第6話 俺の砂に震えろ
「サンドさん、起きてください。朝ですよ!」
「んっ……ユフィア、砂時計はまだ朝じゃないよ……」
「砂時計もちゃんと朝になってますよ」
ゆさゆさと身体が揺れる。
目を開けて上半身を起こすと、テーブルには沢山の朝食が並べられていた。
香ばしいの匂いが漂う焼き魚、柔らかくてモチモチの白いパン、新鮮なサラダ。
そしてエプロン姿、青髪の美女――ユフィア。
俺たちがパーティを組んでから一週間が経過していた。
「
周りを見渡すと、綺麗なキッチンとテーブル、ベッド、チェア、ソファ。
先日、俺たちはパートナーとなった。
ここは二人の新婚の家――なんて事はなく。
全部、俺が砂で作った新居もとい、砂居。
いつもならただの砂だが、そこにユフィアの水を少し加えており、ベッドはさらに弾力性がある。
更に砂で作ったタンクに【聖水】を入れてもらっているし、奥にはシャワーまで完備。
砂の椅子に座ると、ユフィアが砂のフォークとスプーンで取り分けてくれた。もちろんボロボロこぼれたりはしない。
これも、水で強化しているのだ。
「どうぞ、召し上がれ!」
まるでご主人様みたいだが、ただの仲間である。
一口食べると、あまりの美味しさに砂をぶちまけそうになった。
「最高だ……」
「ふふふ、良かったです。お料理はもう随分としていなかったのですが、腕はなまってなかったみたいですね」
「貴族なのにめずらしいな。うちの奴らなんて、料理どころか味付けが悪いと皿を投げつけてたぞ」
「……それは最低ですね。人には、もっと敬意を払うべきです」
ユフィアは天然だが、とても真面目な女性だ。
原作で死亡してしまうのも街を守るためだったはず。未来は改変させてあげたいが、この性格は変わらないでいてほしい。
「今日もギルドへ行きますか?」
「その予定だ。お金もある程度稼げたが、任務を拡大させたいから、ゴールドまであげたいしな」
「それにしてもびっくりです。私が、こんなにも早くシルバーになれるだなんて……」
ユフィアの腕には、ブロンズを超えて次、シルバーのアクセサリーが付けられていた。
初めてパーティを組んだ日から、ずっと任務をこなし続けたのだ。
彼女の水魔法はまだまだ発展途上。それでも目に見張る速度でレベルも、上達もしていっている。
スキルに関しても、めちゃくちゃ驚いていた。
レベルは5で、俺は10で、このあたりにしてはガンガン上がっている。
「いずれダイヤモンドまでいけるさ」
「あはは、そんなの無理ですよ」
いけるよ。君なら。
むしろいけなかったら俺のせいなので、いってください。
俺は自由を謳歌しようとしていたが、彼女は自由でありながらも正義と秩序を重んじている。
街中で困っている子供がいれば声をかけにいくし、狩場で傷ついている人がいれば助けに行く。
砂の国を作るにあたっても法律は必ず必要だ。
その為には清く正しい存在が必要不可欠。
彼女はそんな人だ。
ほんと、凄い――。
「お水が切れちゃった。サンドさん、飲みますか?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「あはは、元気ですね。じゃあ、注ぎますね」
次の瞬間、勢いよくウォーターマーライオンしながら、土ポットに水を補充してくれた
いつまでたっても慣れない光景に、思わず土フォークが止まる。
ちなみに水は綺麗だ。めちゃくちゃ綺麗。
後、口の中から出ているわけじゃない。
正しくは唇を円として魔法陣が展開し、空中から捻出されている。
決して、口内からではない。
「できましたよ。――め・し・あ・が・れ!」
さっきと違ってもの凄くえっちだが、これはただの水。
――ごくごく。
今日のユフィア聖水も美味しい。
「もう一杯もらっていいか? できれば、入れたてで」
「え? いいですけど、どうして?」
「何となくだ」
うん、エロイエロイ。
いや、間違えた。美味しい美味しい。
◇
「よし、準備オッケーか?」
「はい! ばっちりです!」
食事を終えてドアを開けて外に出る。 ここは街の一角で、めちゃくちゃ安く土地だけを借りた。
そこに即席で家を建てたのである。
「家を消すから、少し離れててくれ」
「はい! にしても何度見ても驚きですねえ」
「そうか?」
手を翳すと、砂家が最小限に小さくなっていく。これも、安全の為だ。
初日こそ宿で過ごしていたが、二日目からはここに住んでいる。
俺がいればどこでも豪邸。
で、ユフィアがいればゴブリンにこん棒ってわけだ。
この世界のことわざなんだが……なんか弱くないか?
