第11話 初めての休日②

 カフェは落ち着いた内装をしており、客も多いわけでもなかった。こういう空間なら初対面の人とも話しやすそうだ。ただ、アリシアは相変わらずな様子だった。


「さてさて、まずは君たちのことを聞かせてもらいたいな! 1人ずつ自己紹介していってよ!」


「わかった。じゃあまずは俺からさせてもらうよ」


 まず俺から自己紹介していった。長く話すのもなんだし、重要なところだけまとめて上手い感じに話した。流石に言えない事情までは言ったりはしなかったな。

 そして、次にニーナ、そしてアリシアと順に自己紹介をした。アリシアなりに頑張ったのだろう。意外とスムーズに話せた様子だった。

 その後は、普通の会話をしていた。レキの話は最近いい依頼がなくて暇だとか、友達が何かと理由をつけて遊んでくれないとかそんな感じの話が多かったな。


「話してみて分かったけど、ニーナってセシルと結構仲がいいみたいだね?」


「そうですか? でも確かにセシルさんは最初に出会った仲間ですからね! 自然とそうなるかもしれません」


「アリシアも、本当はもっと仲良くしたいんでしょ? でもまだなかなか本心を見せられないみたいだね?」


「うぇっ!? なんで分かるの? あ、あたしそんな素振り見せてないのに!」


「隠しきれてないよ? セシル、アリシアと仲良くしてあげてね? 冒険者は命懸けなんだから、仲良くなれないままお別れなんて嫌でしょ?」


 確かにレキの言う通りだった。俺はそう簡単に死にはしないと思うけど、不測の事態がいつ起きるかなんて分からないからな。

 アリシアとはもう少し接してあげないとな。せっかくの仲間だし、みんなと仲良くしたいのもあるからな。


「結構長話しちゃったね。そういえばアリシア、コーヒーは飲まないの? あんまり飲み進めてないみたいだけど」


「あたし……に、苦いのは苦手なんだ。えっと……砂糖とかあればいいんだけど」


「砂糖…………それなら仕方ないね! 好みはそれぞれだし!」


 なんだ今の間は? 別に大したことじゃないからいいんだが、一瞬表情が曇った気がするな。

 まぁ単なる気のせいだろう。俺はあまり気にしないことにした。


「アリシア、代わりに俺が飲むよ。まだ冷めてないし美味しいままだろうからな」


「ごめんねセシル……昔から苦手なんだよね」


 そして、アリシアのコーヒーを飲み干した後、俺たちは別れることにした。

 レキは友達に俺たちのことを教えるらしい。どうやら、その子たちも俺たちに会いたいみたいだった。

 笑顔で去っていくレキを見送り、俺たちも家に戻ることにした。


 *

 

 家に戻った後、俺たちは軽く話をしていた。

 

