第6話 ついに初配信

「イープ、ゼッター、イー、シター」

「「「「ウォンッ!」」」」


 名前を呼ぶと4匹の黒狼が一斉に走ってきた。


「今から下の層に遊びに行かないか?」

「「「「ウォウォウォーーン!!!」」」」


 遊びに行けるのがよほどうれしかったのだろう。俺の周りで何度も飛び跳ねながら吠えている。


「ウォン!」


 ガンが俺たちの動向を察したのか不服そうに袖を引っ張ってきた。


「ごめんなガン。お前らは昨日連れて行ったから今日は留守番しててくれないか」

「クゥン」

「わかってくれよ。ここを留守にするわけにはいかないんだよ」


 心苦しいがこればかりはしょうがない。わかってくれ可愛い家族たちよ。


 下の層には相も変わらず美しい光景が広がっていた。

 ここの草原は広くて気持ちが良い。遊びや配信には最適の場所だ。ここが主な配信場所になるかも知れない。


「みんな着いたぞ~」

「「「「ウォウォーン!!!」」」」


 途端に黒狼たちはの凄い速さで走り始めた。

 あの速度でぶつかったら人間はひとたまりもない。あの迷惑野郎には少しやりすぎたかもしれない。骨の数本は確実に折れていただろう。


 黒狼たちは楽しそうに走り回っている。連れてきてよかった。とても楽しそうだ。ただ何かおもちゃとかがあればなぁ。そうすれば俺も黒狼たちと遊びやすいのに。

 またダンジョン内に何か使えそうなものがあれば良いが、なければ配信の収益で買うことにしよう。うまくいくかはわからないがおもちゃの1つくらいは買えるだろう。


 今まで黒狼たちからは多くのものをもらった。

 今度は俺が家族にプレゼントする番だ。


 1時間は経っただろうか。黒狼たちも走りつかれたのか、滝の水を飲み水場の近くで涼んでいる。


「それじゃあ、そろそろ上に戻ろう」

「「「「ウォ~ン」」」」


 4匹を連れて上へと戻った。留守番を頼んでいたベーたちが駆け寄ってくる。すでに何度も見た温かい光景だ。さらにおいしいごちそうが加われば、これ以上ないダンジョンライフがおくれそうだ。


「よし、明日からの配信がんばるぞ!」


 ♢


 翌日。

 ついにこの日がきた。今日、俺は初めて配信を行う。

 最初はあまり多くの人数が見てくれるとは思わないが、少しずつでも魔物の可愛さを知ってくれる人が増えてくれればと思う。自慢もできる、家族も守れる、おいしいものが食べられる。上手くいけば一石三だ。


「よし、ちゃんと充電できているな。ゼッター、デル、一緒に配信しに行こう」


 初配信にこの2匹を選んだのには訳がある。デルは毛並みがきれいで見栄えが良い。第一印象で多くのファンを獲得できそうだ。ゼッターは好奇心旺盛で最も活動的だ。きっと配信のネタに困ることは無いだろう。

 初配信で多くの視聴者の心をつかんでやる!

 勇んだ気持ちで選び抜いた木にカメラを設置し、いつでも配信を行える用意をした。


 スマホでは配信のコメント欄を見ることが出来るように設定しておく。

 こうすれば、配信しながらコメントを見ることができる。見に来てくれた人たちとの反応をダイレクトで知ることが出来るのだ。

 初配信にどのくらいの人が見に来てくれるかは分からないが、上手く見つけてもらえれば一気に爆発するだろう。なんせ外の世界で俺は有名人らしいからな。


 後はカメラ上部のボタンを押すだけで配信を開始できる。


「みんな、準備はいいか? 今から配信を始めるぞ~」

「「ウォ~~~~ン!!!」」

「よし、それじゃ始めるか」


 デルとゼッターはカメラの前で礼儀正しく座らせている。やはり最初は自己紹介からが鉄板だ。そのためにしばらく2匹には大人しくしておいてもらおう。

 カメラ上部のボタンを押し、配信を開始させた。


「これでいいのかな」


 配信が開始されるとカメラの一部が赤色に点滅し始めた。緊張する。なんせ生まれて初めての挑戦なのだ。

 配信を始めるとすぐに同時接続者数(同接)は8人になった。初めての配信でこれはかなり良いスタートなのではないだろうか。後は配信中に上手く見つけてもらうだけだ。


 チャンネル名は『ダンジョン生活ch』にしている。運営方針自体が珍しいのだ。変にこだわらず、ストレートなチャンネル名の方がわかりやすく伝わってくれるだろう。


「どうも! ダンジョン生活chの太木です! この度、ダンジョンで魔物たちと暮らすことになりました! 皆さんにもぜひ、魔物たちの可愛さやダンジョン生活の面白さを知ってほしいと思います!」


 初めに自己紹介と配信理由を話してみた。

 すると、始めたときは10人ほどだった同接もいつの間にか1000人ほどにまで膨れ上がっている。今も増え続けているようだ。


 恐らく上手く行ったのだろう。後は俺たちの手腕次第だ。

 俺はスマホで配信のコメントを確認してみた。


:え、魔物がいっぱいいる!!!

