第21話 不思議な少女①

 武器屋を出た後、俺たちはギルドに向かっていった。

 ギルドの中はかなり賑やかで、その様子からどこのギルドも変わらない雰囲気だと実感できた。

 さて、まずはニーナの武器の素材を手に入れよう。

 そう思いメモを見返した。対象の素材は"ヴァートツリー"の枝だ。名前からして木の魔物なんだろう。

 それに枝でいいってことは……かなり巨大な魔物なんだろう。

 俺たちは早速その魔物の依頼を探そうと掲示板を見てる時だった。


「あの……私……ただ登録に……」


「こんな小娘がギルド登録なんて笑わせるなよ! なぁ、そんなことしなくてもいい方法知ってるぜ?」


「小さな子をいじめちゃダメだよ〜? ほら、早くお家に帰りなよ」


「お家……ないけど……私のお家は……分からないから……」


 あまりいい雰囲気じゃない会話が聞こえてきたため、その方向を見ると、1人の小さな女の子が男に絡まれていた。

 それに……仲間であろう女も一緒になってその子にちょっかいをかけていた。


「あの……案内してよ……」


「はぁ? だから帰りなっていってるじゃん。君みたいな子は冒険者になんてなれないよ」


「うぅ……」


 可哀想だ、なんで小さな子をいじめるんだ?

 俺は徐々に苛立ちを覚え始めた。あの子を助けないといけない。そんな気持ちが俺の足取りをあの子の方へと向かわせた。

 だが……向かっている途中に異変が起きた。


「がぁっ……!? なっ……やめてよ……なんで急に首が……!」


「お……おい! 何してんだガキ! てめぇぶん殴って――――ぐぁっ!?」


 女の子を囲んでいた奴らが、勝手に苦しんだり吹き飛ばされたりしていた。

 なんなんだ? パフォーマンスでもなさそうだし……一体何が?

