第27話 新しい服探し
何か騒がしい……何だろう?
俺は目を開けた――そこには、見覚えのある奴がいたんだ。
夢の中なのは雰囲気で分かるが、なぜそいつが俺の夢の中にいるのかが分からなかった。
「夢の中にまで出てきてなんだ? リリーだよなお前」
「あーっ繋がったんだ! そうだよぉ……ちょっと伝えたいことがあってさ! 契約の印を通じて夢の中でお話しようかなって」
リリーに付けられたこの印……こんな所で使われるなんてな。
まぁいい、俺はもうリリーを危険視していないからな。
だから、大人しく話を聞くことにした。
「殺しを依頼してきた奴が、キミが生きてることを知ったみたいだよ〜、そろそろボクたちにまた依頼を出すはず」
「勘弁してくれよ……なぁ、お前は契約を守るんだよな?」
「うん、ボクは守るよ〜でも、ウィルは殺しにくるかもね〜」
そうと来たらのんびりしてられない。早めに稽古をつけてもらって、再戦に備えないと。
「ただ、まだ時間はあるはず。キミがどこにいるのかは特定されてないからね〜。でも、そうのんびりしない方がいいよ」
「分かってる。悪いけど、次はウィルを返り討ちにしてやるからな」
「いいね! それ見てみたいかも〜! ウィルが負けるなんてなかったからね〜! じゃあ、また連絡するね!」
リリーそう言い、蒸気のように消えていった。同時に、俺も夢から覚め始めていた。
鳥のさえずり、瞼越しに感じる日光――朝だ、目覚めないと。
俺はそう思い、体を起こして目覚めた。
「セシルさんおはようございます! 今日は買い物ですよ!」
相変わらずニーナは早起きだ。寝ぼけていないのが少し残念だけどな。
「そうだったな。えっと、ニーナの服を着るんだっけ……? なるべく汚さないように気をつけるからな」
そう言い、俺は着替え始めた。
全く落ち着かない、ニーナの匂いが鼻にかかる。華やかな香りで、とても優しい感じがする。
袖に腕を通し、スカートを履き――1つずつニーナと一体化するような、そんな感覚に包まれ始めた。
白を基調としたニーナの服装を身にまとい、俺は赤面しながら鏡を見た。
――髪型を変えたらニーナに近づけそうだ。
何を考えているんだろう、俺は――おかしくなっているのかな?
「わぁ……なんだか魅力的です……! セシルさんってやはり何を着ても似合いますね!」
「そ、そうかな? 俺は落ち着かないよ……早く新しい服に着替えたいな」
そうニーナと会話していると、アリシアが悲鳴をあげて起きてきた。
「いたた……なんで叩くのアラン」
「貴公……寝相の悪さを利用してクラリスの胸を触ったな!? 許さん……! 無礼者めが!」
「アランやめてよ……私は……気にしてないよ……?」
朝から賑やかだな。どうやら、アリシアの寝相で小さな問題が起きたらしい。
「アリシア、そろそろ寝相直せよな」
「うーん……無理だと思うなぁ。セシルだって寝言激しいんだよ? 昨日ずっと『ニーナ』って呟いてたじゃん」
え……そうなのか?
俺はその言葉を聞き、かなり恥ずかしくなってしまった。
ふとニーナの方を向くと、笑顔で俺の方を見ている――やめてくれ……その表情は俺に刺さる。
「アラン……! 剣を抜いちゃダメ……!」
「アリシア、貴公中身は男だな? 女に化けて我らに紛れ、卑猥な行為をして楽しんでいるのだろう!?」
「ち、違うって! あたしは女の子! ほら見てよ!」
中身が男……うっ、それは俺なんだよな。
アリシアに対して言ったはずの言葉が、俺に対して刺さってきた。
「アラン……お願い……アリシアお姉ちゃんは悪くないから……怒らないで……」
クラリスが必死になってアランをなだめていた。アランは激怒しているというわけではなかったが、怒っていることには変わりない。
俺もクラリスに加勢するように、アランをなだめ始めた。
「ま、まぁまぁ2人とも! 落ち着こうよ、今日は買い物だろ? 朝から喧嘩なんてやめよう」
「セシルの方がよっぽど女らしいぞ。寝相は特にな。アリシア、もう少し振る舞いを考えるんだな。あと、クラリスと一緒に寝るのはもう禁止だ」
「むぅ……じゃああたしニーナと寝るから! ふんっ!」
なんだよ全く……女らしいとか……俺は男だぞ? そんなわけない。
確かに振る舞いは意識して性別から逸脱しないようには心がけているが、根本がまだ男なんだしな。
まぁ、朝から小さなハプニングが起きながらも、俺たちは予定通り服屋へ向かっていった。
*
「何かニーナが2人いるみたい!」
アリシアは俺の服装を見てこういうことを言ってくる。余計に恥ずかしくなるからやめて欲しいんだけどな。
そして、服屋に着き、扉を開けて店内へと入っていった。
そこには見るからに服屋という感じで、様々な服が立ち並び、おしゃれな雰囲気を醸し出していた。
「店員さんいませんね?」
ニーナは店員を探していた。恐らく、クリーニングの依頼をするためだろう。
そうこうしているうちに、店員がこちらへとやって来ていた。
「ふぁ……朝から可愛らしいお客さんたちが来ましたね〜むにゃ……ごめんなさい、昨日はクリーニングが多く、徹夜してしまいまして」
眠そうな店員だった。
ニーナは早速要件を伝えると、汚れきった俺の服を渡していた。
