第8話 予定は変更される

 翌日の成果は、午前中が4級オーブ1つ、金塊1つと金の指輪4つ。

午後に4級オーブ1つと隠れ蓑、猛禽類の嘴型のマスクが出た。

 

「これは、適性値が50あれば着けられるから、いるなら着けて。顔だけじゃなく結構全身の防御が上がるんだよ。なんで出来てるのか判らないんだけどね」


 西村隊長が革っぽいマスクをくれたので着けた。

 普通の立体マスクより煩わしくなく、息もし易い。


「それ、フュージョンして変身しても着けられるから。着け直さなきゃダメだけどね」


 仲間を増やそうとしてる。この人の仲間は嫌だ。


「まだ踏ん切りがつかないんですけど」

「そりゃ判るけど、フュージョンしちゃうと生身の能力も上がり易いのよ。3級ファミリアでサル相手にしても良いけど、フュージョンしたら全く危険がないと思うよ。ゴリラだってやれるわよ」

「浄化師でフュージョンしてる人いるんですか」

「いないわね。フュージョンモンスターに勝てない。レベル4の2人はどっちもテイマーだった」

「従魔でごり押しできないんですか」

「4級1体と3級2体でゴリラに挑んだんだけど、二人とも3級が戦闘不能になって、PTSDになっちゃった」

「レベル5は日本初ですか」

「いや、世界初よ。変身出来ればゴリラの先に行けてる」

「そうですよね」


 帰投してお義父さんに相談した。


「結局射撃ないときついですよね。スナイパーウサギより出易くて、比較的弱いのっていますか」

「一角山羊のレアで螺旋角のライフル山羊がいるけど、強突ないと倒せないな」

「で、射撃がないと一角山羊には勝てないと。射撃があればライフル山羊獲る必要がないですしね」

「ま、そう言うことだよね、人生って」


 週明けから半日学校に行って、お狐様退治した後アイテム狩りの日々が続く。


「18までに猿獲れればって話だったんだからさあ、そんなに焦らなくてもよくない?」


 アイちゃんに言われた。


「焦ってるわけではないんだ。何か一つ上手くやると解決しそうな気がしてる」


 特に解決策もなく土曜日が来て、4級オーブ4つと小さなメロンの皮4分の1くらいの額当てが出た。

 紐はなくて、おでこに貼ればいい。

 ご飯前に嘴マスクと一緒に貼って、お義父さんとアイちゃんに見せた。


「忍者の頭領みたい」

「盗賊団天狗党の首領じゃないか」

「防御力だけが無駄に高くなって行く。スキルの入った武器ってないんですか」

「ないな。引き金引いたら小学生がプロレスラー殺せるような道具は、ダンジョンが許さないようだ」


 翌日もオーブ4つと金の指輪、抵抗の腕輪と、金のネックレスが初めて出た。

 良技の首飾りで、生産系の能力が少し上がるものだった。

 利益を受ける人が多いので、お母さんが貰った。

 思うことがあって、お義父さんに相談した。


「なんだか、出が良くなっています」

「適性値幾つになった」

「65です」

「70超えたら、今まで出てない物が出るんじゃないかって言われてる。ファーストスキルのレベルの10倍と、適性値が50以上離れてるってのはなかったんだ」

「無理にサル獲ってスキルレベル上げなくてもいいかもしれないと?」

「うん。普通エリアの9、10キロで8と変わらない物しか出ないってのがおかしいんだよな。しかも少ない。本当は出るはずの物が条件が揃ってないので出てないんじゃないかと」

「戦闘スキルを取れたら、適性値が上がるような気がするんです。こないだからずっと何か違和感があったんですけど、自分を高めないで上のエリアに入っているのが違うんじゃないかと」

