第4話 友達がいない訳ではない

 頭髪浄化を始めて2週間で適性値が50になったので「汚れを消す」がスキルを意識すると頭の中に表示されて、浄水を作れるようになった。

 ダンジョンの中に湧いている湧水は、そのままでも飲めるのだけど、浄水にした方が安心できる。


 少し防御力の高い山羊革のアーマーも、装備できるようになった。

 足元を高速で這い回る敵に慣れるために、家猫よりでかいダンジョンオニネズミのエリアまで行くのが許された。

 アイちゃんはバイクアーマーのまま。僕の防御力だけが問題だった。


 7月いっぱいネズミを獲ったら、少し大きくて当たりの強い敵を狩るために千葉に行く予定。

 八王子は猫と犬が主体で、斬撃と噛み付きの威力があって、怪我をし易い。

 行くのは千葉の富津市の市役所の裏山に生えた、通称ウサギ美味しい山ダンジョン。

 普通は元の場所にあったものや地名で呼ばれるけど、幾つかダンジョンの特徴が名前になっている。

 げっ歯類が中心で、ウサギの肉がドロップし易い。

 ボスはでかいアルミラージのアルミXL。

 ラージっそう言う意味じゃないし、ウサギもげっ歯類じゃないらしいが。


 ウサギから跳躍、リスから敏捷と斬撃のスキルオーブが出る。

 スキルレベルがない基本技能は、モンスターの方が性能が上ならオーブが出るので、出なくなるまで狩る。

 

 なんと、7月29日に浄化レベルが2になって、穢れを払えるようになり、浄化水を一人で1時間で1トン作れるので、この歳で結構な高給取りである。


 7月31日の登校日に、友人筆頭の片岡尚太朗かたおかしょうたろう、ショウタ若しくはタラオ、タラちゃんでも可と久しぶりに会った。

 15歳になっていないのに180センチあって、こいつの所為で凸凹コンビなんて言われている。

 僕は平均身長なのに。


「お前、なんで斥候職のスキル取らなかったんだよ」


 いきなり切れられた。


「取る取らないじゃないから」

「でもよ、浄化はなかろうもん」


 選べるわけじゃないのに。


「食いっぱぐれはないんだよね、安全だし」

「なにそれ、安定志向なの? 公務員志望なの?」

「成ろうと思えば、公務員と言うか軍の病院に入れて貰える」

「でかいモンスター狩ってメジャーなマイナーになろうぜって誓った、俺等の将来の夢は何処に行くの?」

「何処にも行かんでいいが。スキル次第で組めなくなるのは珍しくはない」


 ラノベの、不遇スキルを授かって幼馴染に捨てられるみたいなことが、実際に起きている。


「お前に見捨てられた俺はどうなんの?」

「見捨てた訳じゃない。斥候なんかリスでいいだろ」

従魔玉じゅうまぎょくなんて戦闘職だと自力じゃないと手に入らないぞ」


 有用なスキル持ちでないと、ファミリアオーブは優遇してもらえない。

 戦闘系のスキルは、最初の内は量産品扱い。


「スキルレベルが4になって、穢れエリアに行けるようになったら、普通エリアより出易いから、一つならなんとか融通してやる」

「マジかよ! お前のお袋さんが持ってる猫がいい」

「何が出て来るかまでは知らん。あいつSRくらいのレアなんだぞ」


 馬鹿話をしていると、女の子が寄って来た。

 先頭はタラオの小学校からの同級生大口美夜おおぐちみや、ミャーちゃんである。


「わたしたち、友達よね」

「今更確認することもないが、パーティー組む予定だっだ人までだね。流石に同級生ってだけでは軍を説得できない」


 まだ軍でも足りないんだから。


「軍を説得しないといけないの?」

「僕一人で行ける場所じゃないからね。タラオの分は斥候するはずだった僕の抜ける代わりでなんとかなるだろうけど、軍としては4級はダンジョンの中で仕事する非戦闘員優先。小姉もまだ貰ってないんだし。貰うって言ってもただじゃないし」


