第9話 原因解明、そして……
村を出て、俺たちは問題の場所に向かっていった。
奥に進めば進むほど、重苦しい空気になっていくのを感じる。正直言っていい気分ではない。それに、この空気は俺だけではなくニーナやアリシアも確かに感じているみたいだ。
「みんな……大丈夫? け、結構空気が重くなってきたけど……」
「俺は大丈夫だ。ニーナはどうだ? きつくないか?」
「大丈夫ですけど……少し怖いです。ずっと何かに見られているような感じがしますし」
お互いに身構えながらも、さらに奥へと進んでいった。そして、進んだ先で俺たちは明らかに異常な光景を目にした。
「予想よりも……数が多いね。ちょっと甘く見積もりすぎたかな……」
アリシアの言う通り、群れの数はかなりの多さだった。10数匹とかじゃない。20、30。いや、それ以上の数だ。魔物たちはみな、何かに縋りつくように集まっていた。
それに、重苦しい空気も更に強くなってきた。軽い頭痛を感じるくらいだが、ニーナはかなりきつそうだ。
「ニーナ、休んだ方が……」
「いえ! 戦えます! 支援なら、この程度で支障は出ません!」
「……わかった。でも厳しそうならすぐに休むんだぞ?」
その会話の後、俺たちは臨戦態勢を取った。
「さ、さぁみんないくよ! みんな無事で村に戻ろう!」
当たり前だ、誰1人として傷つけさせない。
そう心の中で返答をして、魔物の群れに向かっていった。
かなりの数の群れなこともあり、いつもみたいに素早く終わるわけではなかった。《ウインドストライク》や《アクアスパウト》といった魔法を駆使して戦いながら、少しだけ慣れてきた剣も使っていった。
自分の実力は見慣れているからか、特に何も考えずに戦闘を続けているが……アリシアが予想よりも凄かったんだ。
魔物の弱点を的確に射抜いて一撃で仕留めていた。矢に何か細工しているとは思うが、この射撃の腕は正直言って敵に回したくないほどだ。それに、雰囲気も変わっている。
「ニーナ! 危ない!」
「グガァッ!」
「す……すみません! 助かりましたアリシアさん!」
「よそ見しないで集中して!」
「はいっ!」
普段は優しい子だけど、戦闘を始めたら雰囲気が変わるなんてな。前世でも、こういう子はたまにいたな。主に対戦ゲームとかに多かった気がする。
こういった雑念を持ちながらも、俺は次々に魔物を倒していった。こういった狂暴化した魔物でも、俺に傷をつけるなんてできないらしい。防御は考えずに他のことに集中できるから助かるが、ちょっと味気ないかな。
そして、時間はかかったものの無事に辺りの魔物を壊滅することができた。だが、ニーナが慌てている様子でアリシアと話していた。
「アリシアさん! 大丈夫ですか!?」
「うん……平気だよ! ちょっと切られただけだから! こ、これくらいあたしでも治せるよ」
その会話を聞いて、急いで2人の元へ向かっていった。
確かにアリシアは怪我をしていた。一瞬の隙を突かれたらしい。
「いいえ! 私が治します! 任せてください!」
そういうとニーナは治癒魔法を唱え始めた。だが、少し違和感を感じた。一瞬で傷がふさがったんだ。俺はもう少し時間がかかるものかと思っていたからか、少し驚いてしまった。
「ニーナ……凄いな。こんな一瞬で終わるものなのか?」
「えへへ……私、治療は得意なんです! ですから、これくらいならあっという間に治せますよ」
「ふ、2人とも凄いんだね。ニーナは支援でセシルは攻撃。えっと……お、お似合いだよね!」
お似合いって言われてしまった。ニーナは嬉しそうな顔をしているが、俺は正直言って恥ずかしくて仕方がない。それに、きっと『いいパーティーだね』と言いたかったのだろうな。
治療も終わり、次は原因を突き止めることにした。あたりを探していると、なんだか異様な雰囲気の荒らされた祭壇が見つかった。
それに……そばに寄るのが難しいほどの何かを放っていた。
これは……瘴気ってやつなんじゃないか?
