第28話 新たな装備と頼み事
いつも通り目覚め、朝食をとる。そんな何も変わらない始まりだったけど、今日は俺たちにとって特別な日だ。
遂に武器が完成する日なんだ。流石に朝から行っても完成していないだろうと思い、昼まで時間を潰していた。
時間を潰すと言っても、ただのんびり過ごすだけじゃもったいないからな。だから、簡単な依頼をこなして小遣い稼ぎみたいなことをしていた。
まぁ、宿代がかさんできたってのもあるけどな。
「ニーナ見て! 大きなキノコ!」
「わぁ……なんですかこれ? 以前の街にはこんなもの生息していませんでしたよ」
ニーナとアリシアは依頼ついでに目新しいものを見つけては2人ではしゃいでいた。
「ねぇセシル〜この依頼結構簡単だね!」
「まぁただ薬草を集めるだけだしな。のんびり過ごせてたまにはいいよなこんなのも」
そう言うとアリシアはこちらを見て、可愛らしく微笑んだ。
「あたしはセシルたちといられればそれだけで楽しいよ。セシル、ずっと一緒にいてね! 強者パーティに誘われてもあたしたちをほっといてそこに行くとかしないでね?」
分かってるはずなのにさ、こんなこと言ってくるなんて可愛いな。
俺がそんな甘言に引っかかるわけない。今まで紡いできた思い出を無下にしてまで、俺は強い奴らと組みたいわけじゃないしな。
「俺がそんなことするわけないだろ? みんな大切な仲間だ、それを見放して甘言に釣られるなんて絶対ありえないよ」
そう伝えると、アリシアはまた微笑んでくれた。
「ニーナお姉ちゃん……これ……集めてきたよ……」
「クラリスさん沢山集めましたね〜、これで依頼は完了ですね!」
クラリスは黙々と依頼品を集めていた。
彼女がいいならそれでいいのだけど、クラリスはあまり俺たちの和に入ってこないんだ。
仲間はずれにしてるみたいで嫌だな……俺は一応このパーティーのまとめ役でもあるんだし、なんとかしないと。
「クラリス、沢山集めてきてくれてありがとうな。帰り道、俺と話しながら帰ろうか」
「話すことないけど……いいよ……セシルお姉ちゃんは面白い人だし……」
そして、帰り道は提案通りクラリスと話しながら帰っていた。
俺が話せば、ニーナやアリシアも話しかけてきてくれた。会話が弾み、自然とクラリスも笑ってくれていた。
暖かく、ほのぼのとしたこの雰囲気――とても心地いい。
今までのような1人で冷たい日々とは違って――本当に毎日が楽しいな。
――そう思っていた時だった。激しい頭痛に襲われ、脳内で幻聴が聞こえてきた。
「嘘だ――嫌――――が――――なんて――」
前世の俺の声……なんだ……?
「知り合いですか――――さんは――その――――」
思い出したくないって本能が言ってる……俺の脳が拒否してるんだ。
でも、大切な――何かだって分かる。前世で思い出深かった何かだ……何だ? 何だっけ……。
「湊……うぅ……」
全く身に覚えのない名前を呟いてしまった。
誰だよ"湊"って。
「セシルさん!? 大丈夫ですか!?」
「セシルお姉ちゃん……辛そう……どうしよう……」
「セシル! 立てる!?」
みんなが心配してくれている。以前もこんなことが起きたな……ニーナと2人きりの時だった。
その時はこんなに酷くなかったのに……なんだよ一体。
「大丈夫……! もう立てるよ……! ごめんな、心配かけて」
「良かったです……! ところで、先程呟いていた言葉はなんですか……? "ミナト"って?」
「分からないな……記憶に無いから、ただ呟いただけなんだと思う。ごめんな、心配かけてさ」
記憶に無いとは言ったが、何故かその"湊"って言葉は――とても懐かしくて、悲しくて、辛い感情を持って呟いていた。
女神に今度聞こう。女神がやらかしてこうなったのか、そもそも俺が転生時に引きずった問題なのか、はっきりさせたいからな。
そして、ハプニングは起きながらもギルドに報告し、時間もいい頃合いなので、シグの店へ武器を受け取りに行った。
*
シグの店に着いたのだが、1人の女の子がシグに絡んでいた。
「ドラゴニュートの女の子ってさ〜強気で可愛いね!」
「うるさい……武器を買うの? 買わないの? 早く決めてくれない?」
「うーん……合いそうな武器は無いや! 他の店に行くよ! じゃあね〜!」
そう言うとその女の子は颯爽と店から出ていった。なんだったんだ、あの子は。
「女の子にナンパされるとかありえない……冒険者って変な人ばっかり……」
シグが独り言を呟いている。俺たちが来たことに気づいていないみたいだ。
恐る恐る話しかけると、シグはしっぽをぴくんとさせてこちらを見てくれた。
「あ、あなたたちか。武器はできたよ、早速渡すね」
そう言ってシグは店の裏から俺たちの武器を持ってきてくれた。
かなり質感がいい、それに結構性能が高そうだ。
「まずはあなたからだね。名前ってニーナだっけ?」
「そうです! ニーナですよ!」
「じゃあこれだね。握ってみて? 今までの杖と違うでしょ?」
