第3話 出会い②

 しばらくして、次第に震えも止まってきた。初めての感覚だったから、大分怖かったんだろう。


「災難でしたね……こういう人ばかりでは無いのですが、今回は運悪く出会ってしまったみたいですね」


「そうなんだな……やっぱり俺ってツイてないんだろうな。君が話しかけてくれたのが救いだったよ」


 この子と話していると、なんだか落ち着く。優しい雰囲気で、寄り添ってくれるからだろうか。


「あの、もしかして登録したての方ですか? よかったら……その……私とパーティーを組んで欲しいのですが……ずっと1人だったので」


 またパーティーを組んで欲しいと誘われたが、今回は不思議とあの時のような気持ちにはならなかった。純粋に一緒に組んで欲しいという気持ちが感じ取れたからだろう。

 それに、今は彼女と同じ女の子だ。同性ならば、そういったことはされないだろうという考えもあったからだ。

 しかし、彼女がずっと1人なのが理解できなかった。風貌から予想するに彼女は補助職なはずだ。そういった職は引く手あまたなはず。


「えっと、君って補助職だよな? 格好から予想するに多分回復系か? それならすんなりパーティーに加入できると思うんだけど、どうして1人なんだ?」


「よくご存知ですね、見立て通り私は”僧侶”です。回復とかが得意なんですけど、攻撃は一切できなくて……普通はある程度の攻撃魔法は使えて当然なのですが……」


 この世界の補助職は攻撃もある程度できて当然みたいだ。なんだか、俺が一時期やっていたゲームに似ているな。

 その後も、彼女は俺に自分がパーティーに入れなかった理由を教えてくれた。


「その代わり、回復や補助はかなりできるんですよ? でも、皆さん攻撃魔法が使えないことばかりに目がいってしまって……『攻撃ができない奴なんてお荷物だ』なんてよく言われて、すぐ除名されてしまうのです」


 そういうことだったのか。支援に全振りしている補助職も悪くはないとは思うが、どうやらこの世界の冒険者からしたらお荷物扱いされているみたいだ。

 当たり前ができないだけで評価されないなんて、どの世界も同じなのかもしれないな。


「それだけでお荷物扱いするなんて、そういう奴らはきっと後で痛い目をみるさ。俺はそう思わないよ。むしろ君みたいな補助職はいつか輝ける時が来ると思うな」


「初めてそんなこと言われました……! では、パーティーを組んでくれるのですね!?」


「もちろん! よろしくな! そういえばまだ名乗ってなかったよな。俺はセシルだ、これから色んなことをしていこうな」


 快くパーティーを組むことに同意するついでに、俺の名前を教えてあげた。これから一緒に行動するのだから、お互いに名前を知っておくのは大切だ。


「セシルさんですね! よろしくお願いします! 私はニーナ…………。えっと、ニーナでいいです!」


 名前を教えてくれたが、明らかな間があった。まるで、本来なら”ニーナ”の後に続きがあるにもかかわらず、思い悩んで言わなくなったような明らかに違和感を感じる間だった。

 だが、こういうのは大抵事情がある。俺が転生者だってことや、元男だってことを言わないように、ニーナにも言わないようにしている事情があるはずだ。

 言えない事情は、深堀する必要は無い。俺は感じた違和感を押し殺してニーナと会話の続きをした。


「ニーナって言うんだな、よろしくな! そういえば、クエストってどんなのを受けたらいいんだ? パーティーも組んだし、早速やってみたいんだけどさ」


「クエストなら、私が既に受けているものをやりましょう! 採取クエストなので比較的安全ですし!」


 採取クエストか……まぁ最初から討伐クエストをやるよりは慣らし運転が出来ていいよな。


「それなら一緒にやろうか。えっと……もしかして武器とかいるか?」


「流石に丸腰は危ないですよ? 持っていないんですか?」


「あぁ……手ぶらなんだ……一応魔法が使えるから無くてもいいんだが、持っておいた方がいいかと思ってな」


 あの女神は俺に武器を持たせるのを多分忘れたんだろうな。やることが多いと何か1つ忘れるのは仕方ないことだ。それがたとえ神でも起こりうることなんだろう。


「もしかしてですけど、武器を無くしたり壊したりしましたか? それなら、私が買ってあげます! パーティーを組んでいただいたお礼です!」


「えっ!? いいよそんなことしなくてもさ! 申し訳ないって!」


「遠慮しないでくださいっ! 私の気持ちです!」


 この後も断り続けたが、どうやらニーナの気持ちは変わらないみたいだった。

 それならその気持ちを大人しく受け取った方がニーナのためにもなるだろう。

 俺はそう考えて、ニーナに武器を買ってもらうことにした。

 高価な武器じゃなくて安物の武器にしておけば、金銭的負担も軽く済むはずだ。

 その後、ニーナに案内されて武器屋に入っていった。小さくこじんまりとした武器屋だが、店員の男はそのこじんまりとした空間に似合わないくらいガタイのいい奴だった。


「いらっしゃい! 随分と可愛らしいお客さんが来たな!」


「こんにちは! この人のために武器を買いに来たのですが、何かいいものはありますか?」


「おや、もしかしてお連れさんはこれから冒険者として活動する感じなのかい? それなら割り引いてやるよ! おすすめを教えるのもいいが、まずは気に入った武器を選んでみるといい!」


