第24話 鉱石採掘
アランとの話も終わり、俺たちは宿屋へと戻っていった。
俺がいない間、どうやらニーナたちは仲良く話に花を咲かせていたみたいだった。
いわゆる”ガールズトーク”ってやつだと思う。学生時代、俺が男友達と男同士だからできる話をしていたのと同じ感じだろう。
俺も今は女の子だけど……元が男だからかこういう会話には入り込めそうにない。
話の輪に入りたいとは思うけど、こういう花園に特殊な女の子が入り込むのは気が引けてしまう。
「あっ! セシルさん戻ってきたんですね! 2人だけの時間は有意義なものになりましたか?」
「うん、大分いい時間を過ごせたよ。ところで今日も素材を取りに行くんだけどさ、今日は鉱石にしないか?」
アランという心強い仲間もいるし、俺もいる。だから、2日連続で討伐しに行くのもいいんだが、今までしてこなかった採掘をしてみたいという気持ちがあった。
気分転換だろうな。いくら余裕で倒せるとはいえ、討伐ばかりじゃ気が滅入るだろう。
楽しく話しながら素材集めも久しぶりにしてみたい。今思えば、転生したての頃にやったきりそういうのはやっていないからな。
「採掘ですか~いいですね! 初めてやりますし楽しそうです!」
「あたしも初めてやるな~! 今までずっと森にいたからそういうことする機会とかなかったし!」
ニーナとアリシアは賛成みたいだ。クラリスも特に反対する様子は見せず、俺の提案通り鉱石採掘をすることになった。
鉱石採掘にはこの世界にも何か道具が必要なのだろうかと思ったため、採掘場所へ向かう前にとシグに話を聞きに行った。
話によると、やっぱり道具は必要らしい。「そんなことも知らなかったの?」と嫌味を言われたが、彼女は俺たちにツルハシを売ってくれた。
口は悪いが、性格も比例して悪いわけじゃないらしい。なんだか可愛らしい子だ。
目的の鉱石が採れる場所は街から少し離れた山にあるみたいだった。
さほど遠い距離でもないため、俺たちは徒歩で向かっていった。
*
目的の山は森があるような山ではなく、ほぼ岩でできているような山だった。山に着くと、早速鉱石探しが始まった。軽く知っている程度だが、こういうのは岩場にあるんだよな?
だから、よさそうな岩場を探していた。しばらく探していたが、直感的によさそうな所があったため、そこで採掘することにした。
「えーっと、岩に振り下ろせばいいのか?」
「確かそうですけど……壊さないように気を付けてくださいよ?」
「大丈夫だって、加減できるんだからさ」
そうニーナに告げ、岩に向かってツルハシを振り下ろした。
ガキンといった大きな音を立て、岩は……粉々になってしまった。
それに、所々綺麗な色の欠片が散らばっていた。きっと鉱石ごと粉々にしてしまったのだろう。
「セ、セシル凄いね……あはは……岩が粉々になって……」
アリシアは結構引いていた。
「壊さないようにって言いましたのに……」
ニーナは呆れ顔で俺を見ていた。しょうがないだろ……女神がこんな力をくれたんだからさ。
「セシルお姉ちゃんやりすぎ……アランが見たら笑いそうだね……」
3人にこんな反応をされたら流石に恥ずかしくなってくる。
次は失敗しないようにと俺は意識を固めた。
「つ、次はもう少し加減してみるよ。多分大丈夫だ」
そういって俺はもう一度ツルハシを振り下ろした。さっきよりもかなり力を抜いてやったんだが、また壊れてしまった。
でも、今回は粉々になったわけじゃない。何個か使えそうな鉱石は採掘できたんだ。
「セシルさん、私たちにもやらせてくれませんか? みんなでやれば効率よく集められますよ」
そうニーナが提案してきたため、俺はその提案に乗った。
ニーナたちの分までツルハシは買っておいたため、それらを持って俺と同じように採掘を始めた。
「お……重いです……ツルハシってこんなに重いのですか?」
「ニーナ鍛錬が足らないんじゃない~? ほら、あたしは普通に持てるよ!」
「あう……私だってできますから!」
仲睦まじい様子が繰り広げられている。クラリスもやってみようとしているが、持ち上げることすらできていないみたいだった。
ニーナとアリシアは見よう見まねで採掘を始め、クラリスはそれを眺めていた。
ずっと見ていたいけど、サボるわけにはいかない。俺も採掘を再開していったんだが……いい感じの鉱石が全く採れない。
というか、4回に1回採れればいいくらいだ。大体粉々になってしまっていた。
「わぁ……! これが鉱石ですか? 綺麗ですね!」
「装飾品に使えそうだね! そうだ、何個か余分に持っていって装飾品も作ってもらおっか!」
「いいですね! そのためにはもっと採らなければなりませんね!」
装飾品か。ネックレスとかかな?