ニーナはそう言われ、杖を握っていた。表情から今までの杖とは全く違う感じだというのが読み取れた。
「それ、魔法を強化してくれるように作ったんだ。以前よりも、補助魔法の質が上がるはず。気が向いた時に魔法を使ってみてね」
「わ、分かりましたっ!」
「あと強度も高いから、軽い護身目的で敵を殴りつけたりしても壊れないよ」
そうなんだな。それなら、ニーナも攻撃して戦うってことは少なくともできるはずだ。
「はい、次はエルフの子。アリシアだったよね? 結構この弓作るの大変だったんだよ?」
そう言ってシグはアリシアに弓を渡し、簡単な解説を始めた。
「基礎はヴァートツリーの枝で作って、そこからサラマンダーの鱗をつけていったんだ。おかげでかなり頑丈になったよ」
「確かに……! これなら前の弓より矢を放ちやすそう!」
「やっぱりそうだったんだ。壊さないように手加減して矢を放ってたんだね。でも、新しい弓は手加減なんていらないから安心して? どんなに雑に扱ってもへし折れたりしないよ」
新しい弓を貰ったアリシアはかなり嬉しそうだった。
さて、最後は俺の剣だ。どんな風に生まれ変わってくれたのか、かなり楽しみだ。
「最後はセシルの剣だね。まぁそんなに弄ってないから安心して」
そう言われ、俺はシグから剣を受け取った。以前の剣と風貌はあまり変わらなかった。
強いて言うのであれば、若干剣身の艶が良くなって、柄の材質が変わっているように見えるくらいだろうか。
「もっと変わるものだと思っていたんだけど、元と変わりすぎない見た目にしてくれたんだな」
「だってそうしないと文句言うでしょ? 『大切な思い出の剣なのに』とか、そういうこと言われたくないからね」
もう少しオブラートに包んでものを言えないのだろうか? でも、ちゃんと強化してくれたんだしそこは割り切るとしよう。
「ちなみに具体的にはどんなふうに強化してくれたんだ?」
俺がそう聞くと、何だか軽く微笑んで説明を始めた。
――多分、こういうのを説明するのが好きなんだろうな。
「君の剣を見ていたらあることに気づいてね。結構乱暴に扱う癖があるみたいで、かなり刃こぼれしていたし、柄も一度折っているみたいだった」
完全にお見通しだったみたいだ。
「だから、まずは鉱石を使って剣身を強化したよ。かなり頑丈にして、切れ味もかなり切れるようにしておいたから」
切れ味の強化か、正直剣をあまり使ってこなかったから、切れ味が落ちているとか分かっていなかったんだよな。
「次に柄も強化しておいたからね。鉱石とサラマンダーの鱗を使って、かなり頑丈にしておいた。おかげでかなり重くなっちゃったけど、多分大丈夫だと思うよ」
どれくらい重くなったのか気になったため、俺はシグから剣を受け取ったのだが――――全く重さを感じない。
シグが嘘をついたとかじゃなくて、多分俺の能力がおかしいからなんだよな……普通ならこんなのを軽々と持つ女の子なんていないだろうし。
「うわ……やっぱり軽々と持ってる。それ、重さ的に鍛えててもそんなに軽々と片手で持てる物じゃないよ」
『うわ……』ってなんだよ……まぁ引くのは分かる。こんなの持ってる女の子って正直びっくりするよな。
相変わらずシグの態度は癖があったが、無事に武器も受け取れ、今日やることはこれで終わってしまった。
依頼もこなして武器も受け取って、気づいたらもう夕方だ。
いつも通り宿でのんびりと過ごしていたのだが、俺は思いついたことがあった。
ちょうどいいし、アランに稽古でもつけてもらおうかなと思ったんだ。
だけど、なかなかアランが現れてくれない。それもあってか、気づけばもう寝る時間だった。
明日お願いすることになるのかなと、そう考えている時だった。
ふとアランが現れ、クラリスのそばで何かをしていた。俺はチャンスと考え、アランの所へと向かっていった。
「クラリス……今度は絶対に守るからな……私の大切なクラリス……」
クラリスの頭を撫でながら呟いていた。聞いていると何故か悲しい気持ちになってしまう。
アランの過去を知っているから余計に悲しくなるんだろうな。
「アラン、ちょっといいかな?」
俺が話しかけると、アランはこちらを向いてくれた。
「セシル、どうしたのだ? 何か頼み事か?」
俺はアランに稽古をつけて欲しいと伝えた。しばらく考えた後に、アランはこのお願いを承諾してくれた。
「セシル、貴公は少し教えればあっという間に様になりそうな気がするな。まぁ、実際にそうかは明日からの稽古で見極めさせてもらおう」
「ガッカリさせないように頑張るよ。じゃあまた明日なアラン」
「ああ、ゆっくり休め。夜更かしは体に悪いからな」
アランとそう会話をし、俺は再びベッドへ横たわった。
明日から稽古が始まるんだ。精一杯頑張って、早く力を使いこなせるようにならないとな。
――近いうちに、またウィルとも戦うことになりそうだしな。
そう考えながら、俺は眠りについた。
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