第5話 育成計画前倒し

 疎林を歩いていると、木の上に猫よりでかいリスがいる。

 護衛の人は一人はドラキュラみたいなマント、一人は棕櫚しゅろの蓑を着ていて、どちらも認識阻害効果がある。

 棕櫚の隠れ蓑は、ジャパニーズインビジブルギリースーツと呼ばれていて、日本より外国の方で人気がある。

 同じ性能の隠れマントより防御力が高い。

 ダンジョンの外を着て歩く人は、まずいないけど。


「おーい、おいでー」


 リスに向かって手を振ると、可愛い顔でキュッと鳴いて飛び掛かって来る。

 初期の頃に、抱きとめようとして顔をサクッと斬られてしまう事態が世界中で起きた。

 アイちゃんが斜め横からバフっとバズーカみたいな水を浴びせて、僕は横っ飛びで避ける。

 困惑状態のリスが正気に戻らないうちに斬首。

 結晶になって崩れた後に、薄水色のビー玉が残った。


「いきなりスキルオーブ」


 拾って融合してがっかりした。


「打撃だった。なんでリスから打撃?」


 アイちゃんにいったのだが、護衛の人が教えてくれた。


「稀にありますよ、支援職や生産職だと。前足で斬ってから後ろ足で蹴るんですね」

「そうなんですか」


 跳躍力があるんだから、後ろ足の蹴りも強いのだろうけど。

 オーブが出たのは、リスより打撃が弱かったってことね。

 その後、3時間歩き回って、皮が1枚と跳躍のオーブが一つ。

 かなり良い出具合だそうだ。

 リス革の靴は戦闘用としては弱いけど、シンデレラの関係で、ダンジョンの外用として女性に人気が高い。

 2枚で1足なので、5人分、最低後9枚必要。


 監視所でお昼を食べたら、僕は浄化水作り、アイちゃんは入り口付近でトレーニングをする。

 浄化水はいくらあっても足りないので、夕食後も1トン作った。

 湧水を清水にして、浄化の気を込めるので、1時間掛かる。

 適性値が上がれば一発で出来るようになるらしい。 

 10日でリスからオーブが出なくなったので、ウサギゾーンに挑んだ。

 ウサギも弱いと思って舐めてんのか、隠れているのを軍の人が見付けてくれて、それを僕が呼ぶとやって来る。

 最後の跳躍に入った処にアイちゃんがバフっとして、着地に失敗したウサギに止めを差すだけのお仕事です。


 ウサギからも打撃が出た。体当たりや頭突きがあるからね。

 中型犬くらいのウサギの頭突きなら、僕の蹴りより強くても納得する。

 打撃と跳躍、爪で突いて来るので刺突も出る。

 皮は1匹分でコンバットブーツが1足出来るので、お仕立券付きでタラオに送った。


 8月20日、タラオは攻撃が全体に1割り増しくらいになる強撃のスキルを貰って、融合適性は従体5体だった。

 本体や分体融合がなくて、従体が4体以上だとテイマーと呼ばれる。

 動物好きの女の子に多い上に、戦闘系のマスターは珍しい。


 僕は適性値が60を越えて、ダンジョン産の銀の装備を持てるようになった。

 盾とコサックサーベルを、大きさはそのまま銀製に替えた。

 武器防具は適性値、金属の装備品はファーストスキルのレベル。

 なんで? って言ってみても、運営が無能だからとしか思えない。


 ダンジョンが出来て10年と言っているけど、今年の8月22日が丁度10年目なので、何かあるかと世界中で構えたが、何もなかった。

 前が6年目だったので、次に何かあるのは12年目じゃないかとの予想がされた。

 心配事が無くなったので先に行こうと思って、アイちゃんに相談する。


「普通のウサギからはオーブが出なくなったのだけど、流石に角ウサギゾーンは危ないよね」

「普通ならプレートなしじゃリスも駄目だから、この先は大人しく帰りを待ってる」


 可愛い。

 というわけで、護衛の人2人と角ウサギに会いに行った。

 角が生えているだけのホーンラビット、気の穂先や切先が出せる、伸気突のオーブを出すアルミラージ、気弾を撃って来るスナイパーラビット、1メートル半くらいあるイタチが主な敵。