 女子軍が、え? って言う顔をする。本気でただで「貰う」つもりだったのか。


「いくら?」

「軍の職員ならお礼奉公。4級は3年。3級は5年だった。金額は判らない」


 タラオが本気で不安顔をする。


「俺はどうなの?」

「優先順位を回せるだけ。金は必要だよ。それもレベル4になれたらの話だし。18までになれたら上出来って、中佐にも言われてる」

「誰だよ、中佐って」

斑狼まだらおおかみの今村先行隊長」

「なんでそんな人と知り合いなの」

「籍は入ってないけど、娘婿だ」

「お前、ほんとにシュンシュンか? 宇宙人が入れ替わってないか」

「それ、本人に聞いても仕方ないだろ」


 わりと僕と仲の良かった、田宮寿々恵たみやすずえが詰め寄って来る。

 そんな怖い顔されても。話が合うってだけで、恋人ではなかったからね。


「なんなの、娘婿って」

「娘の配偶者だな」

「それ説明してくれなくていいけど、なんでそんなことになったの」


 据え膳食わぬは男の恥ですからね。

 女の子に恥をかかせるのは日本男児じゃありません。


「能力の高い男は早目にツバを付けられる。プレート持ちになってダンジョン入ってると、能力の低い男で妥協出来なくなるらしい。タラオだって、昔ならとっくに相撲部屋から勧誘が来てるような戦闘力だから、なんかやぼったいとか、お笑い枠とか言ってほっとくと取られるよ」


 タラオが睨む。


「おま、それ貶してんの? 褒めてんの?」

「どう考えても両方だろ」

「ほんと、人間変わったな」

「実は沼から上がって来たとか」

「それだと全く変わってないはず」


 担任の先生が入って来て、しょうもない話は終わった。

 帰りに、夏休み終了まで千葉に行くのをタラオに言っておく。


「ずっとウサギ獲ってる。ウサギ革のコンバットブーツで良けりゃ、お誕生日のプレゼントに出来ると思う」

「そりゃ嬉しいが、なんでずっとウサギなんだ。跳躍なら割と取れるんじゃなかったか」

「アルミラージのレアのスナイパーウサギ狙い。射撃が出来ないと足長ゴリラに勝てない」

「地蜘蛛猿の先を見てるのかよ」

「じゃないとクモザルにも勝てないし、射撃があればそっちも楽」

「あっという間に大人になったんじゃね」

「ま、童貞じゃないしね」


 持てる者の余裕、は違うか。


「あのな」

「冗談じゃなしに、余剰霊気排泄介助してくれる子決めとかないときついぞ」

「そんなか」

「虫ならそれ程でもないけど、ネズミでも獲ってると溜まる。相手がいないとプロの人に頼む金で稼ぎが消える。さっきも言ったが、素人は能力が高いと感じた男しか相手にしない。戦闘系は初めの内は、ほんとに能力の数字で判断される。そこそこのもの獲れるようになると、稼ぎを比べられるそらしい。カタログスペックが同じでも、狩猟なんかの上手い下手があるそうだ」

「誰も教えてくれんな」

「まあ、中学生に教えにくい話だからな」

「女子の溜まり具合はどうなの」

「男と違って、出るもんがないから熱が出た感じになるらしい。それでも低い男の相手はしない」

「なんか、野生の王国になったのか」

「そんな感じだね。8月20日になってみないと判らないけど、お前は大丈夫だと思うよ。普通より戦闘力あるからな」


 千葉に行くと、浄化水が大量に手に入るようになるので歓迎された。

 穢れモンスターを相手にするには、消火用のウォーターガンで浄化水を浴びせて、穢れと連動しているオーラバリアが弱ったところを攻撃する。

 帰って来てからも、浄化水のシャワーを浴びないといけない。


 銚子の10キロダンジョン、ウサギ恐ろしい山の先行隊長「外房の銀狐」の中越中佐までが、シフトボディで態々挨拶に来た。

 シフトボディは獣頭の額に宝石様の半球ヘッドオーブがあって、そこから声が出ている。

 軍の期待が異常だ。中越中佐のファミリアは全身斑のオオヤマネコ、アントニオ。

 狐と猫のコンビでも、僕は小金は持っているけど木偶人形じゃないから大丈夫。


 護衛が二人付いてくれるので、ウサギエリアまでアイちゃんも連れて行く。

 裏技的なもので、プレートなしがダメージの入らない攻撃をしても、攻撃とみなされない。

 消火用のウォーターガンで攻撃して、視界と聴覚を一瞬塞ぎ、その隙に倒しても単独討伐扱いで、オーブが出る。


 攻撃した経験値的なものはプレートなしにも入るようなので、直接攻撃が出来ない小心の子に、這い寄る焼き饂飩や黒いべったあをウォーターガンで撃たせている。

 15歳になる前にやっておけば、基礎能力が違って来る。

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