レベルも上がって、今は10体の砂女子を出せるようになっていた。
このレベルが上がってくる感じはたまらなく快感だ。
さすが【フリファン】、神ゲーはリアルでも神ゲーってことだな。
空を見上げると太陽がまぶしい。
俺にはまだ足りないものがいっぱいある。
これからもっと頑張ろう。
「ユフィア、今の水の限界容量はどんな感じだ?」
「正直、びっくりするぐらい増えています。前は竹筒一本分ぐらいでしたが、100本はいけそうですよ」
「ハッ、さすがダイヤモンドだな」
「だから、シルバーですよ」
「そのうちそうなる」
ユフィアはやっぱり天才だ。
俺が少し手ほどきしただけでコツを掴んで、今やシルバーどころかプラチナ下位ぐらいの強さがある。
「ユフィア、強くなっても俺を忘れないでくれよ」
「ふふふ、面白いこといいますね」
「おいこらクソユフィア、てめぇまだいたのか!」
そのとき、後ろから声がした。
振り返ると、立っていたのは、ユフィアの元パーティ、ガルダンのクソどもだ。
何ともまあ災難なことに、彼女がいなくなってから狩場で負けまくっているらしい。
きっと陰ながら尽力を尽くしていたのだろう。それすらも気づかず、身の程知らずの高ランク狩場に挑んでいると噂で聞いた。
奇跡的に顔を合わせることはなかったが、ついに対面だ。
「私がどこにいようと、勝手ではありませんか?」
ユフィアは震えることなく強く言い放った。
態度も、レベルも、以前の彼女じゃない。
「偉そうによお。俺たちが戦いのイロハを教えてやったんだろ?」
「そうよ! 本当に偉そうに。それにそこの男、まだいたの!」
「そうだそうだ!」
まったく、偉そうな奴らだな。
お前らは何もしてないというのに。
「いるも何も、俺とユフィアは仲間だからな」
「その通りです。私には凄く大切なパートナーがいます。あなた達は必要りません」
告白みたいで驚いたが、ただのチームメイトという意味だろう。
「な!? テメェ、俺の女に手を出しやがって」
「私はあなたの女ではありません。――サンドさんの女です」
う、ううん? いや、気のせいだろう。
そうか、この輩にはこのぐらい言ったほうがいい。
「ガルダン様がここまでいってるのに、偉そうに! いいわ、力づくでパーティに戻してあげる」
「へっ、へへ、後悔すんなよ」
するとこいつらは、街の往来にもかかわらず武器を取り出した。
もちろん争いはご法度だ。
正当防衛になるだろうが、問題が一つ。
それは、ユフィアがパーティーを抜けて間もないことだ。
もしかすると、チームの争いだとみなされてしまう可能性がある。
場合によっては、見過ごされるときも。
いや、それを逆手にとって、こいつらを砂ボコにしてやるか?
まだ人前で目立つのは避けたかったが――。
「サンドさん、私に任せてください」
「……あいつらは三人だぞ」
「はい。でも、元パーティのことは、私の責任です。それに――今なら負ける気がしません」
なら、見学させてもらうか。
「調子に乗りやがって。ユフィアごときが! お前ら、手加減なしでいいぞ!」
「――バカ女ね!」
「へへっ、へへへ!」
ガルダンたちは雑魚だが、それなりに連携は取れている動きを見せた。
まっすぐに駆けた男二人と、魔法で支える女。
ま――それだけじゃ今のユフィアに勝てねえがな。
「――水散弾」
ユフィアは、手のひらから水を生成し、弾き飛ばした。
口じゃない、手だ。手。大事な事なので、二回。
この世界に銃はない。魔法はイメージの世界で、彼女に散弾銃を伝えるのには時間がかかった。
だが、彼女は物にした。
水が、無数に飛び散っていく。
魔法防御を破壊し、ガルダンたちに直撃すると悲鳴を上げた。
威力は手加減しているらしく、死んだわけじゃない。
更に周りには被害が及ばないように細やかな操作も。
凄いな……さすが将来ダイヤモンド。
ただ、俺を超えるのだけはやめてくれよ?
