第12話 襲撃者

「んん……もう朝か。今日は俺が最初に起きたみたいだな」

 

 珍しく俺が一番に起きたらしい。ニーナもアリシアもまだスヤスヤと寝ている。

 だったら2人が起きてくる前に女神に連絡でも取ってみるかと思っていたのだが。


「んなっ!? アリシア……どんな寝相なんだよ全く……」


 アリシアの方をふと見ると、かなり荒れている様子だった。

 服もはだけてお腹が見えてるし、布団はアリシアの寝相に耐えきれず隣に転がっていた。

 それに、俺の腕を掴んできていた。それも結構ガッシリとだ。


「風邪ひくぞ、アリシア。寝相のこと言った方がいいかな……」


 俺はそう独り言を呟いて、アリシアの服を直し、布団をかけ直してあげた。


「うぅ……うへへ……もっと……ふへへ」


「アリシア……?」


 どんな夢を見ているのかは考えたくなかった。いや、アリシアの寝言で予想はつくんだが……まさかな。

 まだ寝てる2人を背にして、俺は家の外に出た。まだ早朝だからか、周囲に人はいない。

 これなら、連絡を取っても大丈夫だろう。俺はクリスタルに呼びかけてみた。

 少し経ち、クリスタルから女神の声が聞こえてきた。


「あーっ! かん……セシルさん! 久しぶりです〜!」


 今、神崎って言おうとしたよな?

 別にそう呼んでもらっても構わないが、なるべくならセシルって呼んでもらいたいのが本音だ。


「お久しぶりです女神様。あの、ちょっと聞きたいことがありまして」


「あー、指輪ですか? ごめんなさい、私もそれについて話そうと思ってたんですけど問題が起きまして……」


 問題? 一体何が起きたんだろうか?

 俺は少し疑問に思ったので、女神に聞いてみることにした。

 帰ってきた回答は……少し女神の怖い一面が見られるものだった。


「別の世界の転生者がやらかしまして……なんか世界征服するとか言ったんですよね」


「大変ですね……」


「ええ、もう対処がめんどくさかったので、能力を没収して肉体も幼女に無理やり変えました。あと――」


 女神はその後もあの転生者の処罰を話し始めた。どうやら、記憶はそのままにしたらしい。

 強かった頃の記憶のまま、無力な幼女で過ごす転生者の様子を見たかったからそうしたみたいだ。

 神罰で殺すこともできたそうだが……それじゃつまらないとか言い始めて俺は恐怖を感じてきた。

 女神いわく、俺はそんなことをしないと言い切れるから気にしなくていいとは言ってくれたが……正直気になってしまう。


「話が逸れましたね〜本題に戻しましょうか! 指輪の件ですけど、それ絶対に奪われないようにしてくださいね?」


「そのつもりですけど、やはり悪意を持った奴らが狙ってるんでしょうか?」


「ええ、私はこの世界を常に見ているわけではありませんが言いきれます。その指輪、絶対とんでもない奴らが狙いに来ますよ」


 やはり魔王の一部を封じているからだろうか?

 となれば……そういう奴らの狙いは"魔王の復活"もしくは"指輪の力を使って世界征服"と言ったところだろうか?

