第4話

「うぁぁ、しんど」


この世界にやってきて約一か月が経過した、人間という生き物は意外と慣れてしまうもので俺はこの世界での生活に不便も感じなくなってきたのだが……


うめき声をあげながらベットに倒れこむ、あまりにもふかふかで気持ちよくこのまま寝てしまいたい気分だったのでご飯も食べずに寝る事にした。





「今日は実戦練習だ!忘れ物はないな、取りには戻れないぞ……では行くぞ」


今日はついに実戦練習、俺たちを牽引するのは第七騎士副団長のデュランという男。

三十人ほどのグループを作り集団で訓練していた訳だが、そんな俺達を指導していたのがデュランだ。今日は最終試験としてコボルトなる魔物を倒しに行くらしい。

周りの人たちも期待と不安がごちゃ混ぜになったような顔をしている。


様々なグループで会話がなされているが俺は一人だ。…別に会話ができない訳じゃないずっと燈子と一緒に居たから仲良くなる機会がなかっただけだ。


「馬車か、結構質素だな」


五人ほどに別れて馬車に乗り込んでいく。仲のいい者同士一緒に乗り込んでいくのでボッチの俺は当然最後のあまりもの五人組である。


無言で揺られていく、馬車の入り口から外が見える。草の匂いが鼻をくすぐり心地よい風が爽やかさを運んでくる、見える限りに広がる草原。

俺は馬車の走る音が心地よく眠くなってしまい、しばらく心地よさに身を委ねていると馬車が止まりデュラン副団長から大きな声で指示が飛んでくる。


「目的地に着いた!武器を持ち降りてくるように!私の近くに集まってくれ」


気付けば目的地に到着していた様で皆、返事を返しながら少し足早に集まっていく。そんなに急がなくてもいいと思うんだけどな。


「皆さん三十日にわたる訓練おつかれ様でした、この最終訓練を終えたのち皆様には世界を救う旅に出ていただくことになります。ここにいる魔物たちは皆さまにとって敵ではありません、訓練を積んだ自分を信じて自信を持って挑んでください。そして加護の使用を許可します、もう皆さんなら大丈夫です」


拍手が鳴り響く、皆がしてるので俺も拍手しとこう。

なーんか異様に持ち上げられててなぁ、そりゃ世界を救う人たちをおだてるのは当然っちゃ当然かっも知れないけど、正直過剰だよな。

なんて事を考えながら1チームずつ森の中に入っていく姿を見て自分たちがいつ行くのか待っているとついに俺達が呼ばれた。


よし、行く前に加護を使おう。なんか体が軽くなったような…先が良く見えるし見えない所も見えてる?体が環境に適応するような感覚もある。

これが『狩猟の申し子』の効果か、他にも効果がありそうだけど把握するための時間がないのが残念だ。


「行きましょう」


俺が声をかけるも無言のまま森に入っていく、周囲を警戒しながら進んで行くが特に何もないな。

先に行った奴らが根こそぎやったか?警戒するのがアホらしくなるくらい静かなんだけど、と頭の中で考えていると前から何かが来る気配を感じ始める。


それはかなり早く、すごい勢いでこっちに向かって来てる事がわかる。

おそらく感じ的にイノシシかな。


「あ、来る!ま、前」


チームの一人が声をあげる。まだ見えないけど俺と同じ感知能力か?

まあ、俺はスキルじゃなくて『狩猟の申し子』の力だけど。

しかしクソ早いなどんどん近づいて…


お、見えっ!?高速でぶっ飛んできたイノシシをギリギリで横に受け流す。

受け流したイノシシはそのまま奥に突っ込んで木をへし折った!?マジかよ…


「うぉ!」

「あれ、喰らったら死んじゃうよ!?」

「魔物だ!」


思わず、うぉって声が出ちまったよ。

一斉に武器を取り出し魔物へ向けるが俺以外手が震えてるな戦えるだろうか?


今の俺に他人を気にする余裕はないのでこいつらは一旦置いといて、こいつに集中するとして本当にイノシシか?

イノシシにしては牙がちょーっと凶悪過ぎませんかね…絶対に敵を殺すという強い殺意を感じる。


「ふぅ」


よし、落ち着いた。周りは足がすくんで動けないっぽいな、俺が殺そう。


「かかってこい」


イノシシの魔物は足を数回鳴らした後再び凄まじい速度で突撃してくる。

俺はそれをギリギリまで引き付ける事にして目を凝らしながら待つ。


…まだ…まだ…あと少し!今!突撃してきた魔物の上を飛び上から頭に向かって剣を突き刺しに行く。


飛んだ俺を追いかけようと魔物が体を反転させようとするが、遅い!剣が頭に突き刺さり地面に血が飛び散る、これは即死だろ。

剣を引き抜くと魔物はピクリとも動かず地面に倒れる。


「思ったより大したことないな」


一息つくと同時に周りを警戒するのを思い出す、勝ったって油断した時が一番危ないってデュラン副団長が言ってただろ、忘れちゃダメだ、警戒警戒。

……周りを見渡しても感じないし音も聞こえない、大丈夫そうかな。


「この死体はほっといて先に行きましょう」


皆に声をかけ先導して歩こう、さっきの戦いで足がすくんでいるみたいだし。

さっきの戦い『軽業』の偉大さを感じた気がする、あんな綺麗に上をとれるとは思わなかった。『急所狙い』も効いてたかな?



立花彦斎

種族・ヒューマン

加護・狩猟の申し子 殺意の使徒


『剣使い』『軽業』『急所狙い』



変化はなしとあまり長く見るのは良くないからチラッと見るだけにして、この中で一番効いてるのって『狩猟の申し子』だよな、身体能力と五感が凄い上がってる感じがする。


自分でもびっくりだわ、見えてないのにイノシシっぽく感じるってなんだよ、それにゲームのマップみたいに状況を把握できる。

頭の中でマップが作られて敵の位置とか木の位置とか岩の位置とか分かる。


それに相手のやりたいことが予測できるんだよな、あのイノシシの突撃を受け流せたのはこれのおかげだし。

すげー便利な加護貰った気がする、この調子でガンガン進んでいこう。


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