 イタチは高速でくねって走るので、大蛇かと思ってしまう。

 大型犬サイズのネズミと、大きさは変わらないが敏捷性が上がったリスも出る。


 この辺りまで来ると、直径2メートル、高さ1メートルの土饅頭、通称宝の山があって、2メートル以上離れて軽い刺激で上手く崩せると、アイテムが手に入る。

 2メートル以内に入ると勝手に爆発する。


 リスで敏捷性、ウサギで刺突を上げて行く。このくらいになら補助なしでも勝てるくらいになっていた。


「宝の山です」


 護衛の人が見付けても、僕が崩してアイテムが出たら貰える。

 鉤が付いた3メートルの棒を収納から出して、てっぺんをチョンと突っつく。

 ざらっと崩れて、銀の指輪が残った。

 持っただけでは何かわからないが、収納したら攻撃力が3%程度上がる、力の指輪だった。


「ファーストスキルのレベルが低くて適性値が高いと、アイテムが出易いと言われています。適性値の上りが他の浄化師の人と比べても早いので、クモザルの前にアイテム狩りをしてもらえないかと言う話も出ています」

 

 言い出す切っ掛けを狙ってた感じ。ちょっと危ない処へ連れて行かれても、使えるものは貰えるなら悪くはない。


「アルミラージから伸気突を取れたら、一度行ってみますか。それだと早いでしょうか」

「いえ、適性値が60超でレベル2なら、5キロゾーンでも良い物が出ると思います。普通はお願いしないのは、危ないので嫌がられるからです」

「護衛はガチガチでしてくれるんですよね」

「それはもう、先行隊がします」


 地蜘蛛猿は4キロゾーンに出て来るので、先に強いモンスターの威圧感に慣れておけば、戦いやすい。

 いくらなんでも9月前には取れないだろうと思って安請け合いしてしまったら、8月30日に取れてしまった。


 ここ、ウサギ美味しい山の先行隊長大社おおこそ少佐は、イヌワシベースのフュージョナーの女性で、生身は30代前半くらい、変身すると10代後半になる。

 鷲ベースのフュージョナーは、ヴァルキリーと呼ばれている。

 ヴァルキリーは戦乙女だと可憐な感じだけど、欧米では空飛ぶアマゾネスみたいなイメージらしい。

 ファミリアはウサギ恐ろしい山の羽ウサギのレアの、羽黒はぐろウサギのオコゲ。目の周りと耳の中は茶色で、マルコゲではない。

 他人のネーミングセンスは、ね。

 

 攻撃対象にならないように隠れマントを借りて、隠れマントを着た斥候の人とオコゲが僕の両側を守ってくれる。

 右側のボスアルミXLを日常業務として倒している先行隊は、4キロの道を電車道で驀進した。

 途中で出て来た大き目の草食獣系のモンスターは、交通事故にあった。

 5キロ地点に入ってようやく止まり、道に居た馬並みのロバのルシオを、大社少佐がブルドッキングヘッドロックで抑え込む。


「これ、仕留められる?」

「はい、やります」


 道に出るとは言え5キロエリアのモンスターなので、見た目はドン臭いが防御力は高い。

 目に狙いをつけて、穂先から気を出して差し込んだ。

 結晶になって崩れ、ピンポン玉サイズの霊核が残った。


「XLも防御力はこれとさほど変わらないわ。止めを差すだけでも、この面子でなら後ろから出入り出来るようになる」


 リポップマラソンをさせる気のようだ。

 ボスは1日経たないとリポップしないが、雑魚や宝の山は、倒したり崩した者がダンジョンを乗せた石板の外に出るとリポップする。

 仮想敵で角の生えた馬、ユニコーンじゃなくてホーンホースや、三本角の牛、三角牛を仕留めながら、ボスエリアに向かった。


 途中にあった宝の山は、全部僕の担当。

 銀の腕輪やアームレット、ネックレス、金の指輪が出た。

 僕は銀の指輪しか装備出来ないので、みんな軍の取り分。

 騙された気になるが、パワーレベリングだけでもお釣りがくる。


「やはり、穢れエリアと変らないくらい出るわね。向こうにしか出ない物もあるのだけど」


 みんな機嫌がいい。


「ぎゅ」


 オコゲも懐いて来る。可愛いので撫ぜてしまう。


「ウサギが好きかな」

「可愛ければ何でもいいんですが、鳥より防御力と格闘戦力がありますよね」

「わたしもそう思って羽ウサギにしたんだ。牽制だけでなく攻撃も出来るよ。9月15日まではやってくれるのでしょ。その結果次第では3級の従魔玉が渡せると思う」

「お礼奉公はどうなるんです。3級は買えないんですよね」

「日数はどうなるか判らないけど、君の安全のために3級従魔を付けたいと言う話は上から出てるんだ」


 着々と堀を埋められている感じがする。国と個人じゃ、最初から勝負にならないけど。

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