第20話 新世代

 ダンジョンが出現して、価値観が全く変わってしまった。

 有能なスキル持ちが正義であり、旧支配者層は、若い身内に世間体の良いスキルを求めた。

 そんなことをすると適性値が下がるのだが、支配者層と見なされていた人間は低くて当たり前と思われて、一気に排除すると国が動かなくなるので、公認犯罪者と呼ばれても昔のままの地位にいた。 


 ダンジョン出現前に社会の中核にいた者は、自分の適性値の低さは気にすることなく、身内のスキルを自慢するようになる。

 結果が判り易く、能力が伸びやすい戦闘系のスキルを喜ぶ。

 それは庶民でも同じだが、上流階級では戦闘スキルでないと、侍の子が武芸が出来ないような扱いになっていた。

 そんな事情をクオンさんから聞いた。


「俊春様がスキルを得られてまだ半年、軍関係者にしか実力が知られていないのですから、意識が変わるわけもありません」

「情報を取ろうとしないのですか」

「報告を受けても、都合の悪い事実は認めないのです。追従者だけを重用し滅んでいった中世の王国そのままです」

「軍を見てると、そこまで腐ってないような」

「軍は装備に50以上の適性値が必要なので、適性値の低い人間の言葉には現場が従いませんから。民間では適性値20どころか、10以下でも必要悪として許されてきたのが現状です」

