第22話 不思議な少女②
気づいた時には、甲冑の人物は勢いよくヴァートツリーに斬りかかっていた。
「グゴォッ!?」
そして、怯んだ隙を見て連続して斬撃を食らわせた。あんなに手強かったヴァートツリーが一瞬にして葬られてしまったんだ。
その後、甲冑の人物は俺の方を見て話しかけてきた。
「気を付けて戦え。複数の可能性を考慮して立ち回るんだな」
中性的な声で俺に話しかけてきた。声色から、説教に近いものを感じてしまった。
「それに、魔法の質は高いものの全く活かせていない。行き当たりばったりの戦い方だな。実力が足らないんじゃないか?」
「……っ!」
「それにその剣は飾りか? 使わないということは武術に自信がないと見える。鍛錬をサボったか?」
甲冑の人物は俺にそんなことを言うと、クラリスのもとに行き何やら話をしていた。
まさか……あの人がクラリスの言っていた"アラン"なのか?
俺はそんなことを考えつつも、剥ぎ取りを行っていた。その際も、謎の人物とクラリスは楽しそうに話していた。
所々会話が聞こえてくるが、どうやらあの人物はアランで間違いないみたいだ。
あのアランと思われる人物についてクラリスに聞きたかったのだが、ここで話すのは危険だ。だから街に戻ってから聞くことにした。
そして、討伐証明用の素材と、武器の素材の両方を剥ぎ取り俺たちはギルドへ報告しに行った。
*
無事に報告も終わり、クラリスとはここでお別れになるはずだったが……。
「お姉ちゃんたち……もう少し一緒に話さない……? 名前も教えて……せっかく出会った……優しい人たちだし……」
クラリスが引き止めてきた。話したいと言うならば、喜んで付き合ってあげよう。
俺たちはまず簡単な自己紹介から始めていった。
「セシルに……ニーナ……アリシア……うん……覚えた……」
「クラリス、ずっと1人だったのか? いや……2人かな?」
「そうだよ……アランと一緒に……色んな所行ったの……」
「そうか、俺たちとの依頼はどうだった?」
とりあえず今回の依頼の感想を聞いてみることにした。
「まぁ……楽しかったかな……私に……攻撃が飛んできた時は……怖かったけど……。あと……自分のこと”俺”って言ってるの……面白かったよ……」
「あはは……昔からこの一人称だからさ……はは……」
面白かったとか言われてしまった。それもそうか、女の子なのに一人称が"俺"って珍しいからな。
まぁ……事情が事情だから仕方ない。直すつもりはないしな……嫌な印象を与えていないなら別に大丈夫だろう。
それにしてもこの子……ちょっと歳の割には元気がないって言うか……なんだろう、過去に何かあったのか?
「クラリスさん、その……アランという方ってもしかして幽霊とかですか?」
「幽霊じゃないよ……! 友達……! 照れ屋だから……普段は姿を見せないの……!」
「そ、そうですか! ………………幽霊ですね多分」
ニーナは何かを察しているみたいだった。
幽霊か……取り憑かれているとかいう様子でもないし、本当に仲のいい友達なのかもな。
友人が人間とかそういうのじゃないといけないみたいな決まりはない。どんな形であれ、仲良しならそれでいいよな。
…………友人……あいつは元気にしてるかな。
「アリシア……元気だよね……羨ましい……。そうだ……耳触っていい……?」
「いいよ! 満足するまで触ってね!」
その後、クラリスは少しだけ楽しそうにアリシアの耳を触っていた。
エルフの特徴的な耳は、こういう子にとっては珍しくて面白いものなんだろうな。
そんな感じで、俺たちはクラリスと楽しく話していたが……突然クラリスが1人で会話を始めた。
恐らくアランと話しているのだろう。そろそろ別れるとかそういう話の内容だった。
「お別れだね……」
クラリスがそういうと、ニーナがあることを言ってきた。
「…………セシルさん、一緒に暮らしてもいいですかね?」
ニーナが耳打ちをしてきた。俺は特に断る理由もなかったため、その案を承諾した。
次にアリシアにも耳打ちをしていたが、アリシアも特に嫌がる素振りは見せなかった。
「クラリスさん、よかったら一緒に暮らしませんか? 別の街に家があるんです。みんな一緒なら楽しいはずですよ!」
ニーナがクラリスを誘っていた。断られなければいいんだけどな。
