第7話 自分で倒さなければならないので、パワーレベリングではない

 夕飯は両方の家族が会食するご苦労さん会になった。

 場所は食べ放題のちょっと良い焼肉屋である。

 無国籍料理屋は握り寿司がない、と小姉が言ったらしい。

 僕の対面にはお義父さんが座る。


「どうする、アイとはだいぶ能力が離れてしまったろ」

「自分に合った霊圧の3キロエリアで、銀の指輪を探したいんですが」

「6キロは無理か」

「5キロが無理なんですが」

「2週間入って体調が何でもないなら、気の所為だよ」

「その気の所為が困るんですが。僕に無理強いさせないんじゃないんですか」

「7キロからじゃ3級のオーブがなかなか出なくて。穢れの5キロは軍は無理に行かない。民間の隠密特化の義賊団と言われてるのが行くんだ。優遇できると言っても、本来予約に入れない民間人を予約に入れただけだから。それ以上は出来ないのだけど、君が自分で見つけたなら、使える物は使っていい契約に入るから」

「それ、100日奉公はどうなるんです」

「なしだね。て言うか7キロ入ってくれたら、それだけで軍は十分ペイするはず」

「ねえ、それ、あたしの分は?」


 アイちゃんが割って入った。


「シュン君が見つけたなら、優先権はあるはず。ないって言ったら、やらないだけだろ。本人が使う分以外をどうするかは、ちゃんと契約で決めないと駄目だから、ここではっきりは言えないが」


 行くしかないようだ。


「次の土曜日に、お試しで6キロ行けますか」

「何時だっていいぞ。明日から半日でもいいが」

「怖い上に忙しいからやです」


 10キロダンジョンは、奥のエリアまでが遠いので入り直しがし辛く、1日中入っているのが普通だった。

 10キロエリアのモンスターはドローンも落とすので、ボスはまだ確認もされていない。

 適性値が50にならないとファミリアオーブを融合出来ないので、アイちゃんは軍の新兵扱いでレベリングしてもらい、僕は半日富士森の5キロをマラソンすることになった。


 学校の授業は半日なので、お昼を食べたら軍から高機動車が迎えに来ていた。

 先行隊が入り口で待っていて、一気にボス部屋に連れて行かれた。

 隊長は女性のフュージョナーで、クマタカがベースの高機動型のエルフィンナイト四分谷しぶや少佐。ファミリアはいない。

 正式な分類ではないので、どう名乗ってもいいのだが、初対面で能力が把握しやすい。

 小柄だとフェアリーナイトを名乗る人もいる。

 

 富士森のボスは巨大狐。名前はオオギツネ。大きいと言うだけで尻尾が2本でさえない。

 わりとお狐様と呼ばれる方が多い。

 同体重の狼に比べて、防御力攻撃力がやや低いが敏捷性が高い。

 しかしエルフィンナイトの敵ではない。

 アルミXLと同じに、4人掛かりで撃って動きを止めて、死なないように態々棒で殴ってから、僕に止めを差させた。

 出たのは狐皮と心力のオーブ。狐は霊力と心力のオーブが出易いそうだ。


「これで、精神的に強くなれるわね」

「そうですね」


 だからなんだってんだ。

 北側を1時間探索して一度外に出た。

 金の指輪と隠れマントが出たので、マントはアイちゃんの分に貰った。

 再入場して時間いっぱい北側を探索して、金の腕輪が出たが、防御力1割り増しの防御の腕輪だった。

 なぜか、高い処にブドウがいっぱい生っていた。

 隊長が嬉々として採って来た。たまになっていることがあるが、こんなに多いのは初めてだそうだ。

 半分軍に収めて、半分は見つけた隊が貰える。

 南口に回ってアイちゃんと合流、隠れマントを渡す。


「はい、お土産。そっちはどうだった」

「ありがと。猫から強斬取れた。囮になってくれる人がいれば、射撃があれば楽勝。鳥から強突が取れたら、あっち行って山羊か羚羊から強打取る。それで適性値が50行くと思う」

「物凄く順調だね。なんか、怖くないか」

「あんたの女じゃなかったら、軍が囮やってくれるなんてないからね」


 あのお義母さんが育てたと思えないのだが。

 後で判ったのだが、お義父さんのお母さんが元レディースだった。

 夏休みに遊びに行って、小学生の間に感染うつったそうな。

 現役自衛官のお義祖父さんに因縁つけて、集団で襲って負けて惚れたと言う、漫画みたいな夫婦なんだと。


「お義父さんの子だから、ってのはないの?」

「それやると実力主義が壊れて、戦力にツケが回るんだって。あたしはあんたが信用できる護衛を育ててる感じ。土曜までに50になったら、あたしの分も出るかもしれないから、6キロエリアまで一緒に行くよ」