「うぅ……やっぱりまだ人間には慣れないなぁ……でも頑張らないとね! これからもっとこういう場面は増えてくるし!」


「まぁ無理しなくてもいいと思うぞ? ゆっくり慣れていけばいいよ」


 まだまだアリシアの苦手意識は続きそうだが、そのうち気づいたら平気になってそうだな。だって、俺たちとは大分打ち解けてるんだしな。


「セシルさん、ちょっとお願いがあるのですが……」


「お願い? 何かやりたいことでもあるのか?」


「えっと……今から買った物を仕分けして収納しようと思うのですが、ちょっと量が多くてですね……」


 そういえば今日の買い出しでかなりの量の商品を買っていたな。それも数日は買い出しに行かなくてもいいくらいにだ。

 この量はニーナだけじゃ大変だろうから、俺は快く手伝うことにした。アリシアも同じく手伝うみたいだ。


「ニーナ、野菜ってどこに入れればいいんだ?」


「ここに入れてください! 無理やり入れないでくださいね? 傷ついちゃいますから」


「へぇ〜ニーナこんなのも買ったんだ! 生地って何に使うの?」


「アリシアさんは買った物を見てないで手伝ってくださいよ〜!」


 こんな会話を交えながら和やかに買った物をしまっていった。とてもいい空気だ、大切な仲間がそばに居て、こうやって楽しく話している。

 転生したての時はこんなふうになるなんて思ってもいなかった。

 そして、無事作業が終わり一段落ついた。残りの時間はお互いにのんびりと過ごして、食事をとって、落ち着いた雰囲気で過ごせた。

 さて、問題となるお風呂だが……アリシアが3人で入りたいとか言い始めたんだ。


「アリシアさん、私の家はお風呂場が狭いんです……2人までが限界でして……」


「で、でも! あたしくらいの体格なら問題ないよね!?」


「俺は1人で入りたいかな……」


「なんで!? みんなで入ろうよ! お願いっ! 仲良くなりたいからさ!」


 どうしても入りたいらしい。その後もしつこいくらいにお願いしてきた。

 流石にここまでお願いされたら拒否するわけにいかない。俺たちは試しに入ってみて、あまりにも窮屈なら今後はやめようという案を出した。

 アリシアはその案を受けてくれたが……それにしても女の子2人と一緒に入るのか……大丈夫だよな?


「セシル? あのさ、目を逸らしてどうしたの?」


「えっと……ちょっと目のやり場に困ってさ……」


「セシルさんっていつもこうなんですよね〜多分恥ずかしがり屋なんですよ!」


「そうなんだ! 可愛いねセシル!」


 恥ずかしがり屋とかそういう問題じゃない。ニーナだけでもまだ一緒に入るのは慣れてないのに、そこにアリシアが来たらこうなってしまうのも仕方ないんだ。

 それにまた可愛いとか言われてもう俺はどう反応すればいいのか分からなくなってきた。


「ニーナ! 湯船に浸かろっ! 2人なら入れるでしょ?」


「そうですね、2人くらいなら湯船に浸かれます!」


 そう言って2人は湯船に浸かり始めた。よし、これならさっさと体を洗って出られるよな。

 俺は2人を横目に体を洗い始めた。その最中、なんだか定期的に2人が騒いで気になってしまった。


「アリシアさんなぜそんなにくっついてくるのですか?」


「ニーナのそばって落ち着くんだよね。なんだか癒されるって感じ!」


「そうですか。でも、そんなにくっつかれると流石に恥ずかしいですよ」


 どんな様子なのかは見なくても分かる。

 頼むから俺にはくっついてこないでくれ……! 絶対耐えきれない!


「セシル、体洗ってるみたいだけど……急いでる? 別に急ぐ用事なんてないと思うけど」


 まずい……目をつけられてしまった。


「えっと……きょ、今日は早めに入って寝ようかなって思ってさ!」


「そんなんじゃ汚れ取れないよ? あたしが洗ってあげる! 遠慮しなくていいからね?」


「お、俺だけでいいから! 大丈夫! そのまま浸かっててくれ!」


 だが、俺のその発言を聞いていてもなおアリシアの考えは変わらなかった。

 為す術なく、俺はアリシアに体を洗われていた。


「セシルって肌綺麗だよね!」


「あ、ありがとう……」


「セシル? 顔が赤いけどどうしたの? まさか湯船に浸かってすらいないのにのぼせたの?」


「そうかもしれないな……あはは……」


 もうどうにでもなってしまえ。そんな考えになったからか、抵抗する気もなくなってきた。

 別に悪いことをされているわけじゃないし、こんな感じでもいいかもしれない。慣れるまでは大分かかりそうだけど、みんなとこうして過ごせる時間を大切にしたいんだ。

 そして、相変わらず疲れが抜けない入浴が終わり、俺たちは寝る準備をしていた。


「今日は楽しかったですね! 明日からの依頼も頑張れそうです!」


「そうだな。お互い明日からまた頑張って依頼をこなしていこうな!」


「もちろん! あたしも早く冒険者らしいことしたいしね!」


 お互いに軽く会話を交し、その後みんな布団に入っていった。

 さて……アリシアは今回どんな寝相をするんだろうな。若干楽しみではあるんだ。ただ、眠りを妨害する程のものじゃないことを祈るけどな。

 徐々に眠りに落ちながらも、俺はそんなことを考えていた。

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