第6話 学生の本分は勉強です
5キロエリアは東に進むと、南北に果てが見えない岩壁に到達する。
上も果てがなく、ドローンは5キロ以上上昇しない。
北に歩いて行くと、ボスエリアとその奥に出口がある。
4キロエリアの北をいくら行っても、5キロには入れない。
ボスエリアから西に行くと中央の出口に着き、出口の横を東に行けばボスエリアに着く。
ボスエリアは直径100メートルの剥き出しの地面の半円で、壁の中央に直径10メートルの出口があり、その前を塞いでボスがいる。
このダンジョンでは、一本角の生えたウサギ型の軽トラが香箱座りしていた。
ウサギの背中の向こうに、北口と書かれた看板が見える。真東のはずなのだけど。
ボスエリアには6人しか入れない。
ファミリアは装備なので人数外、テイマー6人なら数の暴力で押し切れる。テイマーは弱くない。
斥候の人とオコゲを僕の護衛にしたまま、隊長と残り3人で焦げ茶のでかい頭を撃った。
飛び掛かろうとしたウサギがつんのめって倒れ、隊長が首を押さえる。
飛行力で下向きに飛べるので、体重以上の力で押さえられる。
「仕留めて」
「はい」
事前に言われていたので、大きな目玉に穂先を刺して気を伸ばすと、暴れる事もなく結晶になった。
隊長が飛び降りて、結晶が崩れると角と琥珀色のピンポン玉より一回り大きな結晶が残った。
「4級オーブよ!」
隊の人が霊気が通らないプラスチックのトングで挟んで、隊長が出した透明なプラスチックの箱に入れる。
「ダブルドロップの上にファミリアオーブ。やっぱ持ってるわね」
「そうなんでしょうか」
この家の子にされそう。
一旦外に出て取得物を監視所に渡し、石板を降りてから再入場した。
出口は靄の中に直径10メートルの半円が開いていて、北口の看板が見える。
靄の中に入ると、何処から入っても少し歩いて出口の前に出るそうだ。
真っすぐ東に行って、空のボスエリアに着いたら北に向かう。
壁沿いに北に行くのが、一番良い物が出易いとのこと。
何処まで北に行っても、西に迎えば出口の前に着く。
どんどん北に行って、ウサギと牛と馬の肉と皮が増えて行く。
この辺りのウサギは跳躍の上の強跳、牛と馬は強打と強突のオーブを出すそうなのだけど、たとえ不意打ちでも僕が一人で勝てる訳もなし。
軍の人が一人で倒しても、強さの差があり過ぎるのか、スキルオーブは全く出ない。
アイテムは銀は腕輪すら出ず、アームレットとネックレス。金の指輪もちらほら。
一定以上の拾得があるとボーナスが出るそうな。
それでも節度は守られるもので、4時半までには帰り着けるように、西に向かった。
金の指輪の後、水色の玉が出た。
「霊力のオーブね。収納量が増えるからアイテム扱いらしいわ。内山君が使えるから使って」
「はい、有難く」
収納量は霊力掛ける適性値キログラムなので、霊力が1増えると60キロ以上増える。
現在霊力が38、適性値は62。2トン以上入る。
シャワーを浴びるのも勤務時間に入るので、4時半前に帰り着いた。
今日の感想を聞きたいと言われて、隊長と夕食になったのだけど、オコゲを出しっぱなしにして、僕の隣に座らせる。
3級でもダンジョン帰りなら4時間は出しておける。
時間切れで収納されてしまっても、ダンジョンに入れば出せる。
「どうだった? ずっと出来そう?」
「15日までならですね。他の人がやらない訳です。中にいるだけで怖いですよ」
「そうなの」
「ぎゅ」
オコゲがなんでえ? みたいな顔をする。黒いのに表情が判る。
つい、よしよししてしまう。
「オコゲは頼りになるけどね、霊気が圧力みたいに感じるんだ」
やはり表情と言うか、感情が判る。そうなの? みたいな。
「それは、仕方ないわね。戦闘職だと基礎能力だけのパワーレベリングをすると技能がちぐはぐになって、結局使えなくなるからやらないのよ。急に奥に連れてかれてないから、わたし達にはその辺の感覚がないのね」
「生産職はやるんですか」
「基礎能力高くした方が、スキルレベル同じでも良い物が出来るのよ。怖いって言われても、そりゃしょうがないか、みたいに思っちゃうし。でもまあ、15歳1か月で5キロエリアはないわね」
無理言ってるのは判っているようなので、延長の依頼はないようだ。
こんなことでも無理強いすると、適性値が下がりかねない。
ダンジョンに関わる犯罪は、適性値に反応しやすい。
3日後に隠れマントが出て、僕用に貰った。
借りていたのは洗って返す、みたいに浄化して返した。
アイちゃんのファーストスキルは射撃だった。適応値は41。
40越えは結構まれなんだけど、僕のアシストをしたせいじゃないかと言われた。
お誕生日のプレゼントとして、アルミXLの角を錬成した手槍を軍から貰った。
適性値が40以上ならば装備出来て、銀より霊気の通りが良いので射撃の威力が増す。
いきなりウサギ革貼って、2キロエリアで罪のないウサギを乱獲し始めた。
9月10日に、3級のファミリアオーブは5キロエリア100日で貰えることになった。
日曜だけなら2年弱、土日だと1年足らず。
アイちゃんに相談する。
寝物語と言うのかこれ?