確かにこの鉱石は綺麗だし、そういうのにも使えそうだった。
ただ……そうなると俺みたいな効率の悪い奴は足を引っ張りそうだ。限られた時間の中でたくさん集めないといけないからな。
「アリシアさん凄いですね~綺麗に採掘できています」
「えへへ、結構器用なんだよね」
「お姉ちゃんたち凄いね……私……足でまといだね……」
クラリスが羨ましそうにニーナたちを見ていた。
すると、なぜか俺の方に向かってきたんだ。
「セシルお姉ちゃん……私もやりたい……手伝って……」
なぜ俺に? そう思って理由を聞いたら、力持ちだから採掘の際に手を貸してくれるかもしれないからといった理由だった。
こんな可愛らしい子にお願いされて、断る理由なんてない。
俺はクラリスの腕を支えたり、振り下ろす際に力添えをしてあげたりと、2人で協力しながらやっていた。
クラリスの体に負担をかけないようにと気をつけているからだろうか? 岩ごと鉱石を破壊することがなくなったんだ。
こういう感覚でやればものを壊さずに済むってことか。
俺はその感覚を体に覚えさせつつも、クラリスと一緒に採掘をしていた。
「綺麗な鉱石……いくらで売れるのかな……」
「えっと……あまりお金のことは考える年齢じゃないだろ?」
「お金は大切でしょ……? セシルお姉ちゃんはいらないの……?」
クラリスは今までアランと2人で過ごしていたのもあってか、恐らく同年代の子より感性が変わっている気がする。
まぁでも、そういう子がいても別に嫌じゃない。いざという時、適切な意見を出してくれたりするからな。
「でも……綺麗だから……あまり売りたくない……綺麗なものは好きだから……」
綺麗なものか……俺も好きだな。
例えば宝石とか、花とか……そういうのを見ると心が落ち着くんだ。
俺はそう思いながら、クラリスと一緒に鉱石を手にして見ていた。
引き込まれるな……ライトブルーの鉱石……まるでニーナの瞳みたいだ。
ライトブルーという色は、俺にとってはニーナの瞳の色という認識で固まっていた。
だから、こんなことを思ってしまったのだろうか。
「セシルさ〜ん! こっちはだいぶ集まりました!」
そんなことを思っていたらニーナが話しかけてくれた。
こっちもクラリスと一緒に集めることになってから、岩ごと破壊することもなくなった。
それもあって、結構集められていた。
「こっちもだいぶ集まったよ。そろそろ街に戻るか?」
俺は鉱石を手に取りながら、ニーナにそう伝えた。
「そうですね、そろそろ戻りましょうか!」
その言葉を受けて、俺たちは街に戻ることにした。
帰り道、結構足場が悪いこともあってか落ちてしまわないか心配だったが、今のところは何も起きていない。
このまま平和に街に帰りますようにと、俺は心の中で祈っていたのだが――。
「あっ……いやっ……!」
クラリスが足を踏み外し、落ちそうになっていた。
まずい、ここから落ちてしまったら大怪我じゃすまない。
アランが助けてはくれるだろうが、そんなのを待っている時間はない。
俺は咄嗟にそう考え、すぐさまクラリスの手を掴んだ。
か弱く細い手をしっかりと掴む、決して離すことがないようにしっかりと。
「セシルお姉ちゃん……助けて……!」
「クラリス、落ち着け! 絶対に助けるからな! ほら、しっかり俺の手を掴んでおいてくれ!」
そう言ってクラリスを安心させる。こんな言葉、気休め程度だが、何も言わないよりは絶対にいい。
俺はクラリスに言葉をかけたあと、軽々とクラリスを引き上げた。
「怖かった……えぐっ……死んじゃうかと思ったよ……」
死の恐怖はこういう幼い子にはあまりにも大きなものだろう。
クラリスは引き上げたあと、少しだけだが泣き始めてしまった。
「クラリスさん、お怪我はありませんか? もし少しでも怪我をしてましたら、治してあげますからね?」
「ニーナお姉ちゃん……大丈夫……ぐすん……セシルお姉ちゃんがすぐに助けてくれたから……」
ニーナがクラリスを落ち着かせようとしていた。
どうやら、怪我はなかったみたいだ。咄嗟に動けて本当によかった。
「クラリス、あたしがおぶってあげる。そうしたらもうこんなこと起きないでしょ?」
アリシアはクラリスをおんぶしてあげるみたいだった。
2人とも本当に他人思いだな。俺はこの2人の性格に感謝していた。
クラリスも、2人に心配してもらってだいぶ落ち着いたのだろう。次第に泣き止んでいき、再び街への帰路へつくことにした。
*
街へ戻り、シグに今回の素材を渡したのだが……「集めすぎ」と言われてしまった。
でも、余った分は他のことに使えるから別に問題はないらしい。
そして宿へと戻ろうと武器屋を出る時だった。
「その女の子、さっきからあなたにくっついてるね」
「え?」
そうシグに言われたため、ふとそばを見ると――――。
「セシルお姉ちゃん……どうしてこっちを見るの……?」
クラリスがくっついてきていた。なんでだ……?
まさか、命を救ったからか? 危ない人を助けるなんて誰だってやる。別に気に入られるほどのことではないはず。
「ク、クラリスちょっと離れてもらえないかな?」
「…………やだ……セシルお姉ちゃんと一緒がいい……」
参ったな、多分これからこんな感じになるんだろうな。
「ふーん、小さな女の子を手中に収めるなんてやり手だね」
「シグ……! そういう言い方するなって……!」
「ふふっ……だってそうでしょ? 何か間違ってる?」
シグ……おちょくるのも大概にしてくれ。
俺はそんなことを言われつつも、クラリスを引き剥がすことはせず武器屋を出ていった。
「クラリスさんに気に入られましたねセシルさん!」
「ま、まぁ嫌な気分ではないしいいかな……あはは」
「いいな〜あたしもクラリスとくっつきた〜い」
アリシアがそういうと、今度はアリシアの方へとクラリスは向かっていった。
「アリシアお姉ちゃんも……好きだよ……みんな……大切な仲間だし……好きなのは当然……」
「クラリスは可愛いなぁ……ふふっ……妹ができた感じがしていいね!」
「そうだな、みんなの妹って感じだ」
クラリスはみんなの癒しになりそうだな。
俺はそんなことを考えながら、ほのぼのとした雰囲気を出しながら宿へと向かっていった。
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