第14話 国際化

 学校に行くと、契約書が欲しいと言う女の子が複数待っていた。

 15歳前から僕を知っていて、仲が良いほど認識阻害効果が大きくなるようだ。

 知らない子の前で隠れマントを脱いでも、拝まれたりしない。


「重婚ありになったんだって?」


 田宮さんが来る。諦めの悪い女だ。


「結婚してなきゃ、法的には誰と付き合っても問題がないけど、今付き合っている子が黙ってもいないだろうと思う」

「中佐の娘でも、普通に中三でしょ」

「そう思うなら戦ってみる? 鷲のフュージョナーで3級の従魔がいる」

「なんでそんなことになってるの?」

「にゃんでだろうにゃ」

「猫とフュージョンしたようには見えないけど」


 以蔵を出して見せてやろうかと思ったら、先生が来たので止めた。

 キツネ狩りをして帰ったら、お母さんがお義父さんと暮らしたいと言い出した。


「あなたも家買えるでしょ。それに、この家を売ってしまいたいの。昔の知り合いに知られないように」

「それは、構わないけど、大丈夫なの? あっちのお義母さんは」

「はっきり言っちゃうと、3人で寝てるのよ」

「そうなんだ」


 承知したら、お母さんは夕食後に向こうの家に行ってしまった。

 姉ちゃん2人も、男はいるから大丈夫だと言う。何が?

 そんな話をしていると、お義父さんから電話がかかってきた。


「二世帯住宅みたいの買うから、一緒に暮らさないか。アイが主婦出来るとは思えないって、マリが心配してる」

「痛い処を突かれたな」

「本人が肯定してます」

「じゃ、いいな。どんなのを買うかは、話し合って決めよう。で、今週の土日はどうする?」

「北大谷の8の回し車エリアは駄目でしょうか」

「いや、やってくれよ。実はやってくれるように頼めないか国に言われてたんだ」


 国の上の人達は、大社少佐に悪い病気を感染されて、気になって仕方がなかったようだ。

 家にお母さんがいなくなってしまったので、朝は朝食用ビスケットとカフェオレやココアオレ、夕飯を富士森で食べて、夜食のケーキなどを買って帰る暮らしを週末まで続けた。

 これでも問題がないようにも思える。


 土曜日に北大谷古墳跡に行くと、フュージョン希望者を2人、シェイプシフト希望者を2人、2級オーブ融合者を2人揃えて待っていた。

 フュージョン希望者2人は女性だった。今回は実力で選んだらしく、弱い男は8キロエリアに入れない。

 大社少佐も来ていた。僕の輸送にはナメちゃんが最適。


 回し車エリアに入ると、防護の額当てと、1メートル、2メートルの霊晶の棒が、残念賞のようにごろごろ出て来た。


「なんだこれ」

「今まで溜まってたのを、在庫整理してるんじゃないか」


 欲しい物が出るのに文句を言ってもしょうがない。

 そして、細面の翼の生えた暗い灰色の狼が現れた。


「ジャッカルか」

「コヨーテかも」

「地球上の生物じゃないと言うのもあるな」

「で、なんなんだ」


 お義父さんが各融合希望者に聞いた。


「シフトモンスターです」

「獲るか」

「はい」


 シェイプシフト希望者の一人の女性が、相棒の甲斐犬と前に出る。

 甲斐犬が正面に、マスターは隠れマントを着たまま左に走った。

 甲斐犬が飛び上がり、甲斐犬に向かって急降下するモンスターを、マスターが撃つ。


「こっちだ!」


 隠れマントを脱いで手裏剣を投げたマスターを見てしまったモンスターに、甲斐犬が跳び付いて、前足で前足を捉え、後ろ足を振り上げて敵の腹を打ち、首を逸らして半回転させ、抱き付いたまま落下する。