 流石に土曜日までにアイちゃんの適性値は50にならず、別行動になった。

 1日中入らず、モンスターは適当に相手をして、宝の山を崩したら午前中に一度出て再入場する事になった。

 何人かいる少佐が、週替わりで付いてくれる。


 今週の当番の隊長は狼ベースのエインヘリヤルの西村少佐で、知り合いがいた方が良いだろうと、マサの兄貴の中尉が副隊長。

 マサの兄貴のファミリアは、有能者育成枠で貰った3級オーブで得た、白地に黒斑のオオヤマネコだ。名前はチョコチップ。

 

 兄貴は話を聞いていただけで会ったことはなく、6歳年上なのだが変身するとミドルティーンで、TSしたマサみたいで、なんか嫌だ。

 西村隊長はまだファミリアを持っていない。


「枠が一つしかなくてさ、2級が欲しいんだ。8キロエリアなら出るんだよ」


 今日初めて6キロに入る子に、そんな期待を込めた眼差しを向けないで欲しい。

 道に居たモンスターは本当に張り飛ばして道を開けさせ、6キロエリアに到達した。

 モンスターは、大型草食獣とそれを狩る肉食獣が出る。

 モンスターはモンスターを喰わないが。

 大型草食獣型モンスターと中型肉食獣型モンスターの群れが戦っていたりはしない。


 太い木が間隔を開けて何処までも立っている森の中を、斥候の人のファミリア黒リスの影丸と、アメショー柄の山猫光琳に先導されて奥に行く。

 途中で金塊が出たが、ハズレ扱いだった。

 完全な純金で、フォーナインの倍するんだけど。

 

「キョッキョ」


 影丸が枝の上から指し示す方向に、宝の山があった。

 チョンと突っつくと、エスニック柄の金のブレスレットが出た。


「やったね!」


 隊長が収納して喜ぶ。抵抗の腕輪だったようだ。

 意気が上がって、5キロダンジョンのボスよりはちょっと弱い雑魚を瞬殺しながら、午前の仕事を終えた。

 リポップさせるために一度出て、お昼を食べる。

 余裕を持って出て来た僕らの後から、アイちゃんが来た。


「どうだった」

「一角山羊から強突取れた」


 そんなもの持ってるの獲れるんだ。


「何処にいるの」

「3キロエリア」

「もうそんなとこ行ったの」

「適性値が50いかないとそこまでだね。強打取れたらしばらくレベリング。4キロエリアでは攻撃力がないって」

「いや、早すぎるでしょ」


 拳銃で狩りしているような感じがして、ちょっと怖い。

 午後には金の指輪が2つ出た後、4級のファミリアオーブが出た。


「7キロに行けば3級が~8キロならば2級があ~」


 西村隊長が変な歌を歌う。

 慣れてきたら、女言葉を使うようになった。

 見た目は女子高生でも、おっさんなのが判っているので、キモい。


「なんで穢れの5で出る物が、こっちだとそんなとこじゃないと出ないんでしょう」

「変なことは全部ポンコツ神のやらかしでオケ。君の今の状態も、こっちに都合のいいバグだと思われてる」


 ばれたらナーフで済めばいいけど。


「チート行為で今までの成果がなしにされませんか?」

「だったら今までの不都合にも全部、詫び石貰わないと。1級1万、2級10万、3級100万で許す。穢れ完全防御の腕輪も100万ね」


 お気楽な人だな。ダンジョンマスターは全部把握しているのは常識。


「聞いてるんじゃないでしょうか」

「なら浄化の上げ難いのを直すのが先でしょ。多分弄れないんだと思われてる。無能運営が弄ると悪化するのは常識。究極破壊呪文マタメンテ!」

「キュッキュウ!」


 馬鹿言ってると、有能な影丸が宝の山を見付けた。

 突っついたら大きな銀塊が出た。


「最初の頃は、これ見つけたら国から探索隊一人ずつに1万円ご祝儀が出たのよ。もう銀じゃ食券もくれない」


 帰りまでにもう1つ4級が出て、最低限の仕事はしたみたいな感じになった。

 お義父さんに報告すると驚かれた。


「3日に1つ出ればいい方だったんだ。アイルランドに2日に1つ出るのがあるって言われてるけど、ほんとかどうか疑われてるくらいだ」

「これだけ~みたいな雰囲気だったんですけど」

「明日は西村外そうか。忙しくなきゃ日替わりでもいいんだ」

「いえ、あの人なら気は楽なんで」

「それならいいけど。体調は悪くないのか」

「全然平気です。そう言えば、あんまり怖くなかったし」

「お狐様で心力上がってるだろうけど、西村が馬鹿だからってのはあったかも。でも気を付けろよ、あいつ昔から若い男に妙に親切なんだ」


 西村隊長は続投になった。

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