第2話 出会い①

 俺は女神から道案内を受けつつ、この世界についての軽い説明を受けていた。

 どうやら魔法が普通に存在する世界で、魔物も生息しているいわゆる”ファンタジー系”の世界だということが分かった。

 ただ、魔王とかそういうのは今はいないらしい。3000年程前に封印されたのだとか。ファンタジーの世界に転生したというのに、魔王討伐とかいう大きな目標が無いのは少し寂しいが、逆に考えれば気ままに生活出来るということだ。

 

「着きましたよ! ここがギルドです!」


 話しながら歩いていると、いつの間にかギルドに到着しているみたいだった。かなり大きな建物で、見るからにギルドらしい外観をしている。


「それではここでお別れですね。そうだ、職業は怪しまれないように万能職にしておきましたよ! 少々やりすぎても誤魔化しは効きます!」


「あの……職業は流石に決めないで欲しかったのですが……」


「えっ……だってそんなこと言ってなかったじゃないですか……『人間に転生させろ』とだけ言ってたので……」


 女神のおかげで、好きな職を見つけるという楽しみが消えてしまった。

 だが、これに関しては俺にも責任がある気がする。大雑把な要求だけして、細かいことは何も言っていなかったからだ。

 もう少し細かい要求をすれば良かったが、もう決まったことだ。流石にこれ以上は勝手に決められてはいないはずだから、ここから自由な人生を送ればいいと自分に言い聞かせた。


「ちなみに女神様、職業はどんなやつにしたんですか?」


「”スペルナイト”ですよ! 戦闘においては万能な上級職です! 器用貧乏とか言われていてあまり好まれない職ですけどね」


 その一言は確実に要らなかったと思うが、女神なりに考えてこの職にしてくれたのだろう。下級職が急に扱えないはずの魔法を使ったりするよりかは、上級職にしてくれた方がやりすぎても疑いの目を向けられることはないからだ。


「分かりました。それじゃあ俺は登録をしてきますね。また何かあれば連絡します」


 そう言って俺は連絡を終えて、建物の中に入っていった。

 建物の中はかなり賑やかだった。それに、多種多様な格好をした人たちがテーブルを挟んで談笑したり、掲示板を眺めたりしていた。

 その様子を横目に、俺は受付と思わしき場所に向かっていった。


「あの、登録ってここですればいいですか?」


「初めての方ですか? 冒険者登録はここで間違い無いですよ〜」


 良かった、登録は2階でとか言われてたらい回しにされることは無さそうだ。前世ではこういう場所で何かしら登録をしようとしたら、あそこに行けとかここでは出来ないとか言われてめんどくさかったからな。


「じゃあ、登録をお願いしたいのですが……どうすればいいんですか? 初めてなので分からなくて……」


「ここに水晶がありますよね? これに手をかざしてください! そうすれば、勝手に体に刻み込まれた情報を読み取ってくれます。その後、ギルドカードを作りますので、それを受け取れば登録は終わりです!」


 案外簡単なようで助かった。めんどくさい書類とか、印鑑とかそういうのは無くて水晶に手をかざすだけだなんて、流石異世界って感じだった。

 俺は先程受けた説明の通り、水晶に手をかざした。ほのかに光り始め、不思議な感覚がしてきた。

 だが……なんだか水晶が変な音を上げてきた。ビキビキとヒビが入っているような音で、壊れる寸前みたいだ。俺の能力を読み取るのに相当な負担がかかっているのだろう。

 水晶を壊したりしたら、とんでもない額を弁償する羽目になるのかも知れない。俺はこの世界の通貨なんて持っていない。そのこともあって必死に壊れないように祈っていた。

 冷や汗を流しながら手をかざし続ける。何とか水晶は無事に読み取ってくれたみたいだった。


「はい! これがギルドカードですよ! 職業は”スペルナイト”ですか? 珍しいですね……皆さんこういった職業は器用貧乏だとか言って避けるのですが」


「あはは……俺は別にそういうの気にしてないので……好んでこの職にしたんですよ」


「女神が勝手に決めたんですよ」なんて言えるわけなかった。だから、とってつけたような嘘を受付嬢に伝えたが、特に何も言われることは無かった。


「そうなんですね〜。あっ、いくら上級職でも登録したてなので最低等級のブロンズからスタートですよ! 頑張って等級を上げてくださいね!」


「分かりました、では俺はこれで失礼しますね」


 そう言って、俺は受付から離れていった。さて、登録が終われば次にすることは仲間探しだな。

 俺は孤独が好きじゃない。なるべくなら仲間が欲しい。異世界なんて何もかも初めてだから、知識のある人がそばに居てくれないと不安だからだ。別に強い仲間じゃなくても、安心して過ごせる人だったらそれでいいんだ。