 俺はこの考えを女神に伝えたが、やはり同じ考えだった。

 だが女神はどうにも引っかかるらしい。この世界には魔王が封印された後はそんな動きをしている奴らは見当たらなかったそうだ。

 だからこそ、もう安全だろうと思い転生者を送る時が来るまで観測をやめたそうだ。

 なんでやめたのか疑問に思ったが、この女神のやることだからツッコまないでおいた。

 その後も女神との話は進んでいった。具体的は、過去、世界に被害をもたらした組織とかの説明などをされた。

 かなりの長話だったようで、気づいたら外がしっかりと明るくなっていた。


「そしてセシルさん、最後に約束してください」


 突然女神が真剣な話し方をしてきたからびっくりした。


「な、なんでしょうか?」


「もし、何かしらの組織が世界を再び闇に染めようとした時、絶対に止めてください。あなたならできるはずです」


 ここに来てこんなことをお願いされるとは思っていなかった。

 だが、嫌だとは絶対に言いたくなかった。確かに大変だろうが、俺が逃げることで多くの人が傷つくのは……正直見たくないからだ。

 だから、俺ははっきり女神に約束した。


「任せてください。平和はみんなにとっての宝物です。だから、それを奪わせるなんてことさせません」


「そう言うと思ってました! やはり私が見込んだだけありますね!」


「見込んだなんて……恥ずかしいのでやめてくださいよ」


 そうやって女神と話している時だった。


「セシルさん! セシルさん! どこへ行かれたんですか!? ま、まさか誘拐!?」


 ニーナの慌てた声が聞こえてくる。起きてきたみたいだ。

 早めに話が終わると思っていたからか、置き手紙なんてしなかった。それが裏目に出てしまったみたいだ。


「お仲間が探していますよ? 早く行った方が良いのでは?」


「そうですね。では何かあればまた連絡します」


 そう言って女神との連絡を終え、俺はニーナの声がする方へ向かっていった。


「ニーナ! ごめんな! ちょっと散歩してただけなんだ」


「セシルさん……心配したんですよ!? 手紙くらい置いてくださいよっ!」


「本当にごめんな……? お、お詫びに俺が朝食を作るからさ」


 そう言うと、ニーナは俺の手を握ってきた。


「今日だけではなく、これから1週間作ってくださいね?」


 1週間か……まぁ大丈夫だよな?


「あと……置いていかないでください」


 手を握られてこんなことを言われたら嫌なんて言えない。それに、上目遣いでこっちを見てくる。

 俺はニーナに約束をして、家に戻って行った。そして、ぎこちない手つきで朝食を作り、いつも通りギルドへ依頼を探しに行った。


 *


 依頼は普通の討伐依頼だ。通行人や動物を捕食し、周りの植物の栄養まで奪うそうだ。

 聞いただけでも害がある魔物だ。名前はブルプラント、植物が魔物化した奴らしい。

 俺たちはその魔物が確認された場所まで着くと、さっそく討伐を開始した。最初は特に苦戦することもなく戦っていたんだが……。


 「わわっ! セシルさん助けてください! 足をつかまれて――えっ? なんで持ち上げ――」


 「あいつニーナを食べる気か!? 待ってろ! 今助けるから!」


 この魔物は思っていたより多くの数が付近に生息しているみたいだった。倒すたびにどんどん増えていくものだからキリがない。

 それに、隙を突かれてニーナやアリシアに攻撃されたりすることもあった。怪我をする前に対処できたからいいが、こういった多数の敵を相手取るときは早めに倒した方がいいな。

 魔法や剣を駆使して、何とか魔物たちを全滅させることができた。さて、次にやることは魔物の一部の採取だな……。


 「えーっと、みんなどうしたの? もしかして剥ぎ取り苦手?」


 「まぁ……そんなところかな。何度か討伐任務をやってきたけど、これだけは未だに慣れないよ」


 俺もニーナも、お互いに剥ぎ取りに対して嫌な表情を見せていたため、アリシアが何か察して話しかけてくれた。

 アリシアは「冒険者なのに不思議だね」みたいな表情をしているが、正直こんなのを表情を変えることなくやるってのは無理がある。


 「まぁあたしがやってあげるよ。今後のことを考えて早めに慣れておくんだよ?」


 そういって、アリシアは剥ぎ取りを始めた。

 結構手馴れているんだろう。俺とニーナでやるより断然早かった。

 そして、剥ぎ取りも終わりギルドへ報告しに街へ戻ろうとした時だった。


「ひぐっ!」


 ニーナが痛みを感じたような声を上げた。


「ニーナ大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄り、ニーナの様子を見た。小さな針がニーナの腕に刺さっていた。