「これが……凶暴化の原因だろうね。酷い荒らされよう……誰がこんなことしたんだろう」
「ごめんなさい……私ちょっと気持ち悪くなってきました……うぅ、休みますね」
「ニーナ大丈夫か……? 俺もちょっと頭が痛いな……アリシア、これなんなんだ?」
「せ、説明は後でするよ! まずは瘴気を抑え込むから! これくらいなら……あたしでもできるはず!」
そう言うと、アリシアは何かを必死に唱え始めた。全く聞き取れない言語だったため、何を言ってるのか分からなかったが、恐らく封印か何かをしているのだとその様子から感じ取れた。
しばらくすると、アリシアは詠唱を止め、ホッと一息ついたみたいだ。
「これなら大丈夫なはず……。先代の封印陣をこうも荒らすなんて……酷すぎるよ」
「アリシア、先代って? それに……封印陣とか言ったか? 説明して貰えないかな? 今の状況がよく分からなくてさ」
「わ、分かった。ちゃんと説明するね? なるべく分かりやすくするから聞いておいて欲しいな」
その後、アリシアは説明を始めた。
どうやらこの祭壇は、かつて存在していた魔王の体の一部を封じ込めた魔道具を守るためらしい。
確かに、消えかけではあるが魔法陣も敷かれているためその話は納得できた。
長い間守り続けられていたものの、誰かがこの祭壇を破壊し、封じ込められていた瘴気を放ってしまったらしい。そのせいで付近の魔物を凶暴化させてしまったみたいだ。
アリシアのおかげで瘴気自体は完全に消えたが、再度封印陣と言われる祭壇を作る技量は彼女にはまだ無いそうだ。
説明後、アリシアは少し頭を抱えてしまっていた。
「どうしよう……壊されたってことはもうこの場所が知られてるってことだよ……村に持ち帰っても、村に目をつけられる可能性もあるし……こういう時、ティーナならどうするんだろう? うぅ、頭が痛いよ……」
かなり悩んでいる様子だった。それもそうだ、魔王の一部を封じ込めた魔道具なんて、悪意のある奴の手に渡らせたくないはずだ。
それに、この森全体がそういう奴らの目についているなら……アリシアの言う通り村が襲撃を受ける可能性もある。
だったら……冒険者の俺が持っている方が安全ではある。依頼で色んな場所に行くし、ここから離れた場所に住んでいるため、さほど特定は早くないはずだからだ。
この考えをアリシアに伝えてみることにした。
「アリシア、ならその魔道具は俺が持っておくよ。俺ならここから離れてるところに住んでいるし、定期的に外に行くから特定はされにくいはずだ」
「でも……セシルに危害が向くよ? それはちょっと嫌だな……せっかくの知り合いなんだし」
「アリシア、安心してくれ。俺から奪うなんてそう簡単にできやしないよ。それに、俺だって警戒心が無いわけじゃないからな」
その言葉を聞いて、アリシアは少し考えこんでいた。
そう簡単に信用できないのは理解できる。だって異種族だし、出会ったのも今日初めてだ。そんなやつに信用してくれなんて言われても、すぐに返事はできないだろう。
ただ、どうしてもこの森に置いておきたくはない。関係ないエルフの村人が襲われるなんてごめんだ。
それにアリシアもティーナもきっと襲われるはず……そんなの絶対に嫌だ。
それなら、敵意を俺だけに向けさせる方がよっぽどいい。俺なら、仮に襲われてもそう簡単に負けるなんてないはずだからだ。
そうやって考えている時だった。
「分かった……セシル、君を信じるよ。善人なのは、話したり、一緒に戦っていて分かったから。だけど約束して。絶対……誘惑に負けて信頼する人以外に渡すなんてしないでね?」
まさか本当にこの案に賛成してくれるとは思わなかった。信頼してくれているんだな、この俺を。
その言葉の後、俺はアリシアの目を見てしっかりと約束した。
「絶対に約束するよ。何があっても守るからな! もしこれが奪われる時は、俺が死ぬ時だ」
「し、死んじゃダメだよ! お願いだから死なないでよ!」
「セシルさん……冗談でもよくないですよ?」
かっこつけたくて言った言葉のせいで、少し2人を戸惑わせてしまったみたいだ。
ニーナはなんか怒ってる……頬を軽く膨らませてこっちを見ている。もしかして睨んでるつもりなのか?
