第12話
螺旋階段を上り続けどのくらい経っただろうか?一向に景色が変わらず同じところをグルグル回っている気分になる。
上を見てもまだまだ先が見えず気が参りそうになるも気合で登っていく。
「はぁ、登るなんて思わなきゃよかった。今更降りるのも嫌だしなぁ」
無言で登っていく事数十分ようやく階段の終わりが見えてきた、急ぎ足で階段を上っていくと冷たい風が体を襲う。大きな鐘と街全体が目に入ってくる、そしておかしな事気づく、街の外が存在しない事に。
まるでゲームの裏世界の様に虚空が広がっているのがわかる。これが異空間って事か?こりゃまるで閉じ込める為に作られてみたい…というか実際閉じ込められているしな、そうなんだろうけど。わざわざ街並みを再現した理由は何なんだろうか?
「…とりあえず鐘を鳴らしてみるか」
どうやって鳴らそうかな…蹴るか。可能な限り距離を取り助走をし、素早く重い一撃で鐘を揺らす。ゴーンという綺麗な音と響き渡る、音と共に白い波動が街中に波及していく。
大きく何かが壊れる音と共に突如として世界が正常に戻る、空の歪みは消え街の外の虚空もなくなった。
下を見れば多くの人が行き来しているのが見える、どうやら元の世界に戻ってきたようだ。
「一応問題解決…で良いのか?」
「貴様!」
声がした方向を向くと頭はタコ、体は人間の奇妙な生物が空に浮きながら俺を睨みつけていた。
こちらに対して怒りと憎悪、それから嫌悪感をぶつけてくる。
「こんなもん残してるお前が悪いだろ」
「黙れ、劣等種がぁ」
さてと、こいつを殺す前に情報を引き出したいな、会話してくれそうな雰囲気はあるけれどもどうだろうか…
言葉を選びながら慎重に話そう、こっちを見下してるみたいだから気分が良い内は話してくれそうだな。
「んで、あんたはなんなんだ?」
「私か?私はな、我らが王ゾルノード様の家来、エクトロス」
「へぇ、もしかして彼の者ってあんたの王様の事か?」
「ふぅん?そう呼ぶ者もいるな」
なるほどね、次は何が目的なのか、本当に世界を滅ぼしたいのか、別の目的があるのか興味がある。
「世界を滅ぼすんだよな、あんた達の目的は」
「必要ならな」
自信満々、誇るようにハキハキとして言葉を述べていくエクトロス。
どうやら世界を破壊する以外の目的がありそうだが聞き出せるかな?
「じゃあ、他にも目的があるのか?」
「ふん、気になるか?残念ながら教える義理はないな」
小馬鹿にした声と表情をしながら笑うエクトロス、さすがにそこまでは教えてくれないか。
それじゃあ別の事を聞こう、今回の事象はこいつが引き起こしたのか一応聞いておくべきだろうな。
「さっきの異空間はあんたの仕業だよな」
「そうだと言ったらどうする?」
「いや?どうもしないけど」
やっぱりこいつか…………どうやって意表をついて殺そうかな。
真正面からはやり合いたくない。となれば近づいてきてほしいな、空中に居られちゃ何もできない。
「話は終わりだ、死ね」
「せっかちな野郎だな、落ち着けよ。あんたに暴れられると困るんだよ、上がな」
「上?何を言っている」
頭が疑問で埋め尽くされているのがわかる。
こいつちょろそうだな、これならどうにかなりそうかもしれん、お世辞にも頭が良いとは言えないタイプだ。
こちらの言葉をじっと待っている、どうやらエクトロスは会話を続けてくれる様だ。
このままあやふやな言葉で勝手に想像してもらおう。
「あんたの王様がって言えばわかるか?」
「…貴様召喚者だろう?」
「だからどうした?召喚者は裏切っちゃいけないのか」
「私は聞いてないぞ」
「そりゃ極秘なもんで、どこから漏れるかわからないしな。知ってる奴は少なければ少ないほど良い、違うか?」
情報をどんどん出してくれて助かる、おかげでバレる事はなさそうだな。
後は殺すだけなんだが不意を突けるだけの信用はないからな、どうしたものか。
どうやってエクトロスを殺すか考えながら慎重に話を進めていかなきゃ。
「ならなぜ私の邪魔をした」
「今動かれると困るんだよ、ほらお前も見たろ燈子って女」
「それがどうした」
「あれと真正面からやり合うのは得策じゃない、そして俺はあれに信用されてるんだよ。このままいけば楽に始末する事が出来る、それなのにこんな事されちゃ解決に協力するしかない。これでも俺は召喚者の中では強い方なんでね、動かないと疑われちまうそうなったら今まで気づき上げた信用が水の泡だ、わかるだろ?」
エクトロスは顔を歪め不愉快そうな顔でこちらに燈子について尋ねてくる。
違和感を抱かれない様にじりじりとエクトロスの距離を少しづつ詰めていく。
「そんなに強いのか?あの女は」
「片手間でドラゴンと吸血鬼を殺す女だぞ、あんたもそれができるならあれに挑んでもいいんじゃないか?責任は負えないが」
「…ちっ」
イライラした表情、舌打ちをして考え込むエクトロス。今なら近づけるな、違和感を持つなよ。
エクトロスはどこか集中できていない様子で落ち着きのない姿をこちらに見せながら何度もチラチラと見てくる。
慌ててる?…そうか、こいつからしてみれば王様の作戦を妨害してしまった訳で、これは使えるぞ。
「まあ、今日は互いになかったことにしよう。その方が色々都合がいい、だろ?」
「ふん、違いない」
エクトロスは俺の言葉を聞き安心した表情を見せる、どうやら予測は当たっていた様だ。
そうなれば後はこいつの弱点が知りたいな、『狩猟の申し子』を使えばわかるだろうけど、唐突に使ったら警戒されちまうしな、理由が欲しい所だ。
「…っ!」
「なんだその力は?」
「遠くとか見れるんだよ…………あの女がこちらに向かって来てるな、そろそろ潮時だぞっと手柄が無しじゃあれか?そうだな、あいつら近日中に攻勢に出るらしいぜ、そういう噂が流れてる。気を付けた方が良いぞ」
「…劣等種風情が、生意気な」
燈子を警戒してる事にしよう、燈子に裏切り者だとバレたくないから警戒してるだけってのはなかなか良い言い訳なんじゃないだろうか?
こいつみぞおちに心臓みたいなモノがあるな、ここを刺せば殺せそうだ。
そうと決まれば後は適当な嘘で会話を繋いで、懐に入ってるこれで意識を逸らして殺そう。
「後はこれだな」
「?これは」
「開ければわかる」
懐から本当は燈子へのプレゼントにするはずだった隠れて買った箱を取り出し放物線を描くように投げつける。受け取ったエクトロスが箱を包む紙を破き開けようとしている、よし!警戒を緩めたな。
意識が逸れたのを察知した瞬間意表をつき高速で距離を詰める『狩猟の申し子』で事前に見た相手の弱点、みぞおちの部分にナイフを深く突き刺す。
「ガッ!」
勢いよく引き抜き続けざまに喉を切り裂く、エクトロスは何かを話すこともなく崩れ落ち地面に力なく倒れていく。体の先から光の粒子が漏れ出し気が付けば死体が光に包まれそれが収まると跡形もなく消えてしまった。
「…呆気なかったな」
俺はしばらく死体のあった場所を見つめた後この場を去って行く事にした。
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