どうやらこの程度なら魔法を使いつつ手を加えれば数時間で終わるらしい。
その間に、服を選んでいて欲しいとのことだった。
「こんなにあると迷いますね〜セシルさんはどんな服がいいですか?」
「そうだな、落ち着いていて目立ちにくい服かな。シンプルなデザインならなおいいよ」
前世でもそういう服を好んでいたからか、転生後もそういう装いをしたかったのだろう。
ニーナやアリシアは意外そうな表情をしながら、服を選んでくれていた。
俺もなにか選ぼう。そう思っていた時だった。
「セシルお姉ちゃん……これ着てみて……」
クラリスが渡してきたのは、ゴシック調の服だった。
似合うわけないし、俺が求めていたものではない。断りたかったが……俺にはそんなのできなかった。
言われた通りに試着室へ行き、服を着てみたんだが……。
「クラリス……似合わないって。うぅ、フリフリが多いな……」
「可愛いよ……セシルお姉ちゃんって……こういう服も似合うね……ふふっ……お人形さんみたい……」
褒められているのだろうが、悪いけどこの服は却下だ。
俺は試着を終え、服探しの続きをしていた。
「この服はどうでしょうか? あっ、これも良さそうです! セシルさん、2着試着してください!」
服選びに盛り上がっているニーナから2着受け取り、早速着始めた。
1着目は――黒を基調とした服だ。それにフードが――――これって修道女が着るやつじゃ?
俺はニーナに確認を取るために、試着室から出て話しかけたのだが――。
「わぁ……! 私の予想通りですっ! 似合ってますよシスター服!」
やっぱりな……単に着せたかっただけだろう。
「セシルさんのその銀髪……透き通るような赤い瞳……そしてその清楚な服装……! 全てがマッチして、素晴らしい雰囲気を――」
「ニーナ、分かったから……! とりあえずこれは無し! 次の服を着てくるからな!」
俺は着せ替え人形じゃないっていうのにな……そんなに可愛くないだろ……ニーナたちの方がよっぽど――。
待てよ……? "可愛くないだろ"って……おいおい、なんで可愛いかそうでないかで考えてるんだ?
俺は――男なんだ……可愛いなんて言われても……いやでも……今なら可愛いって言われる方が……あれ? なんだ? よく分からなくなってきた……。
そんなことを考えながらも、俺は2着目の服を着ていった。
露出は少なく、シンプルなデザインだ。
上は黒、下はベージュと目立ちすぎない色合いで、大人しめだからか、着ていても恥ずかしくない。
むしろ、このまま出かけてみたいと思えるような、そんな俺好みの服だった。
「どうだニーナ?」
なんだか嬉しそうな雰囲気で話しかけてしまった。
「わぁ……! 可愛らしいです……! 皆さん来てください!」
ニーナがそう言うと、みんながこちらに集まってきた。
アリシアも服を選んでいたみたいで、その服を持ってきたのだが――露出が高そうだから、着る前から却下なのは分かりきっていた。
「セシルお姉ちゃん……本当にお姉ちゃんみたいな雰囲気……!」
「可愛いなぁ……ふへへ……このセシルも悪くないね……!」
可愛いなんて…………嬉しいな。
あぁ、もういいや――自分に正直になろう。今の俺は女の子だ、中身は男だけど――正真正銘の女の子だ。
だから、可愛いなんて言われて嬉しいのは当然だ。もちろん、かっこいいと言われるのも嬉しいけど、今なら――可愛いの方が嬉しいんだ。
そう自分に言い聞かせ、素直に笑顔を出すことが出来た。
とりあえず、この服を買っておこう。そう思った瞬間だった。
「クリーニング終わりましたよ〜! そうだ、この服を1着しか持っていないのでしたら、複製致しましょうか?」
気の利いたことも提案してきてくれた。
金銭面の問題はしばらく大丈夫だろうから、俺はその提案を受け入れた。
クリーニング代、服代、そして複製代と結構かかってしまったけど、楽しい時間を過ごせた。
綺麗になった服と、そこから複製した俺の予備の服を受け取った。
そして――新しい私服は、もちろん着たままだ。
俺たちは店を後にし、談笑しながら宿へと戻っていった。
*
「セシルさん、服も買えましたし、予備も手に入りましたし、いい時間を過ごせましたね!」
「そうだな。それにこの服、なんだか着心地いいんだ。しばらく何も無い日はこれを着ていこうかな」
「セシルって露出少ないのを好むよね〜、あたしは肌綺麗なんだし、もう少し見せてもいいと思うんだけどな」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、まだそういう服には慣れてないかな。
まぁ、もう少ししたら次第に慣れ始めるはずだ。なんだか、そんな気がするからさ。
「残りの時間はゆっくりと過ごそうか! 明日には武器も完成してるだろうし、楽しみだな」
そう言うと、ニーナとアリシアは微笑みながら頷いてくれた。
クラリスも、武器に関しては関係ないものの、なんだか嬉しそうな表情をしていた。
久しぶりにのんびりとした1日を過ごせた。俺は、今日の出来事をぼんやりと思い浮かべながら、有意義な残り時間を過ごしていった。
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