悪いけど、怖いというよりも可愛かったな。
そんなやり取りをしながら、俺はアリシアから魔道具を受け取った。指輪のような形状だから、指にはめておこうと思ったけど、スられるのが嫌だから小さなポーチに入れておいた。
その後、俺たちは村に戻っていった。帰り道は軽い談笑を交えながら、ゆっくり帰っていった。アリシアは最初の頃と比べて、大分打ち解けてくれたみたいだ。まだ少し慌てたり言葉に詰まる時もあるが、自然と笑顔を見せてくれたり。共に笑ったりしてくれた。
*
村に着くと、問題を解決できたことを知った村人たちから絶え間なく話しかけられてしまった。
「ねぇねぇ! 君たちのおかげなんでしょ? 本当にありがとう! これで安心して散歩に行けるよ!」
「あはは……力になれて何よりです」
「人間ってひ弱なイメージだったけど、強い人間もいるんだね! ねぇ、よかったら私と手合わせしない?」
「や、やめておきましょう? 多分怪我しますよ?」
こんなに感謝されるなんて初めてだ。それに、エルフたちは謝礼品だといって何でもかんでも俺たちに渡してくるもんだから最初の時よりも荷物が多くなってしまった。
「セシルさん……これ持ち切れますかね……」
「ちょっと厳しいかもな……ニーナって転移魔法みたいなのは使えるか? 使えないなら……馬車を探すしかなさそうだな」
「ごめんなさい……使えないです」
「そうか……仕方ないよな。じゃあ帰り道、馬車を探しながら歩いていこうか」
まぁ、使えないかもしれないとは思っていたからそこまで驚くほどではなかった。
そして、俺たちは村人に絡まれつつも、アリシアの家に無事たどり着いた。
「お帰りみんな。その表情……無事に解決できたみたいだね」
ティーナが迎え入れてくれた。彼女の様子から感じ取れたが、どうやら俺たちが無事に解決できることを分かっていたみたいだった。
「ティーナ、解決はできたけど……ちょっと良くない兆しがあるんだ」
「良くない兆し……。うん、話してみて。きっと私たちエルフにも関係することだろうから」
アリシアはティーナに俺たちが目撃したあのことを説明した。ティーナは、曇った表情を見せながらもアリシアと会話を続けていた。
「それで……セシルに預かってもらうことにしたんだ。間違ってないよね? そうだよね?」
「うん、私たちで預かるよりもずっといいよ。私もきっと同じ判断をしたと思うな。でも、私がアリシアだったら預けるだけじゃなくて、セシルたちに同行するかもしれないね」
同行か……確かに、事情を知ってなおかつ戦闘力がある人が増えれば、その分守りやすくなる。でも、彼女はエルフの長だ。それもあって、同行するなんてすぐに決められなかったのだろう。
「でもさ、あたしは長なんだよ? ここを離れたら誰がみんなをまとめるの?」
「アリシア、君のそばにいつも誰がいたと思う? アリシアが体調を崩した時や、1人で悩んでた時、いつも私が手助けしてあげたよね」
「だから、今回もあたしを助けるってこと? ダメだよ……ティーナに長なんて重役は……」
「何年補佐をしてるの思ってるの? 大丈夫、アリシアほどじゃないけどみんなをまとめることはできるよ。だから、行っておいで」
この会話に、俺は割り込めなかった。真剣に2人が話しているところに割り込むなんて、そんな空気が読めない行動はしたくなかったんだ。
アリシアがどんな判断をしようとも、俺は尊重するつもりだ。同行しなければ、俺がしっかり守り抜けばいいし。同行するならば、2人で厳重に守ればいい。
「それにアリシア、事情は複雑だけど、君の夢が叶うチャンスなんだよ? 昔から冒険者になりたがってたよね?」
「それは……」
アリシアはそんな夢を持っていたんだな。それなのに、長を任せられた。夢が潰えた瞬間は……相当な辛さがあったんだろうな。
アリシアはしばらく考え込むと、顔を上げ自分の判断をティーナに伝えた。ティーナは、優しい微笑みを見せてアリシアの頭を撫でた。その様子から、何となく察することができた。アリシアの判断はきっと――。
「セ、セシル! あたし、君たちについていくよ! や、やっぱり2人だけに守らせるのは不安だからさ! そ、それに冒険者になりたかったし……」
何だか照れ臭そうに俺たちに判断を伝えてきた。本当は、冒険者になりたいからって理由がメインなんだろうけど、素直に言えないからか別の口実も用意しているみたいだった。
「そうか、じゃあよろしくなアリシア! これからは一緒に活動していこうな!」
正直、この判断をしてくれて嬉しかったんだ。仲間が増える瞬間は、自然と笑顔がこぼれてしまう。長年1人で生活してきたからか、一緒にいてくれる人が増えるのが本当に嬉しいんだ。
「アリシアさん! これからは一緒ですね! 楽しく過ごしましょうねっ!」
ニーナもなんだか嬉しそうだ。
「よ、よろしくね! えっと……エルフだからズレてるところもあるかもしれないけど、迷惑かけないように頑張るね!」
