第8話 1人は大変
2匹の角兎を連れて上層に戻った。最初は俺たちの帰りを喜んで走ってきた黒狼たちだったが、角兎の存在に気が付くと警戒態勢になってしまった。
「みんな落ち着いて。この子たちは敵じゃない。これから仲良くしていきたいと思ってる。だから皆も受け入れてくれないか」
イーが角兎に恐る恐る鼻を近づけた。デルとゼッターが親し気にじゃれつき始めたこともあり、 何とか受け入れようとしてくれているようだ。
「「キュウンッ!」」
2匹の角兎がイーに頭をこすりつけた。これが角兎たちなりの友好の証だ。
一瞬ビクッとしたイーだったが、敵意がないと判断してくれたようで、その場に腰を下ろしくつろぎだした。それを見た他の黒狼たちも次々と角兎とコンタクトを取り出した。賢いイーが認めたのだ。皆もそれならばと受け入れ始めたのだ。
異種族同士が仲良くなっていく光景を見ていると心が穏やかになる。
魔物と人間もきっと分かり合えるのだ。俺の配信がそのきっかけになってくれれば嬉しい。
よし、次の配信は黒狼と角兎の両方と一緒に配信をしようかな。もちろん俺だけでは決めるつもりはない。角兎たちが配信に出るのが嫌だという可能性もある。次の配信までに聞いてみることにしよう。
「あ、そうだ」
俺のチャンネルの登録者数はどうなっているのだろうか。初配信で手ごたえを感じたが伸びてくれているだろうか。
俺はスマホを取り出し自分のチャンネルを確認した。
しかし、スマホの画面に表示された自分のyo!tubeチャンネルを見て、思わず俺は驚きの声を上げてしまった。
「はああああ!?!?!?」
「「「ウォン!?」」」
「「キュキュウンッ!?」」
何故か俺の驚きの声に合わせて黒狼や角兎も驚きの鳴き声を上げていた。
驚かせてしまったようで魔物たちには申し訳ないが、こういう反応にならないほうが難しい。
なぜなら、俺のチャンネルである『ダンジョン生活ch』の登録者数がすでに10万人を超えていたからである。
まだ、初配信しか行っていないはずだ。もしや初配信後に再びネットで話題になったのかもしれない。
まだ全く現実だと受け入れることが出来ていないが、正直なところ、たった1回の配信でここまで伸びてくれたの嬉しい誤算だ。今の配信スタイルのまま継続しても問題ないだろう。
初配信では、デルとゼッターのお陰もあり、黒狼の可愛い一面に多くの人が夢中になってくれたことだろう。
よし、これからもこの可愛さを布教していくぞ!
「まさか1回の配信でここまで伸びてくれるとは思わなかったなぁ。ダンジョンに住んでいるなんてかなりぶっ飛んでいるからそのおかげだろうな」
これからさらに伸ばしていくためにするべきことを自分なりに分析してみた。
俺の配信を見て魔物に対するイメージが変わった人たちが今後も見に来てくれるメインターゲットになるだろう。
今後も基本的には魔物たちの可愛さを発信していこう。さらにダンジョンの生活環境や生活の知恵なども発信してみるのは面白いのではないか。
「お前たちの無害さと可愛さを早くみんなに知ってほしいよ」
俺は近くにいたイープを撫でた。イープはその場にしゃがみこんだが表情は一切変わらない。こいつは常に凛としていてクールなやつだ。
よく見ると、イープの左右には角兎がいる。それも眠っているようだ。きっと疲れていたのだろう。
「そういえばyo!tubeは配信だけじゃなくて動画を載せることも可能だったよな」
俺はスマホを開き動画撮影モードにした。
今の様な、違う魔物同士が一緒に身を寄せ合っている姿を配信で映すことは難しいだろう。しかし、動画でなら普段の気が抜けている可愛さも共有できるのではないか。
「よし、これでいいだろう」
30秒ほどの動画になった。今後も今みたいなレアシーンがあればすぐに動画にしてみることにしよう。俺は撮った動画をすぐにyo!tubeにアップしてみた。
「ふぅ、なんかどっと疲れが来たな」
一息つき落ち着いたこともあり、体中がドシッと重くなった。
配信に動画、魔物間の橋渡しに生活基盤の確立。これからはさらに忙しくなるだろう。せめてあと一人、人手が欲しいところだ。
一緒にダンジョンに住むとまで行かなくても、yo!tubeの活動を手伝ってくれる人物がいればどんなにありがたいことか。しかし、そう簡単に俺のダンジョンライフを理解してくれる人が現れるとは思えない。
その点で言うと松井さんは適任だと言える。ダンジョン内の植物にも詳しく、視聴者に面白い豆知識なども提供してくれそうだ。だが、彼の本職はあくまでも植物学者だ。毎日このダンジョンに通い詰めてもらうわけにもいかない。そもそもダンジョンの出入りは国に管理されているのだ。毎日通える人間自体いるのだろうか?
次松井さんが来てくれた時にダメもとで相談してみよう。
周りがだんだん暗くなってきた。横に座っていたイープが鼻先でツンツンと角兎たちを起こしている。そろそろ水浴びの時間だ。
角兎たちはなぜ起こされたのか戸惑うようにあたりをきょろきょろとしていたが、イープがゆっくりと歩きだしたのでとりあえずついて行くことにしたみたいだ。
意外にもイープは世話焼きらしい。時々角兎たちがついてきているかを確認しながら進んでいる。家族の新たな一面を知ることが出来たようだ。これは尊い。
「ウォフ!」
水浴び場まで早く行こうと言っているのだろうか。シターが俺の背中を押してきた。
「一緒に行きたいのか? シターは甘えん坊だな」
シターの頭を人撫でし、嬉しそうに尻尾を振っているシターと共に水浴び場へと向かった。
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