 俺は急いでニーナに刺さっている針を抜き、辺りを警戒した瞬間だった。


「っ! どこから攻撃してきたの!?」


 アリシアにも何かされたみたいだった。ニーナと違い、咄嗟に針を抜き取り辺りを見渡し始めたが――。


「セシル……さん……体が……痺れて……」


「セシル……これ……神経毒だよ……! 気をつけて……!」


 2人が痺れを訴え始めた。ニーナは完全に動けず、アリシアは必死に体を動かし解毒を試みていた。

 この森の中に何か確実にいる。そう確信した瞬間だった。

 俺の首にも、何かが触れた気がした。直ぐに確認したが、刺さってはいない。

 体が頑丈だからか、この程度では皮膚を貫通しないみたいだ。

 俺は無事だ。早く2人を安全な場所に移動させなければと考えている矢先だった。


「おいおい、お前どんな体してんだ?」


 背後から声がしてきた。さっきまでそんな気配はしなかった、まるで瞬間的に現れたかのように思えた。

 後ろを振り向き、声の主を確認した。容姿は人間とは言いがたく、魔物に近かった。

 だが、人語を話し、こちらにコンタクトを取ってくるということは……かなりの知恵を蓄えた奴なんじゃないかと予想できた。


「普通の人よりかは頑丈なんでね。……お前が2人にこんなことをしたのか? なんのためだ? 答えろ!」


 俺は2人に危害を加えたことに対して怒りを覚えていた。正面からやったわけではなく、姑息な手を使ったことも、俺の怒りを助長していた。


「そうだな……まぁ金のためかな? メインはお前の始末だが……この2人も後々のお楽しみに取っておきたくね。だから動けなくさせたのさ」


 ふざけるな……お楽しみだと?

 こいつは今まで戦ってきた奴とは違う。明確な悪意を感じるんだ。こんな奴、放っておくわけにはいかない。

 奴の話を聞き、俺は怒りに身を任せて魔法を放った。


「《ウインド》!」


 森の中なため、炎魔法は避けて風魔法で先制攻撃をした。

 この判断ができるということは、まだ俺は冷静さを保てているということだった。

 だが、瞬時に避けられてしまった。何故だ? いつもは避けられなかったはずなのに。


「へっ……先制攻撃かい? それに大分威力が高いな。予測してなけりゃそのままやられてたな」


 予測されていた。あいつは咄嗟に木の上に上り回避した。それならと、連続で魔法を放っていった。

 《アクアスパウト》、《ウインド》を交互に放つものの、上手く当たらない。

 それに……更に高威力の魔法なんて使えるはずもなかった。ニーナやアリシアを巻き込む恐れがあったからだ。

 俺が一般的な魔力を持っていて、調整も上手くできればそんなこと起きえない。

 魔法の種類も、もう少し認識できているものがあれば臨機応変に戦えるはずなのに。


「くっ……! 攻撃が当たらない! どうしたら……!」


 攻撃して、避けられる。その繰り返しだった。それに、何度も視野外からの攻撃を受け続けていた。

 森の中で素早く動かれていては位置の特定はかなり困難だ。それもあってか咄嗟に避けるなんて今の俺には難しかった。

 頑丈なのもあり、ダメージは最小限に抑えられている。だが、蓄積されないわけじゃないんだ。

 徐々に微かな痛みを感じるようになってきた。だが、奴にいつまでもやられっぱなしというわけにはいかない。

 何度か攻撃を受けるたびに分かってきたことがある。奴は、攻撃をする際に一瞬だが動きが変わるんだ。

 その際に発する音は……若干だが聞き分けることができた。

 集中し、位置を予測した。

 右側から――――まっすぐだ!

 俺は予測した位置に向かって、できる限り周りを巻き込まないようにと意識して《ウインド》を放った。

 強風の音に紛れて、奴の悲鳴が聞こえてきた。予測は的中したみたいだ。

 恐らくダメージを受けつつ吹き飛んだはず。だが、俺はこのまま逃すわけにはいかなかった。

 追撃の為に向かうが――――いない。どこにも見当たらなかった。

 確かに当てたはず。それなのになんでいないんだ?

 そう思いながら辺りを見渡している時だった。


「はぁ……はぁ……なんて奴だ……でもこっちにはまだ……!」


「やめ……て……ください……あぅ……」


 奴の声が聞こえる。それにニーナの声も。まさか!

 嫌な予感がして声の方へ急いで向かっていった。

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