 そんなことを考えながら周囲を見渡してみるが、既にパーティーを組んでる人ばかりだった。既に形成されている関係の中に、こういった新参者が入り込むなんて難易度が高すぎる。できればパーティーを組んでいない人がいい。

 そうやって人を探していると、誰かに話しかけられた。


「君、もしかして1人かな? よかったらうちのパーティーに入らない?」


 話しかけてきたのは、高身長でそれなりに実力のありそうな男だった。まさか誘われるなんて思っていなかったからか、少し嬉しくなったのだが……。


「俺か……? さっき登録したばかりだけど、それでもいいのか? 戦闘経験なんて無いんだけど……」


「大丈夫大丈夫! 戦い方なら俺が教えるよ! それに、パーティーには女の子がいなくてさ〜花を添えたいってのもあるかな! 別に変なことはしないさ!」


 こいつの発言から何となく理解できた。今の俺は女の子だ、だからこんなにあっさりと勧誘されたのだろうと。

 本来なら嬉しいことなんだが、なんか……目が嫌なんだ、変なことを企んでそうなそんな目をしている。

 口ではそんなことはしないと言ってるが正直信用ならない。

 仮にこのまま加入したとして、いつかきっと俺は……。

 異性になってから感じる、違和感。それに俺は少しだが恐怖を覚えていた。

 男性が苦手な女性って、こんな気持ちなのだろうか……。

 俺はすぐにでもこの場を離れたかったからか、丁重にお断りすることにした。


「せっかく誘ってくれたのにごめんな。足を引っ張りそうだからやめておくよ」


 そう言って、早々に離れようとしたが……。


「待てよ! 足でまといになんてならないって! 分からないことがあれば何でも教えるさ! な、いいだろ?」


 俺の手を掴んで男は引き止めてきた。

 怖い……身長差があるからか? それとも感じ取れる下心からか? 何にせよ、人に対してここまで恐怖を覚えたのは初めてだった。


「やめろ! 離せよ!」


 恐怖のあまり勢いよく手を振り払ってしまった。身体能力が高いせいか、振り払っただけのつもりなのに男は吹き飛び、壁に激突してしまった。

 その瞬間だった、さっきまで談笑していたパーティーたちは静まり、皆俺を見てきた。まるで、おかしな奴を見るようなそんな目線だった。


「ごめん! やりすぎた! 大丈夫か……? ケガとかは――」


「き、君……何者なんだ? こんなに力が強い子は初めて見たよ……。悪いけど、さっきの話は無かったことにしてくれないかな? …………こんな子はパーティーにはいらないよ」

 

 力がある子は嫌だってか……やっぱり予想通りだ。こういう下心が見え透いてる奴は、自分よりも弱い奴を好む。

 こんなことにはなったが、結果的にあっちから退いてくれて好都合だった。でも、この騒ぎは多くの人に見られたみたいだった。ヒソヒソと何かを話しているのが聞こえる、恐らく俺のことについてだろう。

 この空気は……居心地いいものじゃない。俺はその場を離れようとしたが、また誰かが話しかけてきた。


「あの……大丈夫でしたか?」


 さっきの男とは違い、大人しそうな声をした女の子だった。金髪で、少し弱々しい雰囲気を漂わせている。身長も、今の俺より少し小さかった。


「あぁ、大丈夫……だと思う。少し怖かったけど、もう落ち着いたよ」


「強がってはいけませんよ? 手が震えてます。ここから出ましょう? 外で一息ついてお話しましょうか」


 そう言われて気づいた。確かに俺の手は少しだけど震えたままだ。

 外に出ようと提案されたが、俺もそうするのが最善策だと思ったため、その子と一緒にギルドの外に出ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る