 地面に着く前に甲斐犬は跳び離れ、モンスターだけが頭を打った。


「空中巴投げ?」

「犬ってあんなの出来たか」


 同犬種の勝頼を見たら、首を横に振った。

 戦いは、甲斐犬がモンスターの翼を前足で抱えて押さえ、後ろ足を絡めて立ち上がれないようにして、マスターが射撃で削って勝利した。


「正に片羽締め」

「獣道一直線」


 しょうもない事を言っている内にシフトボディの作製が終わる。

 黒い細面の犬頭の全裸の女性が現れた。背中の翼も黒い。

 シフトボディは最初だけ全裸で、モンスター革の装甲は貼ったまま出し入れできる。

 生身の体も同様だが、地球産のものは特殊空間に入れられない。

 装甲を貼り終えて、細面の黒狼が僕を見る。


「有難う御座いました。アヌビスと呼んでください」


 呼ばなかったら冥界に連れて行かれるので、逆らわない。

 ウサギさんキツネさんと同じ可能性があるので、お義父さんに聞く。 


「どうします、一度出てみますか。もう一回しか出来ませんが」

「やろう。坂木大尉もアヌビスでいいか」

「はい、お願いします」


 もう一人のシェイプシフト希望者の男性の確認を取って、一旦外に出た。

 昼食前に、アヌビスの能力を確認をしたお義父さんに報告された。


「鳥系は防御力が低いんだが、アヌビスは犬と変わらない。犬だしな。敏捷性が多少低いが、シュンがお狐様から機敏出してくれたら、弱点がなくなる。もうな、俺飛行力取るのにどんだけ苦労したか」

「足せる鳥は強いんですか」

「そうでもないが、出ないんだ。SRくらい」


 午後に入ったら、やはりもう一体アヌビスが出た。

 帰って来たら、20人以上希望者が溜まっていた。


「土日に4人ずつで、2か月弱か」

「増えますよね」

「今の処、あれが獲れそうなのは50人くらいか。全員が犬好きじゃないから、多目に見ても30人じゃないか」

「軍がよければ、一気にやってしまいましょう」

「いいのか」

「僕は疲れませんし、むしろだらだらやるより、今いる人を全部やってしまって一区切りにしたいです。一応、中学卒業程度の一般常識は通っています」

「なら、頼みたい。アイはどうする。一緒に来なくてもいいんだが」

「やだよ。ずっと一緒にいる」

「学校は」

「出席日数は足りてる」

「勉強じゃないのな」

「大社少佐はどうなんでしょう」

「馬持ってるのは他にもいる。つなぎを付けたがってる」


 大社少佐も、疲れる訳じゃないからずっと付き合うと言った。

 戦力が上がっているので、5キロダンジョンの先行隊長は幾らでも代理が利くそうだ。 

 40人、20日を限度にして、その後機敏を取らせる予定を組んだ。

 日本人は32人だったが、アメリカ人が8人入った。

 もう軍事同盟は無意味になったが、経済的に相互依存なので断れなかったそうだ。


 アメリカ軍では黒人が出世しやすく、アヌビスはとんでもない人気が出た。

 希望者が50人以上いるそうだが、付き合いきれない。民間の金持ちもいる。

 適性値が50未満では融合出来ないので、ごり押しや脅迫はない。

 外務省や軍にハニトラが凄いらしいが、僕の処までは来ない。

 お義父さんは「やり捨てている」そうだ。でも適性値は落ちない。

 適性値ってなんなんだろう。


 怒涛の20日が終わって、通常勤務に戻る。まだアヌビスを高級機に改造する仕事が残っているが。

 適性値は92になった。

 フュージョンして10上がったら100越える。

 別のスキルなら、世界中に100越えはいる。 


 さそり座の女、ミャーちゃんは、ファーストスキルが採集で、フュージョナーだった。

 採集は収穫の上位だが、収穫が採集にしかならないのに対して、ファーストの採集は、その上の、隠れているアイテムも発見できる探求になる。

 変身出来る探求者は、高額所得者になれる。


 タラオが適性値50を越えていたので、4級オーブの取得に割り込ませてもらう。


「おま、ほんとに無茶苦茶偉いのな。でもなんで、今日はその変なお面なの?」

「ま、気分で。この守りの仮面角型は、普段の嘴と額当ての組合せより防御力が高い。精神攻撃も軽減する。不人気なので余ってるから、一つやろう」


 怖い木の精みたいな、不気味なお面四角を出して、着けさせる。


「丸いのもあるから、ミャーちゃんに上げると良い。これとウサギ装甲で3キロエリアなら、寝てても喰われない」

「おお、すげえ」


 誕生日が来たら、マサにも上げよう。ついでに田宮さんにも上げる。

                                                                                                                                                                                                

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