 店員にそう言われて、俺は置いてある武器に一通り目を通していった。個人的には取り回しのいい武器が好みだから、俺が選んだのは一般的な剣だ。


「これにしてもいいか?」


「こんな一般的な片手剣でいいのか? せっかく割引してやるんだし、もう少し高価なものを買った方がいいぞ?」


「いいんだ。ニーナに買ってもらうんだし、出費は抑えてあげないとな。それに、高い武器は経験を積んでから買った方が活かせるしな」


 俺はそう言ってどこにでもあるような普通の片手剣を買ってもらった。しばらくはこれで戦っていけば事足りそうだ。魔法も使えるんだし、武器にこだわらなくても最初は何とかなりそうだからな。


「2人とも! また来てくれよな!」


 店員に見送られて俺たちは店を出た。店から出てすぐに、ニーナが俺に話しかけてくれたんだ。


「セシルさん、私に気を使ってその武器にされたのですか?」


「まぁ、それもあるな。人に買ってもらうのに高価な武器を選ぶなんて俺にはできないよ。それに、最初はこういった武器で慣れていくのも悪くないからな」


 そう言うと、ニーナはなんだか微笑んで俺の方を見てくれた。可愛らしい表情だ、補助職の女の子ってなんだか柔らかい感じがして心が癒される。


「あと、セシルさんの話し方ってなんだか”男の人”みたいですね。なんだか不思議です。女の子なのに男の人みたいな雰囲気の人って」


 その発言は、正直俺にとってはかなり効く発言だった。元は男だなんてバレる訳にはいかない、自分にとって慣れ親しんだ話し方でいることは恐らくそんなに良くなかったのかもしれない。


「い……いや、女の子だからな!? その……こういった口調なだけでさ! 勘違いさせたらごめんな! 嫌だったら直すよ!」


「別に嫌じゃありませんよ。頼りがいがある雰囲気なので、私はこういった話し方でも構いませんから」


 良かった……別に嫌じゃないみたいだ。

 だけど、ニーナの発言を受けてもう少し女の子らしくする必要があると感じた。もう男じゃないんだから、自分の性別から逸脱してない身振りをしなきゃいけないよな。

 だが、俺はこの話し方をすぐに直すことはできないだろう。何十年も慣れ親しんだ話し方を突然変えるなんて、そんなのあまりにも難しいんだ。


「セシルさん、武器も買えましたし早速依頼に向かいませんか? 近くの森で、薬草を採るだけの簡単な依頼ですからすぐに終わりますよ」


「そうだな、早速向かうとするか!」


 そう言って俺たちは街から出ようとしていた。途中、何度か会話をしたりしてのんびりとした時間を過ごしていた。

 だが、そんな会話をしている時だった。頭上に何かがぶつかる感覚がした。かなり硬いものだったようで、ガシャンといった結構大きな衝撃音が響き渡った。


「ごめんなさい! 植木鉢を移動させてたら落としてしまって! お怪我はありませんか!?」


 声の方を向くと、建物の2階の窓から女性が話しかけてきていた。

 どうやら植木鉢を移動させている時に手が滑って落としてしまったみたいだ。あいにく怪我は無いが、仮に女神から異常な能力値を与えられてなかったら大怪我をしていたのかもしれない。


「大丈夫です、怪我は無いので! 今後は気をつけてくださいね?」


 俺はそう女性に告げたが、ニーナはかなり心配している様子で俺に話しかけてくれた。


「だ、大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!? か、回復魔法を使いますね! えっと……!」


 ニーナはかなり慌ててる様子だった。それもそうだ、普通なら人の頭上に植木鉢が直撃するなんて、大怪我してもおかしくないからな。

 俺は慌てているニーナを落ち着かせるために、怪我をしていないことを伝えることにした。


「大丈夫だ、血も出てないし、大して痛くない。心配してくれてありがとうな」


 その会話の後、俺たちは引き続き街の外に向かって歩いていた。


 幸先が悪いな……依頼をこなしている時にまた嫌なことが起きなければいいんだが……。

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