第11話 ウサギバカ一代

 10キロ以上東に行くと、どこまで行っても西に10キロ戻れば中央道に戻れる。

 回し車現象と呼ばれていて、ダンジョンは四次元的な円筒の内側なんじゃないかと推測される。

 宝の山もぽそぽそ出て来るが、出入りを繰り返した方が効率が良いのは比較検証済み。

 でも、全くの無駄足にはならない。

 4級オーブの他に、額当てや隠れ蓑、長方形の曲がった木の板に目と口の穴だけ開いた仮面なんかが出て来る。

 持って判る名称が防御の仮面角型の、不気味なお面は見た目が変だけど、防御力は高い。着けられるので貰っておく。


「金属が出ませんね」

「そうなんですが、普通こんなに宝の山がないんですが」


 装飾品以外のアイテムが欲しい時に来るらしい。

 木の上から山羊が飛び掛かって来るが、以蔵に斬り伏せられる。

 1個強跳のオーブが取れた。

 今日はここまでと言う頃になって、チアルフが小さく警戒音を出した。

 普通のウサギがこっちを見ている。

 なぜか以蔵を睨むウサギに向かって、アイちゃんが走って行く。


 隠れマントのお陰で弱く見えるので飛び掛かって来るウサギに、速射をお見舞いする。

 倒れて起き上がろうとするウサギに、アイちゃんが射撃用の細身の槍を構えて突進した。


「殺しちゃ駄目!」


 僕の声に我に返って、ウサギの目の前の地面を突き刺した。

 言わなかったら止めを差してたな。


「どう、あたしの子になる?」

「ぎゅ、ぎゅう」


 やだとは言えないよな。

 差し出された焦げ茶の額を触って、吸収した。

 少し待つと、明るい栗色になったウサギが出て来た。

 全体に丸っこくなって子ウサギ風味。


「あんたの名前は、スクネ」

「野見宿禰か」

「うん。蹴り技最強」


 用は済んだので、とっとと帰って夕食にした。

 食休みをしていると、中越中佐が来た。

 この人のシフトボディの頭は、銀狐と言っても、ほぼ黒い。


「明日、用事がある?」

「学校行きますけど」

「中途半端じゃない? 直ぐ週末だし」

「そうですけど、授業は理解度別の小テスト中心なんで」

「今はそうなんだよね。中学くらい、行かなくても困らないよね。もう卒業程度受かってるでしょ」

「勉強は、そうなんですけど、学校行くのは友達に会うのが目的ですね」

「そうだね。友達大事」

「結局、なんなんです」

「君に8キロの回し車エリアを探索して貰ったら、何か出るんじゃないかって話になってね」

「何処でです」

「日本国防衛軍の緊急リモート会議で」


 護衛のファミリアが出来たので、アイちゃんも連れて行ける。

 と言うより、アイちゃんが行きたがったので、行くことになってしまった。


 9キロエリアで通常勤務をしているより重要だと、中越中佐が攻略隊長をする。

 戦力としては、先行隊プラスアルファ。

 大社少佐も来た。


「オコゲちゃん、お友達だよ」

「ぎゅ」

「きゅ」


 アイちゃんがスクネをオコゲに紹介する。


「ぎゅ」


 以蔵が半眼になってやさぐれる。

 ナイトメアは、サラブレッドなら巨漢馬の漆黒の馬体で、30センチほどの円錐の象牙色の角が縦に2本生えていた。

 乗れるように鞍が付けてある。

 すごくかっこいいのに、大社少佐はナメちゃんと呼んで撫ぜ回している。


 回し車エリアは、動かなければ1日はリポップしないので、お昼も中で食べる。

 調理スキル7の人が作ってくれたお弁当を持って、中越中佐に負ぶわれて行った。

 アイちゃんはナメちゃんに乗せて貰った。

 空跳持ちで、低空を蹴っているので地面を走るよりは揺れない。


 8キロエリアに入ると、殲滅隊と僕等の護衛に分れた。

 あんまり離れると何かイレギュラーの事態があった時にまずいので、戦闘が見える。

 遠くに見えるモンスターは、大型の草食獣系だが、骨格が違う感じだ。

 ヒグマくらいの肉食獣の10匹程度の群れも来るが、一斉射撃のあと、

各個撃破されている。

 今日は一直線に東に向かっているが、途中にあった宝の山は崩す。


 回し車エリアは動くと一定時間でリポップするので、集団で移動した。

 新しいファミリアモンスターが出て来るかも知れないので、まだファミリアをテイムしていない2級オーブ融合者も参加しているが、もし出て来ても、戦闘力と能力を見るために1体は集団で討伐する予定になっている。


