第5話
槍を構え前に突き出す頭を狙うも逸れてしまい足に突き刺さる。小さな悲鳴とともに逃げようとするオオカミを囲み倒そうと試みる。
「はぁ!そっちに逃げた」
「まて!…よし仕留めたぞ!」
作戦がうまくいきオオカミのモンスターを討伐することに成功した四人。
そう俺を除いたメンバーである。イノシシの襲撃から数十分が経過、俺達は順調に森を探索していた。
チームのみんなも覚悟が決まったのか、緊張が解けたのか、わからないけど動けるようになり積極的に魔物狩りを行っていた。
ただ、まだコボルトが見つかってない、何処にいるんだろうか?無作為に歩き回るのは嫌なんだけど。
「いないですね」
「早く出てきてくれないかな」
「もう、余裕だし」
数回戦闘をこなした事で自信がついたのか彼らの強気な発言が目立つ。
別に悪い事じゃないと思うけど、調子に乗って良い事ないと個人的には思う。
「また来ます!」
「何度来たって同じだよね」
意気揚々と武器を構えて向かって行く彼らを追いかけるとそこには血を被った犬の頭をした人型生物が立っていた。
剣は血塗られ左手には人の生首を持っており生首から血が滴り落ちていくのが見える、殺されたばかりの様だ。
「ひっ」
「ああぁぃ!」
「逃げよう」
悲鳴が上がり一目散に逃げようとするチームの皆、だけど逃げるわけにはいかないので待ったをかけよう。
こいつは勉強した時に絵を見たから間違いない、確信を持って言える。
「待った!こいつがコボルトだ!」
「え!?」
「いや、無理だろ!」
「逃げるぞ」
おいおい、さっきの威勢はどこ行ったんだよ、こいつら!逃げ足早すぎるだろ。
……完全に置いて行かれた。
結局弱いモノいじめで楽しんでただけだったって事か。
逃げた奴らの事を意識して見てたらそういう感情も『狩猟の申し子』の力で分かったのかな?
「なんて、考えてる暇ないか…待たせて悪かったな、律儀に待っててくれてありがとよ。お礼だ、ここで死ね!」
先に仕掛ける!狙うは首一択、一撃で仕留めに行こう、距離がどんどんと近づいていくがコボルトは一切動かずこちらを見つめている。まさに仁王立ちと呼ぶに相応しいほど堂々と立っている、俺はその姿に腹が立ち攻撃を仕掛けに行く。
「なめてんじゃねぇぞぉぉ!」
力任せに両手で振りかぶった一撃はあっさりと躱され左手に持っていた生首を俺の顔に投げつけてきた。
飛んできた生首をしゃがんで躱し、そのまま下から首を狙ってやる。
「っ!」
生首を躱した瞬間、視界に入ってきたのは下から振り上げようとする剣だった。早い!っ顔に当たるギリギリでどうにか剣で受け止めたけど体のバランスがっ!
「グァ」
剣を受け止め、体のバランスが崩された次の瞬間今度は鋭い蹴りが飛んでくる。
ガードをするしかない、間に合え!いや、間に合わせる。
「いっ!…てぇ」
どうにか間に合ったか…クソ、こいつ攻撃を誘ってやがった。
前を見ればコボルトがまた仁王立ちしている姿が見える。
もう一回攻めても同じ結果になる気がする、それより今気になるのはどうしてコボルトは詰めてこない?蹴り飛ばして地面の転がってる敵なんか格好の獲物だろ。
仁王立ちし続ける理由を考えるか。
「フゥン」
「鼻ならしやがって」
俺は冷静に頭を使い始める。普通に考えて…カウンター狙ってるって所か、もしくは純粋に足が遅いとか、他には生首持ってたって事は戦闘してたって事だから実は深い傷を負ってるとか?ああ待てよ。
そうか、その可能性があったな。俺は頭の中から抜けていた可能性を口に出す。
「お前、カウンター系のスキル持ってんだろ」
そう、スキルの存在だ。その存在をすっかり忘れていたがスキルなら突っ込んでこない理由もわかる。
おそらく動くと使用不可になるスキルなんだろうな、スキルならあの異常な速度のカウンターにも頷ける。
あいつはやっぱり動く気ないみたいだし、ゆっくり考えよう。まず、絶対に勝てない相手じゃない、そんな相手なら最終試験の相手に選ばれないはずだ。
そう考えると弱点がありそうなんだが、…囲んで殴るとか?俺以外逃げたからできないけど。遠距離攻撃もできないし、あの高速カウンターのカウンター…なんて、今の俺じゃできないからな。
どうしたもんかね、奇襲でもすればカウンターもされずに倒せるかもしれないけど…ん?
「……………お、これだ!」
俺の声に驚き警戒してやがるあいつ、絶対殺す。
これで勝てるはずだ、そのためにまずは自分の後ろにある木や草むらまで逃げて相手から俺が見えない状況を作り出す。
「!?」
お、あいつ驚いた顔をしてるな、追いかけて来た!よしよし、ここで隠れよう。
気配を消して油断するのを待つ。
十秒まだ警戒してる。一分まだまだ警戒中。五分警戒し…てない?っ!剣をしまったぞ、これは行ける。落ち着いて焦るなよ俺、静かに後ろからだ。
「フン」
「…………」
奴の強い鼻息が聞こえる、完全に油断してやがる。静かに静かに、ゆっくり一歩ずつ。五メートル、四メートル、三メートル…、二メートル、……一メートル!まだだ、落ち着け。ゼロ距離から頭に突き刺すだけ……今!
「!?」
「…お前の負けだ、バーカ」
頭を貫かれたコボルトは何もできず即座に絶命し体が崩れて力なく地面に倒れていく。顔に飛んだ血を拭い一息つく。
「よーし!勝ったぞ。やべ!」
嬉しすぎて周りを警戒するの忘れてた!……大丈夫そうかな、ふぅ『狩猟の申し子』のおかげで倒せた、今回は気配を消す力が約に立ったな。今回の戦い方は機転が利いてて良かったんじゃないか?自信になるぜ。
「……そう言えばこの後どうしよ、一人で戻れっかな」
頭が痛い、そういや見捨てられてたんだった。なんて説明しよう、一人で倒したから失格とか言われないよな?不安だなぁ。
俺は頭を抱えながら来た道を辿って戻っていくのだった。
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