第10話 ウサギとは人を斬るものと見つけたり

 2級オーブが6個出た午前の2回目を終わって出ると、お義父さんがいた。


「どうしたんです」

「や、なんだか出がいいって聞いて、いないと抜かされるから」

「中佐のとこまで行くわけないでしょ、この人数見て下さいよ」


 西村少佐が噛み付く。


「なんでお前が切れるの」

「だって、自分が頼んだんですよ。なのに国中から集まって来て、帰宅困難順とか、訳の判らない基準で順番決められたんですから」

「それなら、老い先短い順もあるぞ」

「結局偉い人順でしょ」

「軍隊ってそうじゃないか」


 軍隊に限らず、組織ってそうじゃないかと思う。

 その辺は僕の知った事じゃないので、ご飯を食べて、背負われて山を崩しに連れて行かれる。

 午後の1回目は7つだったが、2回目はあと1つの山を残した時点で5つだった。

 順番の中佐殿がお祈りポーズで見守る中、崩れた山からはエスニック柄の金のアームレットが出て来た。


「まさか、これが」


 権現様が掴み上げる。採集のスキルを持っているので、手にすれば何なのか判る。


「防護の二の腕輪。穢れを防ぐ」

「なんと! 防いでしまうか!」

「それは、どのような順で配るべきか」

「穢れエリア攻略の必需品なので、強い順で」


 怖い生き物が睨み合いを始めた。

 喧嘩するならもう来ませんよ、と言ってここに置いて行かれても困る。

 モンスターがいないから、歩いて帰れるか。

 到底自分の番が回って来ない西村少佐が、


「そう言うのは、帰ってからしましょうよ」


 と言ってくれたので、無事に帰って来た。

 帰ったらまだお義父さんがいた。


「知らない人間、特に女が近づいて来たら、直ぐに軍に通報してくれ。絶対他国がハニトラを仕掛けて来る」

「それ、犯罪にならないんですか。法律じゃなくて、適性値的に」

「ならないんだな。脅迫や暴力を使わなければ。相手が惚れて自分の国に付いて来たってだけだから。ハニトラだと判ってても引っ掛かっる。そのためのプロだからな。プレートなしが国家運営に関わるのを国連が拒否したから、誘拐とか暗殺はまずないんだが。絶対ないとは言えないが」


 攫われて閉じ込められて、一生山崩しさせられる、なんてことにはならないんだろうけど。

 翌日は、僕の担当だと言い張って聞かない西村少佐以外は、総入れ替えになった。

 今日の輸送担当は、雲仙の紅夜叉、本多中佐。赤い羚羊頭のシェイプシフター。

 翼は後付けで、8キロエリアの大鷲から出た飛行スキルで生えて来たそうだ。

 8キロエリアのモンスターは、神話や伝説に出て来るような、動物離れした大きさらしい。

 1匹も見てないが。

 