 最初の山からメヘルガルドールが出て、幸先よく始まった探索は、2級オーブ、1メートルの霊晶、顔の上半分を覆う黒いアイマスク(睡眠用ではない)、怖いお面丸型など、順調にアイテムが見つかった。

 アイマスクはおでこと鼻も覆ってしまうので、嘴マスクや額当てとの併用は出来ない。

 アイちゃんに着けさせたら装備できるので、貰った。

 隠れマントと合わせて怪人である。


「この格好で外歩いたら、バカップルだね」

「恰好関係ないとか思われてるよ」


 みんなそう思ってるな。心力が上がっている所為か判る。

 これを崩したらお昼にしようと言った山から、焦げ茶色で模様のある額当てが出た。

 中越中佐が持って叫ぶ。


「出たね! 防護の額当て!」


 勝手に狐のおでこに貼った。 

 額の宝石様半球のヘッドオーブより上に貼れる。


「シフトボディに装備可能。ヨシ。内山君、これ、いる?」

「いえ、まだ穢れモンスと戦う気はないです」

「では、軍で頂戴します」


 機嫌よくお昼になった。

 午後からも2級オーブ、謎素材の防具とメヘルガルドール、霊晶の棒が出て、これを仕事にしないかと言われてしまう。

 普通の採掘者するよりずっと安全で、とんでもなく儲かる。最初のような怖さもない。

 断る理由がない。いや、せめてハタチまでは遊びたい。同世代の友達が欲しい。


 なんとなく心ここにあらずな状態で歩いていると、リスが警戒音を発した。

 翼長が5メートル以上ある感じの赤い猛禽類が飛んできて、一斉射撃の弾幕を躱しきれずに落ちた。

 少し躱したために無駄に傷を負い、落ちる前に死んでしまったようだ。


「この辺りに出るものにしては、弱いな」

「フュージョンモンスターでした」

「そうか」


 フュージョナーでも融合したら、見たことのないモンスターは区別がつかない。


「あれ、獲るかい? 結構な機動力だったけど、以蔵がいれば勝てそうだよ。危なかったら直ぐに援護する。今日獲らないといけないわけじゃないし」

「僕はまだ、フュージョンするかも決めてません」

「そうか」

「シュンがいらないなら、あたしやりたい」

「キュ!」 


 スクネもやる気満々である。

 今度来たらアイちゃんが挑むことになった。

 そう思っていると来ない。

 土日までは確実に延長になった。


 土曜日の午前中に赤い鷲は来た。

 周囲に別のモンスターがいないのを確認してから、アイちゃんとスクネだけ前に出る。

 アイちゃんは正面に立って速射、スクネは斜めに跳んで横を取った。 

 スクネの反対に逃げようとする鷲に一発撃って、槍を突き出し強跳で飛び掛かる。

 動かないと思ったのか、意外な行動にアイちゃんを見てしまった鷲の胴に、スクネが前足を揃えて突っ込んだ。

 巣穴を掘った残土を押し出す、所謂ウサギブルドーザーの姿勢である。

 霊障壁に攻撃が当たった爆発音が響き渡る。


 アイちゃんは着地と同時に射撃、スクネが鷲の背中を蹴って落とす。

 落ちた鷹にヘッドショット、更に降って来たスクネが横倒しで後ろ回し蹴り。

 首が跳ねあがったが喉が潰れたのか、断末魔の悲鳴は上げずに、赤い鷲は血を吐いて絶命した。


「キュ!」


 綺麗に着地したスクネが両手を上げて勝利をアピールする。


「笑っちゃうほど強い」

「笑うしかないな」

「ウサギってあんなことできたか」

「ウルトラレアはただ珍しいだけじゃないな」 


 色々言われて、以蔵がやさぐれる。


「お前にはお前の戦い方があるから」

「ぎゅう」


 その間にアイちゃんは崩れて行く結晶の山から、透明な赤い珠を取り上げた。

 それが手の中に吸い込まれると、女性陣が取り囲んだ。


「内山君が見ちゃいけないもんじゃないんじゃない」

「他の男が見ちゃいけません」

「みんな女の子なのに」

「中身がおっさん」


 ごちゃごちゃ言っている内に融合が終了した。

 頭髪が抜けて暗い赤ワイン色の細い羽毛になり、虹彩が琥珀色になった。


「一回変身してみる?」

「はい」


 僕だけ女性の輪の中に入れて貰う。

 貼ってある装甲を全部収納して、皮膚の60%を薄い宝石様の装甲で覆う。

 肘と膝までと、正面はハイレグの水着程度、後ろはお尻だけ。背中には赤い翼が生えた。

 もう少し成長するのか、背がちょっとだけ伸びた。


「どう?」

「うん、凄くいいよ、もうちょっと背が伸びるんだね」

「ちょっとじゃないもん」

 

 最近ちょっとめんどくさくなってきた。

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