第15話 決断の理由

 タラオを待たせて、お狐様から機敏を出す。

 アヌビスの人が取って、拝まれる。

 タラオが誤解するからやめて。

 北に向かって、11個目のオーブをタラオに渡した。


「こんなことになってたのか。おま、あれ瞬殺しちゃうのな」

「以蔵の力だが」

「3級ってこんな強いのか」

「こいつはURだけど。お前は5枠あるんだから、従魔だけでも5キロなら楽に戦えるぞ」

「3級も優遇してくれんの?」

「ああ、3級までならどうにでも出来る」

「2級も内山君が供給源なのよね」 


 四分谷少佐が割り込んでくる。


「5キロでフュージョンモンスター獲れるようにもなったのよ。あなたも良かったわね、幼馴染で。わたしも子供いるから、頼りにしちゃうわ」

「お子さん、いたんですか」

「14。来年15なの」


 この人もそのくらいの歳か。


「その頃には僕以外の浄化師でも差が50以上が出て来るでしょう。10月27日生まれで44の子がいたって聞きました」

「そうよ、適性値が50になったらここ来るから、可愛がってあげてね。フュージョナーだし」

「第二夫人なら許す」

「許すのか」

「シュンシュンが雲の上に行ってしまった」

「死んだみたいだから、よせ」


 斑狐狩りも済ませて、帰りに4キロエリアに寄って、猫を探した。

 1キロ行かないうちにキジトラが寄って来て、タラオの足に抱き付いた。

 茶色ではなく、黄色地に黒縞なので山猫のはずだが、どう見ても色合い以外はキジトラの家猫。

 大きさは家猫より一回りでかいか。


「トラ猫か。名前どうしよう」

「ゆっくり考えろ」

「でも、名前付けた時には、ダンジョンの中で出すんだよな」

「入口の食堂とかの安全な場所で出せばいい。山猫が普通だから、おでこにM字があるのはレアだよな」

「そうだ、速く動けるように、こいつの名前はマッハにする」

「いいんじゃないか」

「よし、来い」


 額に手を当てて吸収してから、直ぐに出した。


「お前の名前はマッハ」

「にゃあ」


 すごく嬉しそうだ。猫って表情があるもんね。

 ま、普通はテイムしてから名前付けるんだけど。


 翌日学校に行ったら、タラオがマッハを出して、女の子が寄ってたかって可愛がっていた。

 田宮さんがこっちを向く。普通に認識されるようになった。なんだったんだ。


「ねえ、わたしにも、こういう子ちょうだい。愛人にしてくれないんだから」

「愛人狙いだったのか」

「本妻には勝てないから」

「本人の自称は第一夫人だ」

「じゃあ、第二夫人はありなの」

「なし。もう軍が予約した」

「じゃ、猫だけでも」

「4級オーブは融合出来るようになったら上げられるけど、何か来るかは判らない。それ以前にファーストスキル何だったんだ」

「調理。わたしのこと興味ないから、聞いてもくれなかったよね」

「誕生日にいなかったろ」

「なにやってたの」

「アヌビス量産してた」

「うそ」

「嘘じゃねえよ」

「昨日、5キロボス一人で瞬殺して、アヌビス様に拝まれてたぜ」 

「うそ」

「嘘じゃねえって」


 先生が来たので止める。


 帰り掛けに田宮さんにも不気味なお面楕円を渡した。

 せめてお母さんの子分にして欲しいと言われたので、軍に問い合わせたら、下ごしらえならバイトが出来ると言う。

 味が戦士の士気に直結するので、スキル持ちでも、素人同然には調理はさせられない。

 スキル持ちなら、ダンジョン内で合った仕事をするならあまり疲れないので、田宮さんは軍の食堂でバイトをすることになった。

 当然大量の食材を扱えばスキルは早く上がり、適性値も上がる。 


 結局今週も土日はアヌビスの量産になった。

 インディアンの男女1人ずつ、黒人女性2人。

 ダンジョンが生えてから、ネイティブアメリカンではなく、アメリカインディアンを自称する人が増えた。

 インディアンの2人は胡麻毛にして、コヨーテだと言い張っていた。

 元ネタのアヌビスはジャッカルらしいが(分類変わったっけ?)、どっちにも見えない。