「全然知らなかった。世間知らずと言うか、僕まだ中学生だし」

「転生した時は幾つだったんだ」


 アイちゃんが茶化す。


「転生者じゃねえよ。見逃してくれよ」

「何を?」

「そう言われると判らん」


 強健取りをするか友人と家族に声を掛けたが、現状困っていないし、軍の関係者を先にやってくれと言われた。

 まあ、箱根の山を越えるのは大変だから。

 少しでも能力を上げておきたい、浄化師の4人は来る。

 斥候の人10人、猫獲り20人で、浄化師は来次第割り込ませることにした。

  浄化師組の分でネコさんチームが8人増えて喜ばれた。

 斥候10人が終わるまで猫獲りも続け、終わったら六甲下の6キロ、8キロの順で確認する。


「3月いっぱいでもう1か所かな」

「4月からは何する?」

「学校行くの」


 浄化師が集まって来たので、もう1か所どこが良いか相談した。


「ぜひ、長野にお越しください。日本の中心ですから集まり易いです」


 既に三角山羊を獲り終えた、真田忍軍の末裔海野忍うんのしのぶ

 が、自分の田んぼに水を引こうとする。

 長野は5キロが上田、10キロが小諸にあり、千葉の富津と銚子よりかなりまし。


「地図で中心でも、山ん中だし」

「日本の中心はいくらでもある」


 鹿児島と愛媛が異議を唱えた。北海道は3月には帰りたくないようだ。


「そうだ、お義父さんに狼の2級頼まれてたんだ」

「あんなに欲しがったのに、オーブ入ったら取りに行かない」

「僕らにつきあっている内に、四分谷少佐が独巨狼獲っちゃったろ。同じのやなんだって。どんな名前にしても、絶対あの人がタツゾウって呼ぶって」


 次は長野に決定して、散るとまた集まるのが厄介なので、長野までは一緒に行動することになった。

 5キロボスからは何かしらスキルが出る。

 斥候10人が終わり、フュージョン希望者が期待する6キロに入る。

 目に付いた宝の山を崩しながら、雑にモンスターを蹴散らして直進した。

 回し車に入って1時間足らず、角の生えた灰色の山猫が出た。


「なんで翼じゃないの?」


 世の中はリーナの都合で回っているわけではない。


「3級のファミリアモンスターです」


 十勝の土方珠緒ひじかたたまおが言った。


「獲る?」

「はい、角生えてるのはポイント高いです」


 オタマちゃんの武器は、蜻蛉切を短槍にした笹穂槍カゲロウ切だ。

 射撃に使うと少し射程が短くなるが、子供の頃から日本刀を振っていて、斬撃が慣れている。

 囮は天駆持ちになったスクネが務める。

 我がチームの誘き寄せ職人である。重要人物の時はやらせないと拗ねる。


 角から撃ってきた気弾を跳んで避け、草丈の高さを走って逃げる。

 猫は走りながらは撃てないようだ。

 射程に入った猫の前足を撃ち、転んだ背中に、ちょっとまずいんじゃないかと思うくらい斬り付け、角の根元を槍で押さえた。


「わたしの子になりなさい」

「うにゅ」


 覚悟した猫の額に手を当てる。

 出て来た猫はボブキャットの体型だが、縞も斑もない明るい灰色になった。


「あなたはシルビア」

「ぬふ」


 返事が犬っぽい。


「リーナはいらないの」

「鹿児島まで待ちます。羽根のある子が出なければこの子で」


 道後の高野美智こうのみちがシルビアを見ている。


「わたしも、この子にしたい」

「じゃ、午後からね」


 みっちゃんも前足を撃って転ばせ、肩を刺してから首に槍を突き付けてわからせた。

 シルビアより濃い灰色にして、名前はダンディ。いぶし銀の男である。

 モンスターは基本雌だけど。以蔵も勝頼もタツジもいるし。


「シルビアとダンディには速射を入れておきたいけど、別の射撃持ちが出て来るかも知れないので、長野の後にしたいんだ。まだ5キロボス獲らないでね。初討伐特典があるから」

「すごいですう。浄化だった時には、一生浄化水作って、中の上くらいの人生かなって思ったんですよぅ」


 まだファミリアを獲っていない、鹿児島の南郷綾香なんごうあやかが言った。


「僕もそうだよ。安全に年収1000万かって感じだった。お母さんがお義父さんと付き合ってなければ、穢れエリアの討伐をやろうなんて思わなかった。更に今は逆に討伐しない方が良くなったし。この先もどうなるか判らないね」

「親父も国から穢れエリアの無理な討伐は止められてる。単独討伐でなくて、6人でならボスをやれるんじゃないかって処まで来てるんだけど」


 アイちゃんが補足した。


「やれないと何とかできないかと思うけど、やれそうなら無理はしなくていいって感じか」

「国の上の方に余裕が出たって。それに、親父たち佐官クラスは、穢れボス討つのは、ダンジョンが生えて来た時に子供だった世代じゃないかって感じるんだって」

「僕らもまだプロトタイプじゃなかって気がする。通常の10キロボスも判ってないし、穢れの10キロがあるんだ。その辺は僕らの子供がやればいい事じゃないかって。そんなにガリガリやらなくてもいいように感じる。だから、4月になったら、普通に学校に通いたい」

「なんで、学校行く話になるのよ」


 角猫の人気は異常だったが、先に8キロエリアへ行く。

 リーナなら角猫を出せるけど、初日はみんなで一緒に行かねば。

 8キロの回し車で出たのは、シフトモンスターの大鷲だった。

 機動性と攻撃力があるが、防御力は獣型より低い。

 鳥としては普通だったが、色合いも普通の茶系統。


 当然ながら希望者多数だったが、4日目に、僕が関わるようになって初めて、勝てなかった。

 倒し切れないでモンスターが逃げてしまった。

 勝てなかった人は、腹を切ると騒いで大変だった。

 強健を入れて能力全体の底上げをして再戦させ、獲らせて収まったが、あれが勝てないなら、他の希望者も怪しいとなって、長野に行く事にした。

 先に強健を入れれば獲れるんだろうけど、その内努力しなくなる気がする。

 高適性値の浄化師が増えて、5キロダンジョンに1人以上いるようになれば、スキル取り放題になる。


 浄化師組にやっていることも努力を省いて能力を与えているのだけど、これは過渡期なのでしょうがない。

 高能力でダンジョン奥に入れる浄化師の増産は急務。


 後で判った事だが、霊力と心力、適性値が関係していて、無限にスキルは入れられなかった。

全国5キロボス巡りで楽にスキルだけ取得、は出来ない。

 浄化師はその三つが上がり易いので気が付かなかった。



 

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