては、何か良い物を出して欲しいとお願いされた。

 僕が出してる訳じゃない。

 発着所はいくらでも作れるので、平野ダンジョンに直接送ってもらった。


 夕食は十勝牛のステーキがメインで、十勝小豆を使った十勝アイスがデザートだった。


「十勝には十勝しかありません」


 とオタマちゃんが言う。

 十勝の朝が明け、ダンジョンの奥に直行する。

 ボスは巨大キタキツネ。富士森のお狐様と違いが判らない。

 名前もオオキタキツネ。オキタさんと呼ばれている。

 出たオーブも機敏だった。

 射撃があるので猫なのに敏捷しかなかった、オタマちゃんのシルビアに上げる。

 午後は同じ角猫のダンディに。


 北上で、赤い狐が出た。赤茶ではなく、臙脂えんじ色。

 オタマちゃんは赤い狐はいらないと言う。


「ズズちゃん、どうする」

「狐、メギツネ、良いかも」

「いいのか、それで」


 5キロ北のモンスターはズズちゃんと言うよりアンディの敵ではなく、殺してしまっていいので決着は早かった。

 ズズちゃんの髪が、臙脂色の短い和毛に変わる。虹彩は大き目になり黄色に。

 ちょっと人間離れしちゃったな。


「変身します」


 こっちを向いたまま真っ裸になる。

 どんどん駄目になって行くな。

 霊晶甲はガーネット色だ。背中はがら空き。お尻も隠さないよこいつ。


「富良野で翼取れるモンスターが出ると良いけど、そんなに都合よく行くわけはないな」

「わーいフラグ立った」


 結果から言ってしまうと、ズズちゃんの言ったのがフラグになって、出なかった。

 午後から狐希望者を連れて行ったが、普通な感じのアカギツネだった。

 色は少し変えられるので獲って、髪をオレンジ色、霊晶甲はトパーズにした。

 トカチギツネは生身の時も精神攻撃耐性が付く以外に特徴がなかったが、獲り易いので人気が出る。


 富良野の6キロも出たのは狐。ただし、白い。

 オタマちゃんが言う。


「あれは、わたしのです」


 能力的には5キロ北のトカチギツネと変わらず、機敏の入ったシルビアの射撃を躱せずに、二人掛かりで撃たれて果てた。

 髪は白の混ざった薄い茶色に。茶プラチナキツネと言うのだそうだ。

 目は黄色。

 霊晶甲は薄青く透明感があるのに地肌は見えず、虹色に光る。


 早く済んだので7キロに入った。

 大き目の中型犬サイズの冬毛のモモンガが、木の上からピンクのおちょぼ口で微笑んでいる。


「いらっしゃい、わたしの子!」


 リーナが走って行く。


「チュ」


 モモンガが答えて飛んで来る。

 躱せない距離に来たところで、死なないように左肩を撃った。

 落ちたモモンガの首に穂先を突き付ける。


「わたしの子になりましょうね。ね?」

「ちゅ、ちゅう」


 観念して吸収された。

 青み掛かった明るい灰色になって出て来た。


「あなたはプーラ」

「ちゅちゅ」


 ちょっと抱っこするにはでかいモモンガが抱きつく。

 午後に入ったら、冬毛のエゾリスが出た。

 ハルカさんが見て、こっちを向かずに言った。


「わたくし、あの子が欲しいです」

「獲って」


 独り前に出て、リスを呼ぶ。


「こっちよ」

「ちゅ」


 可愛く返事して飛び掛かって来たリスを、撃つ。

 落ちたら踏む。槍を突き付ける。


「わたくしの子になりましょう」


 なるしかなかった。

 白に近い明るい灰色にして、名前は雪風。死神か。

 明日は午前中に8キロで何が出ても、午後にはオタマちゃんに5キロボス討伐させて、明後日は沼津経由で松山に行く。


 何かわからないものが、空中を駆けて来る。

 ヒグマを胴長にして太い尻尾を付け、頭を小さくした、茶色い毛の塊だ。

 なんであろうと、天駆持ちに違いない。


「オタマちゃん、やれるか」

「はい」

「今日獲る必要はないから、危なかったら直ぐに援護する」

「はい、お願いします」


 オタマちゃんとシルビアが跳んで行く。

 二手に分かれて上下に揺れるので、狙いは着けにくい。

 遠距離攻撃のない巨獣は、ジャブで削られるように撃たれていたが、シルビアの角の生えた頭での頭突きが切っ掛けで動きが鈍り、落ちた。

 予想通り、天駆のオーブが出た。


「やったね」

「はい、飛行力のあるフュージョンモンスターが出ても、もう負ける気はしません」


 飛行も取るんだ。強化できるのも判ってるしね。

 天駆する巨獣は飛びクズリと名付けられた。

 出て10キロ移動してからお昼になった。

 もう、5キロボスなぞ問題ではなく、結晶になった。

 でたのはただのマナコア。


「従魔スロット増えました」

「良かったね」

「はい、色々と有難う御座いました」


 なんか、終わった。

 

 沼津では小夜姫が地元民に拝まれた。犬天狗は、可哀相だった。

 十勝の結果を受けて、松山の期待が半端ではない。

 他所が山掘ったら金が出たの見て、自分の山からも金が出ると思っているようなもの。


 松山の5キロダンジョンは、松山大学の東の山の中に生えてしまった。

 10キロは大浦駅の南東の、やはり山の中である。

 どちらもダンジョンに行くための道は付いているが、軍はヘリポートを多用している。

 名称は5キロが大学横、10キロは大浦東。

 着いた翌日は大学横から。


 モンスターは哺乳類と鳥の混成部隊。

 変わった鳥のフュージョンモンスターが期待されている。

 ボスは鹿。普通の枝角で、大きさはヘラジカ。鹿としては足が太い。

 草食獣のボスとしては小柄だが、敏捷性が高い。

 名前はお鹿様。


 ボスエリアに入って、左右に分れ、以蔵は低く飛び、僕は飛び上がる。

 僕を見た鹿の喉を以蔵が斬り上げ、空中から僕が一発頭を撃って終わった。

 出たのは持久のオーブ。持久力が10上がる。ハズレっぽい。

 持っちゃったので吸収したら、全体的な何かが上がった感じがする。

 生命力が上がると言って良いのか。

 のちに、寿命が延びるんじゃないかと言われて、金持ちが来るようになった。

 北上で出て来たのは、3級の軍鶏。大軍鶏と変わらない。

 南郷綾香が寄って来た。


「あの子、下さい」

「うん。獲って。スクネ、誘き寄せ頼む」

「きゅ」


 スクネを追ってきた軍鶏の足を横から撃って、転んだら跳んで羽を踏み、首筋に槍を突き付ける。

 動かなくなった頭を触ると、結晶になって吸収された。

 緑色ではなく、青く光る黒い軍鶏が現れる。


「あなたは、サイシン」

「ク」

「意味が判らない」

「小旋風の紫進、水滸伝です」


 なるほど。蹴殺鳥がいるから。

                                                                             

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