「どうしようか、金曜の夜に来て、日曜の仕事終わったら帰る暮らしを1年続ける?」
「来年の夏休みも来れば楽勝でしょ。春休みもあるし、ゴールデンウィークだって」
「いいの、それで」
「昔の大学受験とか、何かの大会目指してるとかなら、もっときつくて当たり前っだったじゃない」
話には聞いているけど、僕等の世代では実際にはなくなっている。
大学は本当に行きたい人だけが行くようになった。
この子は3歳くらいからお義父さんに自衛隊格闘術習ってて、脳ミソが筋肉化してるんだよね。
こっちは愛人の子で、なんか温い育ち方してる気はする。
姉ちゃん二人にも、父親が違うんで、変に気を使われて優しくされてた。
「じゃあ、それで行こうか。タラオ達のファミリアオーブの都合にもいいし」
100日奉公を受けるのを軍に申請して、10月からにしてもらった。
流石に、ちょっと休みたい。
13日に金の腕輪が出た。C字型の板で幅が1センチくらいの、インドの道端で売ってそうな模様が付いていた。
見た途端に隊長が騒ぐ。
「出たわ!」
「なんです?」
「抵抗の腕輪よ。弱体化が5割引きから3割引きくらいになって、慣れてくると2割引きになるの。浄化水浴びるだけでその場で直せるようになるわ。穢れエリアからしか出ない、同じ模様のアームレットがあるんだけど、レベル4じゃ浄化できないの。弱体化を防げるんじゃないかって言われてる」
一気に捲し立てられた。
「そんなものあったんですね」
「これの話はレベル3になってからってことだったの。あんまり先の話をして、せっついてるみたいに思われたらまずいんじゃないかって」
「なんか、腫れ物っぽいですね」
「そうよ。レベル5になれる可能性が高くなってるから。ここだけの話、千葉群司令から、無理言って怒らせないようにって言われた」
それ、僕に言っちゃ駄目でしょ。
15日の夕飯をご馳走になって帰った。
ここはアイテムの出が良くて、何度も来るようになるはずなので、大袈裟なお別れ会はしなかった。
帰ったら寝る時間が近く、向こうの家に電話で無事に帰ったのを知らせただけで寝てしまった。
翌朝、別々の中学に登校する。
タラオが寄って来る。
「また人間入れ替わってないか?」
「気を感じるようになったか」
「ああ、なんか、おかしいぞ」
「2週間以上、5キロエリアでアイテム狩りしてた」
「なんでそんなことになったの?」
「伸気突取れたらやってもいいって言ったら、8月中に取れちゃったんだよね」
事故だよ。
「5キロエリアって、どんな感じ」
「怖いなんてもんじゃないわ。夜中に山奥の廃校で肝試しレベルだぞ。置いて帰られたら死ぬしかないって場所だった」
「良く帰って来られたな」
「5キロのボスなら瞬殺ってメンバーでお届けされたから」
これだけしゃべっていても、女の子が寄って来ない。
嫌われたってことは、ないよね。
「シュンシュンいるかあ」
別のクラスだが付き合いの長い、刀剣オタクで錬成師志望の
「いるが、なんだ」
「随分会わなかったな」
「お前が登校日バックレたからだ」
「何のためにあるか判らないようなものを気にするほど暇ではない」
「2ケ月以上合わないと忘れるだろ」
「猫かよ」
「何の用だったんだ」
「過去形にするな。素材を手に入れやすいスキルを得たと聞いた」
「何処から」
「兄貴だ。お前とは仲良くしとけと」
「ああそうか。今階級は?」
「中尉になった」
「早いな。体操でオリンピック候補と言われてたのは伊達じゃないか」
「エインヘリヤルになったんだ」
男のフュージョナーをバルキリーに関連づけてエインヘリヤルと呼ぶ。
「思い切ったな」
「ダンジョンに人生を奪われたみたいなことを言っていたからな。強くなるためなら何でもするって言ってた」
スポーツ全般が潰れて、本気でプロやオリンピック選手を目指していて、将来の夢がなくなった子供も多い。
「僕はそこまでの覚悟がないな」
誰もが死に物狂いで生きてなきゃいけない訳じゃないと思うが。
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