その後、アリシアはとても嬉しそうな笑みを浮かべて俺たちと少し会話をしていた。
しばらくすると、アリシアは先に村の外で待っていて欲しいと伝えてきた。
どうやら荷造りと村のみんなに別れを告げてから合流するみたいだ。
村から出る際、ティーナに話しかけられた。
「アリシアをよろしくね。彼女、ちょっと変わってるところがあるけどいい子だから。そのうち見られるんじゃないかな? アリシアの本当の性格をさ。ふふっ」
「もちろんだ、アリシアはもう大切な仲間なんだからな。それよりも……『本当の性格』ってなんだ?」
「それは”お楽しみ”かな。気になるなら、アリシアともっと仲良くなるといいよ」
お楽しみってなんだよ……ちょっとだけだけど怖いな……。
その後、村の外でアリシアを待っていた。思っていたよりも長い時間待っていたからか、ニーナと会話したりして過ごしていた。
「新しい仲間ですねっ! 仲良くできればいいのですが……」
「きっと大丈夫さ。種族は違っても、心は通じ合えるからさ」
「そうですね! 家に帰ったら、アリシアさんとたくさんお話ししたいですね!」
そんな会話をしている時だった。
「ふ、2人ともお待たせ!」
アリシアが来たみたいだ。やることが終わったらしい。
「えっと……住んでるところはここから遠いんだよね? だったら、転移魔法を使って移動しよ! ば、場所さえ教えてもらえれば移動できるからさ!」
「アリシアって転移魔法使えるのか!?」
「えっ、うん使えるよ? もしかして使えないの……? それなのにここまで来たの?」
「う……うん、帰りは馬車を見つけるか徒歩で帰ろうかと思っていて……」
そう伝えると、アリシアに少し笑われてしまった。『あたしが仲間になってよかったね』と言われたが、正直言ってその通りだ。アリシアには感謝しないとな。
その後、アリシアは転移魔法を唱えた。一瞬光に包まれると、気づいたらいつもの街の入り口に立っていた。
さて、これからは3人で生活することになるな。もっと賑やかになりそうだけど、魔道具のこともある。ただ毎日楽しく過ごすだけじゃダメだろうな。
それに、この魔道具についてもう少し詳しく知りたい。女神ならば何か知っているはずだ。
俺は近いうちに女神と連絡を取ることにした。数日間取っていないから、多分あの女神なら嬉しがりそうだ。そうやって考えている時だった。
「セシルさん! 報告に行きますよ~!」
「急にボーっとしてどうしたの? 早くあたしにギルドってやつを見せてよ!」
2人に話しかけられた。どうやら、少し先に進んでいたみたいだ。
「ごめんな! 今行くよ!」
細かいことはまた夜にでも考えよう。今は、3人で楽しく過ごすことが先だしな!
そう思って、俺は2人に向かって歩き出した。
――――――――――――――――――――――
「報告します。以前確認された魔道具の件ですが……」
「封印を破壊したやつだろう? 瘴気や辺りの魔物に悩まされていたが、報告するということは解決したんだな?」
「いえ……解決しておりません。というか……さらに悪化しております」
さらに悪化だと……?
男はそう思っていた。付近のエルフは手出しできず。並の冒険者であれば魔物を倒したとしても瘴気に蝕まれて死ぬはずだ。だからこそ、魔物は第三者に倒させ、瘴気はこちらが派遣した魔術師に抑えさせる計画だった。念密に練った計画を、そうたやすく崩せる奴など存在しないはず。
「いつも通り監視をしていたのですが、2名の冒険者と1人のエルフによって魔物は全滅し、瘴気も掃われました。そこまではいいのですが……」
女は次に告げる言葉に迷っていた。
きっと、これを告げたら激怒される。どう言葉を選べばいいのだろう。
だが、真実を告げなければ早急な対応はできない。女は決心し、包み隠さず告げた。
「リーダーと思われる銀髪の冒険者が魔道具を持っていってしまいました。名は”セシル”。戦闘力も非常に高いです。放っておけば計画の妨げになるかと」
「そうか……ではこちらも対処しよう。腕利きの殺し屋を知ってるのでな。そいつらに任せる。直接手を汚したくないのでね」
「あのグループですか? 正直信念などを持っているのでうまくいくとは思いませんが……。殺し屋の癖に信念など正直片腹痛いですよ」
女の発言には男も賛同していた。どんな手を使ってでも排除してもらいたいのが本音だ。だが、そういった殺し屋ではあの冒険者を始末できる気がしなかったのだ。
3人で狂暴化した魔物を全滅させるなど普通じゃない。だからこそ、高い戦闘力を持った奴らにかけてみるしかなかった。
「金を払えば相応の働きをしてくれるだろう。奴らは懸念点こそあるものの、しっかり仕事はこなすからな」
そう言い男は怪しい笑みを浮かべていた。
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