 午前の部はオーブ11、霊晶2、二の腕輪3、その他、のまずまずの結果だった。

 最初の7はビギナーズラックで、普通は5か6だろう、と言うことに落ち着いた。

 少なめに見積もって1日20。日本中で2級のモンスターをテイム出来る実力者は100人余り。

 後3日やれば一応収まるので、僕の体調に問題がなければ、一気に終わらせてしまうことにした。

 やると言えば日本中から全員集まって来る。


 延長1日目は順調だったが、2日目の午後1回目に、夏ミカン大のくすんだ象牙色の玉が出た。


「こんなこともあろうかと」


 西村少佐が大きなプラスチックの入れ物を出し、別の人が慎重にトングで挟んで入れた。

 西村少佐が僕に見せる。


「なんですか」

「これが、メヘルガルドールよ」


 シフトボディの素体だった。

 鳥頭っぽい人間が、膝を抱えて丸まっている。夏ミカンっぽいのは背中だった。

 これを融合すると、生身を収納する特殊空間ができ、これに特定のモンスターを融合して、獣頭人身のシフトボディになる。

 古代遺跡から出た土偶に似ているので、メヘルガルドールと呼ばれているが、持って判る名称は分体の素体になっている。


「次行こう、次」


 次の番の人に急かされて、次に行った。

 そういうことをすると金塊が出る。

 結局2級のオーブも5個出て、メヘルガルドールは数に入らないと思われた。

 2回目を終えて戻ると、お義父さんがいた。


「明後日は速射鹿獲りにって、その次はウサギ狩りだ。学校行ってる場合じゃない、ファミリア付けておかないと」


 組織犯罪者は絶滅危惧種だが、しぶとい犯罪組織があって、プレート持ちが強化されるのを嫌う可能性がないとも限らないそうだ。

 穢れの5キロエリアの宝の山からしか出ていなかったメヘルガルドールが、翌日も2つ出た。


 メヘルガルドールと防護の二の腕輪は幾らでも欲しいけど、限がないので、予定通り湯河原に行く。

 速射は射撃の上位なので、アイちゃんにも取らせる。

 軍の中にいる分には安全なので、ウサギ狩りは急がなくても大丈夫。

 お義父さんもちょっとテンパっていた。


 止めだけ僕が刺せば、ボスからスキルが出るのはお狐様で確認済み。

 適性値が50ないとボスエリアには入れないので、全く努力しない人間がスキルを得られるものでもない。

 2日で二人分取れたが、5キロエリア周回で4級オーブを出して、お地元に還元した。


 銚子のウサギ恐ろしい山に行くと、中越中佐が新しい相棒、蹴殺鳥のカサドールを見せてくれた。

 頭高4メートルのデブいヘビクイワシだ。


「でかいですね」

「家の中で飼うわけじゃないからね」

「そうですね。ついペット的に見ちゃいます」

「3級までならね。2級はどれだけ強いかで判断すると良いよ」

「はい。大社少佐の子はご存じですか」

「黒いガトリングホースだ。速射鹿の上位種みたいなやつ。ここの8キロにいる。ナイトメアって名前にしたのに、ナメちゃんって呼んでる。ナメクジかスライムの名前だよな」

「本名がナイトメアなら、いいんじゃないですか」


 それはそうと、ウサギ狩りである。

 6キロエリアにいる羽ウサギの、色変わりがファミリアになる。

 普通は胡麻毛っぽい茶色。赤、白、黒がレア。

 引付役をやってくれるのは3級ファミリアのメガリス、チアルフ。

 大き目の中型犬サイズの、頭から尻尾の先まで一本筋の通ったリスである。

 ヤマネではない。


「キョッキョッキョ!」


 羽ウサギの飛行速度を余裕で上回っているはずのチアルフが、警戒音を発しながら、全力疾走してきた。

 ファミリアオーブが反応しているので、ファミリアモンスターなのは間違いがない。

 追いかけて来たウサギに、早目にウォーターガンを撃ち、躱した処を気弾で撃つ。

 死なないうちに融合を承知させればいいので、怪我をさせられないわけではない。

 瀕死の重傷を負わせると、修復するのに大きなマナコアが必要になるが。

 落ちたら走り寄って、穂先を突き付ける。


「気を付けて! そいつは人斬りウサギだ!」


 チアルフのマスター、満永大尉が注意してくれた。 

 英語名はヴォーパルウィング。風切羽に気を通すと鋭利な刃物になる。 

  気性が荒く死ぬまで抵抗するので、3級のURの中でもほとんどテイム例がないモンスターだ。

 事前にいるとは聞いていたが、これはいると言うだけですと説明された。  


「どうする? 僕の従魔になるか?」


 半眼でこちらを睨んでいるウサギの前に、1メートルの霊晶を錬成した手槍の穂先から気を出して、浅く地面を突きさす。


「ギュ」


 飛び掛かって来るかと思ったが、ウサギは目を閉じて香箱座りした。

 手で直に頭に触れると、結晶になって手の平に吸い込まれる。

 収納の中に、翼の生えた胡麻毛のウサギがいる。

 入れておいた霊核を意識して使うと目を開けた。

 茶と黒をはっきり分けて腹を白くすると、三毛猫みたいになった。

 怪我は治ったので、外に出す。


「お前の名前は、以蔵」


 人斬り、と言うとこれしか思いつかない。


「ぎゅう」


 ちゃんと目を開けていれば、普通に可愛い。


「なんでよう」

「なにが」


 なんでアイちゃんに文句を言われるんだ?


「あたし、ただの羽ウサギじゃ満足できないじゃない」


 なんだそりゃ。


「ウサギ止める?」

「やだぁ、ウサギがいい」

「などと意味不明の供述をしているんですが、レアなウサギっています?」


 満永大尉に責任を押し付けてみる。


「格闘ウサギ、ファイターラビットがいますが」

「これは飛べませんって言われたような」

「空中を蹴って跳ぶ空跳持ちなんですが、接近戦に限れば人斬りウサギより上です」

「何処にいるんですか」

「このままひたすら東に歩いていると偶に出て来ます」


 アイちゃんの我がままに、全軍が付き合わされる羽目になった。

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