 その様子に呆気に取られていると、女の子は俺たちの方に気がついたみたいだ。


「あっ……優しそうな人だ……あの……ギルド登録したいんだけど……」


「えっと……それなら案内しようか?」


 そう言うと女の子は俺たちの方へ近づいてきた。

 その際にその子の風貌をよく見ると、かなり小さく、薄い紫がかったロングヘアをしている。

 服は結構しっかりとしている。ゴシック系の服装で、肌の露出はほとんどない。

 もしかして、かなり裕福な子なのかもしれないな。


「お姉ちゃんたち……案内して欲しいな……私……何も分からなくて……」


 細々とした声で話してくる。なんだろう、お姉さんって言われるのはちょっと恥ずかしい。

 "お兄さん"とかなら呼ばれ慣れているんだけどな……。

 その後、ギルド登録をさせるために受付に行った。特に問題もなく登録が終わり、そのままあの子は依頼を受けに行った。

 特に時間をかけずに依頼書を持っていき、俺たちに一礼してそのままどこかへ行こうとしていた為、俺は急いで止めた。

 小さな子を1人で依頼に行かせるなんて危ないと思ったからだ。


「私……1人でも大丈夫……」


「大丈夫じゃないよ。それって討伐依頼だろ? もしものことがあったら大変だし、俺たちと一緒に行かないか?」


「うーん……酷いことしないなら……いいよ……?」


「そんなことしないよ。後ろの2人も優しいからさ」


 その会話の後、その子から依頼書を受け取った。

 なんの偶然か、俺たちが探していた魔物の依頼だった。まさかこんな偶然が起きるなんて思ってもいなかったからか、俺は少し驚いた。

 そして、俺たちは対象の魔物がいる場所へと向かっていった。


 *


 道中、その子は俺たちに名前を教えてくれた。

 "クラリス"という名前で、友達に付けてもらったみたいだ。

 どうやら、名前がないまま過ごしてきていたらしい。なんだか訳ありなのだろうか。


「魔物と戦うの楽しみだね……え? 『すぐに倒すから心配するな』って? 分かってるよ……だって……強いもんね……」


 独り言? いや……会話しているようにも聞こえるな。


「クラリスさん、そういえば今まで何されていたんですか?」


 その独り言の後、ニーナがクラリスに話しかけていた。


「私……ずっと街を転々としてた……住む所……なくて……ずっと宿だったよ……」


「大変ですね……幼いのに凄いですねクラリスさん」


「アランと一緒だから……寂しくないし……大変じゃなかったよ……」


「アラン……?」


 初めて聞く名前が出てきて、ニーナは少し疑問に思っていた。


「クラリス! えっと……エルフって見たことある?」


「エルフ……思い出したくない……可哀想だった……」


「な、何を見たのかは聞かないでおくね。えっと……あたしもエルフだからさ、何か聞きたいことあったら教えてね!」


「聞きたいこと……今はないよ……ごめんね……」


 アリシアはさほど人見知りが出ていなかった。

 それどころか、自分がエルフだということをアピールして会話を広げようとしていたんだ。

 恐らく、幼い子だからさほど緊張しなくて済んだんだろうな。

 そうやって会話をしていると、遂に魔物が生息している場所に着いた。

 いつ襲われてもいいように戦闘態勢を取り、魔物を探していた。

 その時だった。


「グゴゴ……」


 1本の木が唸り声を上げて動き出した。

 こいつが"ヴァートツリー"か……! 魔力を吸収して変質した魔物と聞いたが、ここまで大きいとは予想していなかった。

 即座に戦闘を開始しようとしたが、クラリスは木の影に隠れてしまっていた。

 巨大な魔物だから怖いんだろう。俺たちと一緒に行くことになって本当に良かった。

 もし1人なら、為す術なく怪我を負わされていたかもしれないからな。


「アリシア、ニーナ、気を引き締めていくぞ!」


 その言葉の後、2人は返事をして戦闘を開始した。

 今までの魔物とは違い、攻撃がかなり激しかった。それに、物理だけじゃなく魔法も駆使して戦ってきた。

 アリシアが弓矢で攻撃を続けているものの、怯む様子を見せない。

 それどころかニーナを執拗に狙ってくるため、俺もニーナを守り続けなければいけないこともあり、中々攻撃に転じられなかった。

 だが、ようやく隙を見せ始めた。俺は《ゲイルシュレッダー》を放ち、ヴァートツリーの枝を何本か斬り裂いてやった。

 これで勝てる。そう思っていた瞬間だった。


「グゴォッ!」


 ヴァートツリーは俺に向かって魔法で攻撃してきた。咄嗟に《プロティス》で防ぐものの、弾かれた攻撃がクラリスの方へと向かってしまった。


「しまった……!」


 急いで庇おうとするものの、もう魔法はクラリスの元へと到達してしまいそうだ。

 やってしまった……。そんな後悔の念を感じている時だった。

 突如現れた謎の人物が、クラリスに向かっていった魔法を防いだ。

 暗い色の甲冑に身を包み、体からオーラが滲み出ている。

 正直、味方とは思えない風貌の人物だった。だが、そんな人物は今まで近くにいなかったはずだ。咄嗟に助けに来たとしても、一瞬で現れるなんてできるのか?

 

「セシルさん! 何ですかあの人!?」


「分からないよ! とりあえず……味方みたいだけどさ!」


 突然の登場でニーナと俺は慌ててしまっていた。

 とりあえず味方とは言ったが……本当にそうなのかすら怪しいんだ。だってあんな風貌なんだ。昔やってたゲームだったら普通に敵として出てくる感じだしな。


「2人とも、よそ見してないで戦――きゃっ!」


 アリシアに攻撃が当たってしまった。そうだ、今は戦闘中なんだ、余計なことを考えている暇なんてない。


「こいつ……普通に強いよ……! 矢もそろそろ切れそうだし、早めに終わらせないと!」


 アリシアの発言を受け、俺たちは再度戦闘に戻った。

 あの甲冑の人物はクラリスの方に行き何か話している。敵意はなさそうだし、本当に突然現れた味方なのかもしれない。

 ヴァ―トツリーは先ほどのダメージを受けてかなり怒っているみたいだった。最初の頃よりも攻撃が激しい。

 受けるだけじゃなくて、避けて転機を作らないといけない。そんなことは分かっているのになかなかできないんだ。

 そんな防戦一方な俺たちに割り込むように、甲冑の人物が戦いに参加してきた。


「未熟だな。好機も作り出せんか」


 その一言の後、甲冑の人物は素早くヴァ―トツリーに向かっていった。

 

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