第9話 お国の為とは言いながら

 霊晶の短剣を群司令に見せに行くと言って、西村隊長はいなくなったが、夕飯はさほど静かではなかった。

 アイちゃんが騒ぐ。

 いくら戦力が増えていると言っても、アイちゃんが一緒に行くのは却下された。

 絶対に1個は確保するので、着いて来る必要はない。

 こんなことを言い出す子ではないと思っていたのだが、周りの雰囲気に呑まれたようだ。

 尉官級の人だけでなく、佐官の人も落ち着かない。

 そんなところに西村隊長が帰って来た。


「明日、別動隊を先行させてモンスターを殲滅して、宝の山も確認しておけば、午前午後2回やれないかと言う話が出たんだけど」

「軍が可能だと判断したなら、行きますけど」


 上の人を早目に強くしておけば、僕が無理をしなくてもいいようになると思う。


「行き帰りが忙しくなるんだけど」

「そのくらいの持久力はあると思います」

「じゃあ、頼んでいいね」

「30分早くして、8時半出発でもいいです」

「おお、助かるよ」


 お昼が忙しなくなるのが嫌だ。

 早目に部屋に入って、二人きりになって落ち着いたアイちゃんと早目に仲よくする。

 明日は早いから。


 突然モンスターが出て来る可能性があるので、普段は使わない四輪バギーで移動した。

 ダンジョンの中同士なら繋がる無線で連絡を受けながら、宝の山を崩して行く。

 一回目で3級のオーブが4つ、金塊2つ、霊晶の短剣(の素)1本。


 僕等だけ出て殲滅隊が残ると、宝の山だけ復活するので、殲滅隊は中央道でお昼にするらしい。

 軍だから、そのくらいなんでもないそうな。

 一回出て、今日は訓練を止めていたアイちゃんにオーブを渡して、また入る。


 連絡したら、ちゃんと山は復活していた。場所は何時ものようにランダム。

 オーブは3つ、霊晶2本、棕櫚の隠れ蓑1つ、金の指輪1つ。

 金見るとハズレと思ってしまう。

 時間的には余裕があるので、お昼はゆっくり食休みをした。バギーで揺れるから。

 結局3級オーブが1日で13出た。

 夕飯は非番だったお義父さんが、お義母さんを連れて来て混ざった。


「戦力強化なんてもんじゃないぜ。このまま続けてくれたら、日本はぶっちぎりでトップに立てる。3級はワカラセないといけないから、誰でも獲れるって訳じゃないが。大尉なら3級ファミリアに勝てなかったら降格だな」

「確実に勝てるのは大尉以上ってことですよね」

「そうだけど、山羊の防御力貫けるんなら、同じやり方で勝てるはずだぜ。仕留めちゃまずい分、危ないが」

「囮をやってもらわないと、いけないんですが」

「そりゃやるよ。ファミリア獲れたら、8に入れるんじゃないか? 3級も欲しいから、7、8を半日ずつってのをやってくれないか」

「入れたらの話ですよ」

「ま、それは獲れてからのこととして、何がいいんだ」

「羽ウサギです」

「オコゲちゃん」

「アイもウサギか」

「こんなに早く貰えると思ってなかったから、決めてない」


 お義父さんが勝頼を出した。


「ガフ」

「勝頼も可愛いけど」


 甲斐犬は凶暴なイメージがあるが、口吻の太い勝頼は吞気なおっさんみたいな顔をしている。


「4級オーブは取れないのかしら」


 お義母さんが珍しく話に入った。


「富士森の5キロで出そうに思うんですけど。あそこで出たのはどうなんでしょう。僕が使うものじゃないですよね」

「1日に10個以上出りゃ、身内の分はゴネればくれるんじゃね」


 お義父さん、それはどうなんですか。


「ゴネないと駄目ですか」

「契約には入ってないが、こんなことになるとも思ってなかったからな。それこそくれないならやらないって言っちまえばそれまで。能力の高い生産支援職の護衛ではあるけど、実際は金持ちのペットだからな。絶対やらないといけないものでもなし」


 軍幹部の発言とも思えないが。


 月曜日に登校したら、タラオも寄って来ない。


「なんだ、何かあったか」

「や、お前、近寄り難くね?」

「なんだよそりゃ。心力と適性値が異常だからか?」

「どんなもんなの?」

「心力48、適性値71」


 昨日また増えた。


「みんなで拝んどくか?」

「止めんか」


 僕の気配が気になって授業にならないといけないので、隠れマントを出して着た。

 マサがやって来た。


「あれ、シュンシュンは?」

「ここにいるが」

「なんだ、どうなってる?」


 目を細めてこっちを睨む。声は聞こえるんだな。

 声はすれども姿は見えず、ほんにお前は? なんだっけ?


