第4話 始まる共同生活①

「着きましたよ! ここが私の家です」


 ニーナに案内され、俺は彼女の家の前まで来ていた。

 だが、俺は少し違和感を感じていた。ギルドにいる時は依頼で起きたハプニングもあって気づかなかったが、冷静に考えてみたらニーナは冒険者という不安定な立場で、しかもたった1人で活動している。

 それに戦闘能力が高いわけでもないため恐らく普段から採取クエストばかりやっているはずだ。

 言ってしまえばあまり金にならないような簡単なクエストをメインに活動しているのにも関わらず、家があるなんて珍しく感じたからだ。

 一軒家ではなく賃貸と分かる外見ではあるが、それでも1人で活動してきた冒険者が家に住み続けることができるなんて、親が裕福とかでもない限り不可能なはずだ。


「ニーナって、もしかして家柄がいいのか? 冒険者で、それも1人で活動してたのに家に住めるなんてさ」


「家柄……えぇ、そうですね。よく言われます」


 何かまずいことを言ってしまったのかもしれない。一瞬にして彼女の顔が少し曇ってしまった。

 そのためか俺は焦ってぎこちないフォローをしてしまった。


「べ、別に仮にニーナが家柄のいい子でも俺は態度を変えたりしないぞ!? 大切な仲間として見ているからな!」


「セシルさん、別にいいですよフォローしなくたって。私は気にしていませんから! では、中に入りましょうか」


 あまりにもぎこちなかったのか、一瞬でフォローしたことがバレてしまった。

 でも、ニーナはそこまで気にしてないようだ。本当に良かった、発言1つで関係なんて壊れてしまうからな。


 *

 

 ニーナの家の中に入ると、予想以上に綺麗に整っていてかなり驚いてしまった。

 こういう雰囲気の家に住んでいる人って結構周りを散らかしてるイメージがあったからな。


「狭い部屋で申し訳ないです。できる限り綺麗にしていますが、何か気になったら遠慮なく言ってくださいね?」


「そんなことないって。住むには十分な広さだ」


 少なくとも前世の俺の家よりは大きい。異世界って土地があるからなのだろうか?

 ただ、問題が1つある。寝室が1つしかないのだ。

 もしかして、ニーナと一緒に寝ることになるのだろうか? だとしたらかなり不安だ。俺は女の子と一緒に寝るなんて生まれてこの方したことないからな。


「なぁ、もしかして俺とニーナって一緒に寝るのか?」


「そうですね、部屋が2つあるわけではありませんのでそうなります。もしかして嫌でしたか……? でしたら、私はリビングで寝ましょうか?」


「なっ!? そんなことしなくていい! 大丈夫だ、俺は別に構わないからさ!」


 なぜニーナはここまでお人好しなのだろうか。リビングで寝るから部屋で1人で寝てもいいなんて、そう滅多に思いつくことではないはずだ。

 俺はこのやり取りの後、のんびりと過ごしていた。異世界に来てまだ1日が終わっていないのに、依頼もこなして魔物とも戦った。

 正直言って少し疲れた。日中活動してるのが数年ぶりなのもあるが、何より初めてやることを1日で2度も体験したんだ。

 ニーナと談笑をしてゆったりとした時間を過ごしている時だった。ふと、気になったことがあったんだ。『俺はどこまでの力を与えられたんだろう』

 フィジカルはかなりおかしくなっているのは実感できたが、肝心の魔法が何ができて何ができないのかがイマイチ分からなかった。

 色々使えるようにしたとは言うが、具体的にはどのくらいだろうか。そんな疑問が俺の頭を満たし始めてきた。

 1度気になったら他のことに集中するなんて中々できなかったため、俺は外に出て女神と話すことにした。


「セシルさん、外に行くのですか?」


「あぁ、少しやりたいことが出来たからさ。遠くには行かないよ」


「分かりました。では、私は家の掃除をしておきますね!」


「うん、ありがとうなニーナ」


 俺は短い会話をした後、外の路地裏に駆け込んで女神と連絡をとった。


「女神様、今大丈夫ですか?」


「んぅ……寝てたんですけどぉ……なんですか?」


「神様も寝るんですか……?」


「神をなんだと思っているのでしょうか? ちゃんと寝ますよ?」


 どうやら神様も人と同じように寝るみたいだ。俺は神様の事情に詳しいわけじゃないから、常に起きっぱなしなのかと思っていたが、意外と人間に近い所もあるらしい。


「それで、何か用ですか? 大したことじゃないなら寝ますよ? あなたの夜中の様子を見たいので、それに備えるためにも」


「はぁ……もう好きに見てください。用というのは俺の能力についてですよ」


「えっ……『やっぱり戻せ』ですか? それはちょっと……」


 今更戻してくれなんて言うわけないのに女神は何だか勘違いしているようだ。

 俺はそこまで自分勝手な要求をするわけじゃない。今回聞きたいのは『魔法について』ということを女神に伝えた。


「『魔法について』ですか。恐らく質問の内容は『どこまでできるのか』ですよね?」


「なんで分かるんですか? まだ俺は何も言っていませんが……」


「詳しく説明するのを忘れていたので、いつか言われるんだろうな〜って思っていたんです。あなたの性格なら絶対聞きますからね」


 あえて説明しなかったわけでもなく、単純に忘れていたらしい。俺に武器を持たせるのも忘れて、魔法能力についての説明も忘れるなんて、流石にダメなんじゃないかと思ったが、今こういう話をしても意味はない。

 だから、俺は何も言わずに女神からの説明を聞いていた。


「最初に軽く言った時と同じく、大半のことはできますよ。ただそれは『攻撃』と『防御』に分類される魔法だけですけどね」


「じゃあつまり『回復』や『支援』はできないと……? なんでそんなことをしたんですか?」


 なぜ『攻撃』と『防御』だけに留めたのかイマイチ分からなかったため、女神に追加の説明を求めた。


「うーん……正直言ってその2つができていれば他のっていらなくないですか? 怪我もしませんし、速攻で倒せるので戦闘が長引く心配もありませんからね」


「そういうことですか……」


 できないことがちゃんとあるということに俺は少し安心していた。何もかもできてしまえば、仲間を作る意味が無くなるし、仮に作ったとしても存在意義を消してしまう。

 俺はそんなことをしたくない。個々の能力を尊重しないなんて、俺の嫌いなことなんだ。


「ちなみに女神様、俺の能力って決めていただいた職から乖離してませんよね?」


「してませんよ? だってスペルナイトは戦闘しかできませんからね。魔法もスキルも戦闘向けで、支援なんて全くできません。だから誰も目指さないんですけどね」


「それなら大丈夫です。使えもしない魔法を使って怪しまれるのって嫌でしたから」


 念の為聞いておいたが、どうやら俺のできる範囲はこの世界のスペルナイトにできる範囲とある程度一致しているらしい。

 それならば、万が一のことがあっても大丈夫なはずだろう。


「ふぁ……寝ていいですか?」


「え? まぁ、いいですけど。聞きたいことは聞けましたし」


「では寝ますね! そうだ、夜は何しても構いませんからね? どんなことをしても大丈夫ですよ。ふふふっ、どんなことをしてもです」


「……絶対しませんからね。期待しないで夜も寝てください」


「はいはい、ではおやすみなさい。…………どこまで我慢できるのでしょうかね?」


 最後にまた独り言を呟いて女神は通信を切った。俺が夜中何をするのか楽しみにしているみたいだが、悪いがその期待に応える気は全く無い。

 そして、俺は足早にニーナの家に戻っていった。

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