「ひ、ひい……な、なんだよその力! お前ズルでもしたのかよ」
「いいえ、これはサンドさんのおかげです。これに懲りたら、もう私に構わないでください。――サンドさん、行きましょう」
「そうだな」
俺ならもっと容赦なくやるが、これが彼女の良い所でもある。
だが俺は知っている。
こういう奴らが、根っからのクズってことを。
「バカが、後ろを見せやがって。死ね、ユフィア!」
――バカは、お前だ。
「――な、なんだこれ、なんだよおおお」
俺は、砂でガルダンを包んだ。
まるで、樽の中に入ったガルダン。
異様な光景が映し出されている。
このまま砂女子を出して遊ぶか?
ガルダンヒゲ一発の出来上がりだ。
「だ、出してくれ、出して」
「ああ――出してやるよ」
だがな、俺はそんなに優しくない。
――砕け散れ。
そのまま手のひらを拳にすると、ガルダンの悲鳴が聞こえた。
骨を何本かいっただろう。
これでも手加減してやった。
「な、何だあの魔法……」
「砂? 始めた見たぜ」
「す、すげええ……本当にシルバーの二人か?」
目立ってしまったが、それなら仕方ない。
この街にそこまで長いするつもりもない。目指すは王都。そっちのほうが、色々イベントもあるしな。
その後、ガルダンたちは周りの証言のおかげで憲兵に連れていかれた。
色々と噂も耳にしたが、ギルド相手に金銭を誤魔化すなどの悪いこともしていたらしい。余罪が出てきたりしたら、当分は出てこられないだろうな。
ふと視線をユフィアに向けると、少しだけ申し訳なさそうだった。
優しすぎる。だが彼女はそれでいい。
「気にするなユフィア」
「……ですね。サンドさん、ありがとうございます」
「後、冗談パートナーってあんまり言ったらダメだぞ。勘違いされるだろ」
「え? どういうことです?」
「いやその、結婚とか、婚約みたいに感じるからな」
「違うんですか? だって、私の水を飲んで、間接キスだなっていってくれたじゃないですか!? あれって、婚約の証ですよね?」
「……え?」
確かに前、狩りの途中で冗談交じりで言ったことがある。
キスしちゃったなって。
え、それで婚約した?
「だ、だってキスって……こ、恋人同士がするものですよね!?」
ユフィア・アーリア。
将来はダイヤモンドの魔法使い。
真っ直ぐな心を持ち、正義感溢れる美女天然。
――そして、俺の婚約者。
いや、流石にその改変はやりすぎじゃないか!?
始まりの街で生涯の伴侶も早くない!?
「間接キスはその……あれだな。仲良くしましょうって意味みたいなもんだ」
「そ、そうだったんですか!? 私はてっきり……わかりました。婚約を前提としてお友達からよろしくお願いします!」
「お、おう?」
まあ、それなら大丈夫か? いやわからんが。
そういえば、ゲームの裏トロフィーで妾100人っていう称号があったことを思い出す。
到達した奴はいなかったが、30人まではものにしたやつを聞いた事があった。
もちろん行為もある。朝チュンでわからなかったが、この世界なら。
……いかんいかん。
砂砂砂、俺は砂の国を作るのだ。自由は自由でも、そういうのは違う。
真面目な砂だ。真面目な砂ってなんだ?
「喉渇きましたね。サンドさん、お水飲みますか?」
「飲みます。いれたててお願いします」
いや、やっぱり妾100人目指そう。
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