「なるほど。アイテム狩りは義務じゃないから、スキル取ってもいいんじゃないか。個人的な都合じゃなくて、適性値上げのためなら、軍が補助できる」


 八割方パワーレベリングのお狐様狩りをやめて、戦闘スキルを取ることになった。

 今取れそうなので一番弱いのは、突進頭突きして来る癇癪山羊の強打。

 富士森の3キロエリアなのに、佐藤兄が付いて来てくれる。

 チョコチップも僕の護衛で、斥候の人の、ミルクココア色で頭だけ黒いリスのモンブランが囮をやってくれる。

 モンスターはファミリアを人間の一部と感じるらしく、見つけると追って来る。


 わざと見つかって逃げて来たモンブランを追っている山羊に、横からウォーターガンで僕の作った浄化水をぶつける。

 気が入っているので、モンスターでもちょっと痛い。

つんのめって倒れた山羊が起きないうちに跳躍で飛び掛り、伸気突で喉を突く。

 体重を掛けて押し込むと、あっさり崩れて、緑色の玉が出た。


「あ、そういうのね」

「どうした」

「突進でした」

「そうか。戦闘職だとこれとやる前に勝手に生えて来るからな」


 吸収したら適性値が1増えた。

 人の為になる事をする、自分を高める努力をする、あとなんだろう。

 もう1匹獲ったら強蹴だった。こっちも戦闘職なら生えやすい。

 霊力は増えたが適性値は増えなかった。

 3匹目は出なくて、4匹目で強打が出たが、適性値は上がらなかった。

 1日1つなのか、同じものからじゃダメなのか。


 自分より大きな山羊を倒していると、防御力と持久力が増える。

 防御力に物を言わせてオオヤマネコから強斬を取って、適性値も1増えた。


「確実に適性値が増えるのってあります?」


 佐藤兄に聞いてみた。


「5キロボス単独討伐で10増える」


 聞くんじゃなかった。

 攻撃は通るようになったので、一角山羊に挑んだ。

 跳躍と突進を乗せた伸気突で、首の向こうに気が貫けた。

 強突が取れて適性値も上がった。後2つ。


「枝跳び山羊から強跳が取れるけど、あと1つか」

「出たな妖怪、1足りない」

「まあ、70にならないと困るわけでもないので、土日は通常勤務で」

「いっそ7キロに入ってみると言う手もあり」

「それは却下で」


 5キロエリアの大木の間を跳び回る山羊を倒して、適性値69で週末を迎えた。

 午前だけで4級オーブ2、隠れマント1、抵抗の腕輪1と言う有様。


「ねえ、シュンちゃん、7キロ入らない?」


 中身がアラフォーのおっさんなのに見た目が女子高生の、西村隊長がキモい。替えて貰おうかな。


「オーブでスキル取ると心力も上がるでしょ。7でもいけるんじゃない。戦うわけじゃないんだから」


 なんでアイちゃんがそっちに味方する。


「なんで入れたがる」

「3級オーブが欲しい」


 僕以外のみんなの心が一つになっている。

 人の為になることをすると、適応値が上がるんじゃないかとの思惑もあり、お試しで7キロに入る。

 3級のオーブが欲しい大尉が3人増えた。

 僕が今日見つけた分はイレギュラーなので、その場にいたら貰える。


 7キロエリアはモンスターが大きくなるだけではなく、見た目が古代生物っぽくなった。

 足が太くて毛が長い、輓馬に枝角付けたような、鹿なんだか馬なんだかが、一斉射撃をくらわされてから、西村隊長に額を刺されて瞬殺された。


「ザーコザコ。はい、どんどん行くわよ」


 西村隊長がどんどんキモくなって行く。


「キョキョッ」


 真面目に仕事をしてくれる影丸が、宝の山を見付けた。

 崩すと、ピンポン玉より一回り大きい、赤味掛かったオレンジ色の

オーブが出た。


「出たじゃない。これはシュンちゃんのよ」


 言われなくても僕のです。

 手に取ると3級オーブなのが判ったので融合した。


「あっ!」

「どうした!」


 西村隊長が思わず男に戻る。


「適性値が70になっちゃいました」

「いんじゃない」


 僕以外が頷く。チョコチップと影丸まで。

 期待に溢れて次の山を崩したら、50センチくらいの水晶の棒が出た。


「えーこれ出るの」

「なんです?」

「霊晶剣、マナクリスタルソード、の素の短いの。こんなの出たことないんだ。片手剣が世界で20弱くらい。両手剣は5本か6本。日本は1本だけ。しかも、9か10でしか出てない」

「それ、剣になるんですか」

「槍にしてもいいけどね。所謂ファンタジー金属的な切れ味がある上に、半分くらい残ってれば霊核で修復出来るの」


 RPGなら、新素材の武器は短剣からが常識だものね。

 帰るまでに、みんなががっかりした金塊2つと、3級のオーブが1つ出た。


「明日は、朝から7キロですか?」


 オーブを貰えなかった大尉が迫って来る。


「もう、6キロには戻れないでしょうね」

「はい」


 二人だけでなく、全員が妙に気合を入れる。

 でも、明日最初に出た3級オーブは、アイちゃんの分です。

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