第10話 初めての休日①

 アリシアが仲間になったその日、隙を見て女神に連絡を取ろうとしたのだが、忙しいのか連絡が取れなかった。

 そのため、連絡はまた今度にしてニーナたちと必需品として布団や、寝巻きなどを買いに行った。

 3人同じ布団で寝るのは厳しいからだろうな。ついでに俺の布団も買うことにした。これでようやく緊張感から解放されて寝られるんだと思っていたが、新しい問題が起きたんだ。アリシアの寝相がかなり悪かった。

 寝返りをうち過ぎて俺にくっついてくるし、挙句の果てには俺の顔を叩いたり、体に足を乗せてきたりした。

 まさかこんなにも寝相が悪いなんて思いもしなかったからか、その晩はかなり驚かされた。


「セシルさん、よく眠れませんでしたか?」


「えっ? まぁそうだな……ちょっと色々あってさ」


 よく眠れなかったのはアリシアの寝相のせいだ。なんて言えるわけないよな。


「ふぁ〜よく寝た〜っ! 2人とも、おはよう!」


 アリシアが起きてきた。熟睡できたみたいだ。まぁ寝相は置いといて、アリシアが快眠できたのならそれでいいか。


「おはようございますアリシアさん! 朝食はもうできてますから、一緒に食べましょう!」


「ニーナが作ってくれたの? ありがとう! えっと、凄い美味しそうだよ!」


 そういうとアリシアは食卓に向かい、俺たちと朝食を食べ始めた。

 朝食を食べながら、俺はニーナと話をしていた。今日は最近依頼続きで大変だったから、休みにしてのんびり過ごしたいということを伝えた。

 すると、ニーナは嫌な顔せずに俺の提案に乗ってくれた。アリシアも同じだった。


「それなら休みにしようか。でもさ、具体的に何するのか思いつかないんだよな……家でくつろいでもなんだか味気ないしさ」


「それならあたしと狩りでもしよ! 食材も集められるし、戦闘にも活かせると思うよ!」


「いや……それじゃ休みの意味がなくないか?」


「それなら、街へ出かけましょう! お金も貯まってきましたし、食材や日常品の買いだめついでに街を見て回るんです!」


 いい案だな、俺はこの街のことは正直知らないからこういうことで街を知ることも大切だと思う。それに、アリシアもこの街に来たばかりだ。俺とアリシアにとって、この案は非常に好都合なはずだ。


「ま、街を見て回るの? あたし……君たち以外の人間はまだ慣れてなくてさ……大丈夫かな?」


「大丈夫ですよ! この街はいい人ばかりです! 種族間のいざこざもありませんし、魔族だって人間と仲良く暮らしていますから!」


「ま、魔族もいるの!? 凄いね……」


 魔族と聞いて、アリシアはかなり驚いた素振りを見せた。それもそうか、魔族って魔王の配下みたいな印象があるからな。

 俺は前世で魔族が主役のアニメを見たりとか、魔族がヒロインのゲームとかをやっていたからか、さほど違和感は感じなかった。

 その後、俺たちは朝食を終えて街を見て回ることにした。とりあえずまずは市場に向かう予定だ。


 *



 市場はかなり賑わっていた。色んな店が立ち並び、多くの人が買い物に来ていた。

 とりあえずまずは食材を買うみたいだ。俺とアリシアはニーナについていき、ニーナの買い物の様子を眺めていた。


「すみません、このメモの食材が欲しいのですが……」


「おぉ、ニーナちゃんか! 久しぶりだね! 最近は何か変わったことはないかい?」


「最近だと、仲間が増えたんですよ! それも2人ですっ! 後ろにいる2人がそうなんですよ!」


「へぇ〜、随分可愛い子が仲間になったんだな。それに銀髪なんて珍しいな! 君たち、名前はなんて言うんだ?」


 店員から名前を聞かれてしまった。そこまでは普通なんだが……なんでこの街の男性店員はゴツい人が多いんだ?

 正直、自分より図体が大きい人とは話しづらい。おかしいな……昔はそんなことなかったのに。

 とりあえず、自己紹介を軽くすることにした。


「俺はセシルっていいます。ニーナとは最近出会ったばかりなんです」


「セシルって言うんだな! それに俺っ娘かぁ……可愛らしい子だな!」


「あはは……どうも」


 俺っ娘ってなんだよ……精神は男のままなんだから仕方ないだろ。

 そんなこと言えるはずもなく、俺は上手くその場を流した。

 アリシアは……かなりビクビクしている様子だった。大丈夫なんだろうか?