:危ないよ!

:待ってこの人ニュースで見たことあるぞ

:CGだよな?

:おいおい、なんでこいつは魔物に襲われないんだ?

:スリスリしてる狼みたいなのがいるんだけど、魔物って狂暴じゃないの?

:ラスボスニキや!


 配信のコメントには、様々な反応が寄せられていた。俺を心配する声がいくつかあったが、それらのコメントは今後、俺をうらやましがるコメントに代わって行くことだろう。

 これ以上ダンジョンに変な虫が寄り付かないようにするためにも、こいつらの可愛さと戦うことの無意味さを見せつけていかなくては。


 次に黒狼の紹介をすることにした。


「こいつはデル。勇敢な性格の黒狼なんだ。それにほら、毛並みがきれいで凛々しいのが特徴だ。すごいモフモフだ」


 デルは頭をを撫でられるのが好きだ。撫でながら紹介していると、目を細めて気持ちよさそうな表情を見せてくれた。


:かわいい!

:めっちゃかわいい!

:目細めてる!


 コメント欄の反応は上々だ。次にゼッターを紹介した。


「こっちはゼッター。好奇心旺盛で良く動く」


 ゼッターはさっきから辺りをきょろきょろしている。昨日始めてきた場所だ。探索し足りないのだろう。落ち着きがない姿も愛らしい。


:きょろきょろしてるー!

:こっちも可愛い!

:ゼッターちゃんこっち見て!


 こちらも良い反応が集まっている。初配信ながらかなり良い立ち上がりになったのではないだろうか。しかし、思えば紹介以外に何をやるか決めていなかった。次からはもっと何をやるか練っておこう。

 とりあえず黒狼たちを思いっきり遊ばせてみることにした。魔物が遊んでいるところなんてほとんどお目にかかれないだろう。

 合図を出した途端ゼッターが勢いよく走り出した。それを追いかけるようにデルも走り出した。

 2匹の黒狼が草原を走り回っている姿は中々に絵になる。


:なんか走り回ってる姿だけ見ると普通のワンちゃんみたい

:速度えげつないけどなw

:どうやって仲良くなったん?

:普段ダンジョン内に滝あるの良いな

:可愛いかもしれない


 俺もコメントに返答してみることにした。


「えーっと、どうやって仲良くなったのか、ね。んー、難しいなぁ。自然と仲良くなれた感じだよ」


:実は魔物って皆人懐っこいの?


「どうだろう。すべての魔物が受け入れてくれるかはわからないから最初は警戒しておくべきかもしれないね。でも警戒しすぎると心を開いてくれないと思うから、仲良くなりたいのなら警戒のし過ぎも良くないと思う」


 黒狼たちと仲良くなれたのは俺の動物に懐かれやすい体質が大きいと思う。他の人たちが俺と同じように仲良くなれるとは限らない。むしろ命を危険にさらす可能性すらあるのだ。最初は警戒して接触を試みてみるべきだろう。


 その後も俺は1時間弱ほど視聴者との会話を楽しんだり、デルとゼッターと戯れたりして時間を過ごしたところで、配信を閉じることにした。

 初配信にしては良い出来だったのではないかと思う。


「それじゃあ、今日はこれで終わるよ。これからも配信をしていくと思うから、ぜひチャンネル登録といいねをよろしくな。それじゃ、またな~」


 初めての配信だったが、予想以上に楽しかった。

 俺のチャンネルを機に魔物に対してのイメージが改善されるとうれしい。狂暴な魔物もいるかもしれないが、俺とこいつらのように共存できる魔物も確かにいるのだ。


「デルとゼッターもお疲れ様」


 俺と一緒に配信を頑張ってくれた2匹を撫でた。2匹とも荒く息をしながら尻尾を大きく振っている。まるでもっと褒めて! と言っているようだ。

 配信が成功したのもこの子たちのおかげだ。今は思いっきり誉めることにしよう。


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