「いいの……? でもアランが……ちょっと相談するね……」
クラリスがアランと相談を始めた。アランの声は聞こえてこないが、クラリスを責める様子もなく、普通の会話が繰り広げられている感じだった。
「アラン……この人たちはいい人だから……お願い……! みんなと楽しく……過ごしたいの……家族……いないから……」
家族がいない……だからこんなに元気がなさそうな雰囲気なのか。
だったら、俺たちがそばにいてあげるのがいいに決まってる。
だって、誰かが一緒にいることで心が休まることだってあるのだから。
「いいの……? やった……! みんな……一緒に暮らしてもいいって……!」
「本当ですか!? 妹ができたみたいで嬉しいです!」
「これからもっと賑やかになるね!」
なるほど、ニーナがあの提案をしたのはクラリスが妹みたいな雰囲気だったからか。
色々してあげたい、楽しく暮らしたい、寂しい思いをさせたくない。そんな気持ちが、彼女にあの提案をさせるに至ったんだろうな。
そして、クラリスと暮らすことになった俺たちは宿屋に向かっていた。
道中……何故か俺によくくっついてきたんだ。
「クラリス、あのさ……手を繋ぐのは恥ずかしいんだけど」
「ダメ……? ならやめるよ……セシルお姉ちゃん冷たいね……」
「ダメじゃないぞ!? えっと……ちょっと恥ずかしくてさ……」
「なら繋ぐね……」
お姉ちゃんなんて言わないでくれよ……。
ニーナやアリシアは満面の笑みでこちらを見てくる。俺はお姉ちゃんじゃない……その……中身はどっちかというとお兄ちゃんなんだよ。
恥ずかしかったものの、あんなことを言われてしまったら断れない。
俺はクラリスと手を繋ぎ、仲良く歩いていた。
「セシルお姉ちゃん……私の手……冷たくない……?」
「大丈夫だぞ。そういえばクラリスの友達とも話してみたいな」
「アラン……恥ずかしがり屋だから…………あうっ!? んっ……くっ……」
クラリスが突然小さく声を上げ始めた。
「ふぅ、セシルと言ったか? 私は寂しがり屋ではない。ただ、貴公らを警戒しているだけだ」
クラリスの口調が変わった。憑依されたのか……?
「えっと……アラン?」
「そうだが」
憑依されたみたいだ。ニーナとアリシアも驚いてしまっている。
「クラリスに変なことをしようものなら、すぐに貴公らを殺す。気をつけるんだな。それと、私の信頼を早く勝ち取れるように努力したまえ」
「えっ……うん、努力するよ」
「その意気だ。あとニーナ」
「はいっ!」
ニーナは話しかけられた途端、少し驚きながらも返事をした。
「私は霊ではあるが……クラリスに憑りついているわけではない。この子を守っているのだ。勘違いしないようにな?」
「わ、分かりました!」
「くれぐれも祓おうなんて無駄なことはするな。僧侶のような奴ならしてもおかしくないからな」
あんなに緊張しているニーナは初めて見た。
「あとエルフ! アリシアといったな? 貴公、クラリスに一番変なことをしそうだ。気をつけろ? 私はいつも見ているからな」
「し、しないよ……! あたし、そんな見境なしに女の子にちょっかいかける奴じゃないから!」
その後クラリスは元の状態へと戻っていった。
「ごめんね……アランって……たまにこういうことするから……怖かった……?」
「いや、少し驚いただけだよ。ところで、いつから一緒にいるんだ?」
「えっと……1か月くらい前かな……廃城で出会って……私を自由にしてくれたの……」
廃城……アランみたいな幽霊がいてもおかしくない場所だ。
「アラン……あんなこと言ったけど……別にみんなを嫌ってるわけじゃないよ……? 私に危害を加えないか見てるだけ……」
「そうなんだな。それにしても結構威圧感のある人だったな……」
威圧感はあるものの、話はちゃんと通じそうだ。それなら、ちゃんとしていれば信頼してもらえるだろう。
でも俺だけじゃなく、ニーナやアリシアも信頼してもらわないと。
新しい仲間もできたが、新たな課題もできてしまった。でも大丈夫だ、きっとクリアできる。
そう思いながらも、俺たちは歩みを止めずに宿へ向かった。
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