「あっ、あた……あたしはアリシア! えと……き、昨日仲間になって……その……うぅ」


「無理して話さなくていいぞ……? アリシアだろ? エルフみたいだし、人間に慣れてないんだな。とりあえずよろしくな!」


 どうやら察してくれたようだ。その後、店員はニーナのメモ通りに食材を持ってきてくれて、その店での買い物は終わった。


「うぅ……大きい男の人は苦手だよ。やっぱり女の子がいいな」


「アリシアさん大丈夫ですか? 私の手を握って落ち着いてください」


「えっ!? いいの!? ありがとっ!」


 アリシアはニーナの手を握った瞬間笑顔になった。ニーナといると落ち着くからな。そうなるのは理解できる。

 そのまま次の店に向かい、そこでもニーナは買い物をしていた。その時だった、アリシアが隣の店に行って俺を呼んできた。


「セシル! この服君に似合いそうだよ!」


「服? 別に俺はこの服でいいけどな」


「替えの服無いんでしょ? だったらここで買っていこうよ!」


 そう言われて俺はアリシアに連れられて隣の店へ向かった。

 服なんてそんなにこだわりがないからな、軽く見るだけ見て済ませようと思ったのだが。


「アリシア……露出が多くないか? えっと……色々見えるだろこれ? それにスカートが短い……ちょっと俺には無理だよ」


「いいから着てみて! ほら! 店員さんにお願いしよ!」


 そう言われるがまま、俺は試着することになった。さっさと着てすぐに脱ごう、絶対似合わないはずだこういう服は。

 試着室に行き、服を脱いで着替え始めた。やっぱり、この服は露出がいつもの服より多い……こんなの恥ずかしくて仕方ない。


「アリシア、やっぱり似合わないって……ほら、なんか変だろ?」


「そんなことないよセシル! すごく可愛いよ! ほら、ちょっとへそが見えてるのとか凄くいいよ!」


「可愛くないって……脱いでいいか?」


 そう言ってアリシアと話している時だった。


「あーっ! 2人ともこんな所にいたんですか? 急にどこかへ行くので心配しましたよ!」


 まずい、ニーナが来てしまった。この状態の俺をニーナに見せたくなかった。

 なぜなら、きっとニーナも――――。


「セシルさん! その格好どうされたんですか!? す……すごく可愛いですっ!」


 やっぱりな。こう言うに決まっていた。


「そうでしょニーナ! でもセシルが『可愛くないだろ』とか言ってくるんだよ?」


「そんなことないですよ! とても可愛いですっ! せっかくですし買いませんか? まだお金に余裕はありますから!」


「い、いや! やめとこう! 買うにしてもまた今度だ! 他に買うべきものがあるはずだって!」


 その後も何とか説得して買わずに済んだ。可愛いなんて今まで言われてこなかったからか、非常に恥ずかしかった。

 でもなんだろう……なんだか少し嬉しくて……まてよ? 嬉しい? なんでそんなこと思うんだ? 精神は男のままのはずなのに、なんで嬉しいなんて感情が……?

 俺はしばらくこの感情について考えてしまっていた。別の店に行ってもその感情は消えることはなかった。

 そうして、あらかた買い物も済んだ時だった。


「あっ! もしかして君たちって噂になってるパーティー?」


 誰かに話しかけられた。その方向を向くと、1人の少女がいた。緑髪で、ショートヘアの子だ。装備や服装から予想するに戦士職の子だろう。


「そうだけど、俺たちに何か用か?」


「用なら大ありだよ! 君たちのこと探してたんだよ! 一度会ってみたくてさ!」


 会ってみたいか。どうやら結構有名になってしまったらしい。多分話をしたいとかそういうのだろうなと直感した。


「あっ! 名前を言ってなかったね! 私はレキっていうんだ! よろしくね!」


 その少女はレキというらしい。その後も少し話したが、どうやら俺たちのことを知りたいみたいだ。

 こんな所で立ち話もなんだし、カフェにでも行かないかとも誘われた。ちょうど座りたいと思っていたところだし、俺たちはその誘いに乗ってカフェへと向かっていた。

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