「なんだか、一生これやってそう。せめて、別のとこ行きたい」


 アイちゃんに愚痴る。


「普通にマイナーする? 5キロだったら問題ないし、つまらなくもないんじゃない」

「今更ただの鉱夫しても、生きがいを感じなさそう。5キロのボス巡りならありか。1日1個しか出なくても、何が出るかを調べておくのは悪い仕事じゃない」

「どこ行く」

「沼津の天狗山かな。お義父さんにも鳥のシフトモンスターが出そうな処を見て欲しいって言われてる」


 千葉と同じで、沼津が5キロの天狗山、熱海が10キロの大天狗山。


「絶対熱海も頼まれるよね」

「もう、それは仕方がない」


 軍に打診したら、やはり土曜を5キロ、日曜を10キロの探索に当てて欲しいと言われた。

 ボスドロップは初回討伐と通常が違う可能性もあるので、最低2回はしないといけない。

 しょうがないので土日を沼津、月曜から熱海にすると返したら、長い分にはいくらいてくれても良いと言われてしまった。

 金曜の午後に電動ティルトローター機チュウヒで沼津に連れて行かれて、海鮮尽くしが夕食になった。


 天狗山ダンジョンは新幹線の線路の北側の山の中にあり、交通の便が悪いので人気がなかった。

 鳥型のモンスターと、それを捕食する猫科、大型猛禽類の捕食対象として鹿や山羊が出て来る。

 2キロエリアの翼長1メートルの烏の群れがうざい。

 よくあるほっておくとスタンピードが起きる可能性を考慮して、軍が間引いているが、民間人はほとんど来ないそうだ。


 ボスは空中を駆ける空走のスキル持ちの、巨大犬の犬天狗。

 狗が犬なんだけど、日本では修験者になってしまって、犬型のは頭に犬をつけないと区別できなくなった。

 元々は音を出して飛ぶ流星のことらしいので、狗でもない。

 稀に空跳のスキルオーブが出るそうな。


 ボスエリアに入って直ぐに以蔵と左右に分れる。

 隠れマントを着た僕より、高速で走る以蔵を気にして飛び掛かったヒグマよりでかい犬の頭を撃つ。

 僕を見た隙に以蔵が飛び掛かり、躱したはずの左前足を、風切羽から伸ばした気の刃が切り裂いた。


 空中に逃げるボスを以蔵が追い、僕は下から撃つ。

 足を動かしていないと空中にいられないので、以蔵を躱し切れずに斬られて落ちて来た。

 突進に進突強突を乗せて側頭部を突くと、反対側に気が貫けて毛が飛び散った。

 結晶の山から青い珠が出た。

 融合して先行隊長に報告する。


「天駆。空走より速く足を動かさないといけないようです」

「それは、出たことがないです」

「明日もう一度やらないと駄目ですね」

「はい、何度でも大丈夫です」


 空跳が出れば一日で終わるつもりだったんだけど。

 北上の結果は、縞も斑もない灰色のオオヤマネコの、フュージョンモンスターだった。

 癒合した男性は、白に近い灰色の短髪になった。銀山猫と呼ぶか。


「これで、あの男と違う者になれました」

「はい?」

「すみません。他人にお話しする事ではなかったのですが、つい。母に自分を産ませた男は、クズだったのです。もう、あいつとは遺伝子が違います」


 そうか、フュージョンすると、染色体があいつから来たものじゃなくなるんだ。


 一度出てもう一人ネコさんチームに加えて戻って来ると、銀山猫取得希望者が30人を超えていた。

 無慈悲に明後日は熱海に行くと告げる。

 翌日、ボスからは空跳が出た。

 適性値50ならば、戦わずに機敏と空跳が取れてしまう。

 進突と速射もか。日本中のボス巡りをしたら、どうなるんだろう。

 持てる者と持たざる者の格差が広がりそうだが、どうしょうもない。

 僕以外の高適性値の浄化師がどれだけ出て来るか次第。


 午後の猫獲りを終えてダンジョンを出ると、熱海の使いの人が待っていた。

 せめて夕食はこちらでと沼津勢に言われたけど、どっちで食べても多分一緒。内房と外房だって一緒だったし。 

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