「隠れマント着てる」

「そんな感じになるのか。なんでまた」

「気配が普通じゃなくなった」

「脱いでみ」

「うん」


 マサが大袈裟にのけ反る。


「な、これは、有難いのか」

「拝むな」


 マントを着直して、嘴マスクと額当ても着けてみる。

 先生が入って来たけど、気が付かなかった。 

 半日天狗党首領のまま過ごしてしまった。

 着けて暫くすると、全く違和感がなくなる。


 富士森に行ったら、契約書が出来ていた。

 10個までは軍の物。それ以上出たら僕の知り合いに買取権を渡せる。

 いらなければ売値の半額の報奨金が出る。

 勇んで入って、お狐様に止めを刺したら、水色のオーブが出た。


「機敏のオーブだと思うわ。使って」

「はい」


 融合したら適性値が増えた。


「スキルオーブ出るんですか」

「極稀なんだけどね。日本中の5キロボス倒して歩く?」

「そこまでしなくても。や、射撃持ってるボスっています?」

「近い処では、湯河原のラピッドファイヤー鹿。羚羊だけど」

「日帰りは無理ですね。取り敢えず3級の需要を満たしてからですね」

「満たしてくれるのね。2級も満たして欲しい」

「そっちは出るか出ないか、からですけど」

「出るわよ、どう考えても」

 

 まず、目の前の4級オーブを取りに行く。

 一回で7つ出た。更に2回入って合計22。

 小姉とお義母さんの分を貰う。タラオはまだ適性値が50行ってない。

 小姉は3年勤務契約をするだけ。辞める気はないので実質無料。


 翌日学校に定量納品契約書を持って行った。

 5年間一定量のマナコアを納品すれば4級オーブがただになる。

 量を多くして早目に払ってもいい。

 タラオとマサしかサインしなかった。


 翌日、アイちゃんをお狐様討伐に入れて貰った。

 僕が仕留めないと駄目じゃないかと思われている。

 土曜日までに心力のオーブが2つ出たので、50になったが、何か変わった気はしない。


 北大谷古墳跡に行ったら、湯河原へは何時でも行ってくれと言われた。

 僕が強くなれば9、10エリアに入れられると思っているようだ。

 中尉の佐藤兄はお役御免、全国から集まった2級が欲しい大尉と少佐、中佐がいた。

 お義父さんも2級が欲しいのだけど、既に優秀な3級がいるので優先順位が低い。

 蔵王の10キロダンジョンの先行隊長、刈田権現こと、大白鷲のシェイプシフター田宮中佐に背負われて8キロエリアに連れて行かれた。

 シェイプシフターとフュージョナーの群れなので、無茶苦茶速い。

 あっという間にエリアの入り口に到着。


「どうかな、具合は」

「大丈夫です」

「では行こうか」


 最初に崩した山から、茜色の宝玉が出た。

 権現様が鷲掴みで取り上げる。

 この人のでいいのか。


「正に、2級ファミリアオーブ!」


 異様な興奮のまま向かった2つ目の山からは、1メートルの霊晶の棒が出た。


「今日はこれはいらないって」


 西村少佐(今日は隊長じゃない)が文句を言いながら仕舞った。

 それでも、時間までに5つ2級オーブが出た。


「この後どうするんです。3級欲しい人がいないような」

「それなんだが、私が背負って飛べば、君の負担は軽減されるし、時間は短縮出来る。ここだけ4回出来ないか」

「出たり入ったりするだけですから、構いませんけど」

「よし! 一旦撤収」


 面子を見て、最初からそのつもりだったんだろうなとは思った。

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