第5話 純度100%+カルシウム含のマーライオン
さっそく冒険者ギルドで受けた後、少し離れた森までユフィアとやってきた。
内容はアイアンよろしくの薬草拾いだが、下に生えている草を拾わずに、奥まで突き進む。
それに気づいたユフィアが、驚いた様子で声を上げた。
「サンドさん、どこへ行くのですか!? これ以上は危険ですよ!?」
「わかってる。まずはお互いの自己紹介をしようと思ってな」
「自己紹介……ですか?」
開けた場所で立ち止まると、ユフィアは「……確かにそうですね」と頷いた。
冒険者の世界の
原作で彼女の能力は知っているが、今がどの程度なのかはわからない。
実際この目で確かめておく必要がある。
すると彼女が、振り返って咳払いをした。
さあ、見せてくれ、神託級の魔法を――。
「わ、私の名前はユフィア・アーリアです! 好きなものはスパイスの効いた食べ物で、嫌いなものは粗暴な人です。元男爵家で……今は冒険者……です!」
「……え?」
「あ、え、そ、そのすいません!? ……さすがに短すぎましたね。誕生日は八月で、好きな異性のタイプは……優しくて一生懸命な人です! は、恥ずかしい……です」
突然の事で呆けていると、ユフィアは顔を真っ赤にしていた。
そういえば……プロフィールに真面目って書いてたな。
ここでそういう意味じゃなかったんだけどっていうのも、なんか申し訳ないな。
よ、よし。
「ご、ごほん。お……俺の名前はサンド。好きなものは砂で、嫌いなものは偉そうな奴。元子爵家で……今は冒険者だ」
「え!? サンドさんも元お貴族様なのですか?」
「ああ、一応な。だから、境遇が似て――」
すると突然、ユフィアが俺の両手を掴んだ。
え、なに!? 好きなタイプに該当した!? 付き合う前に結婚、ゴールイン!? 子供は二人で、男の子と女の子!?
いや、よくみると涙目になっていた。
感受性豊かと書いていたことを思い出す。
「……それはお辛かったですよね。よくわかります。でも嬉しいです。同じお気持ちを理解できる方とお会いできて。私たちは、とても良いパートナーになれそうです!」
「だ、だな!」
ちょっと騙しているみたいで気が引けるが、追放されたのは本当だ。
まあ、追放されて喜んでいたが。
「で、能力は――」
「あ、あのサンドさんす、好きなタイプは……?」
「……真面目で、感受性が豊かな人だ」
「おお! いいですね!」
もし元の世界に戻ったら、彼女のプロフィールに天然も追加しておくか。
しかしやっぱり悪い子じゃないな。
むしろ、良い子過ぎて不安になってくる。
そりゃあのパーティーに合わないわけだ。
そのとき、物音が聞こえた。
ガサリと出てきたのは、このあたりで一番獰猛な魔物、リザードマンだった。
こいつがいることは知っていた。初心者キラーとしてなぜかこの森に出現するのだ。
だがその分、経験値も美味しいはず。
「さ、サンドさん! お敵でございます!」
そこに「お」いるのか? と思ったが、まあそれはいい。
「ユフィア、自己紹介パターン2だ。能力を見せてくれるか?」
「えええ!? で、でも大したことないんです本当に! だからに、逃げないと!?」
「大丈夫だ。俺がカバーする。遠慮なく、ぶっ放してくれ」
リザードマンは俺たちを見つけて突っ込んできた。
【砂】の準備はオーケー。いつでも動きは止められる。
ユフィアは臆病者じゃない。
震えているが、まっすぐに敵を見つめている。
こんなこともあろうかと、小さいがそこそこ使える魔法の杖をロック家から拝借していた。
それをさっきプレゼントしたのだが、それもまた嬉しかったらしく涙を流していた。
いい子なのは良いが、もし原作と違ってあまりにも弱いとずっと同じパーティは組めない。
少し偉そうだが、この世界は残酷で現実だ。
魔物がいる世界。甘いことなんていってられない――。
「――
だがユフィアの魔法を見て思わず笑みをこぼした。
まだ小さいが、魔力がしっかりと詰まった水の塊。これからの事を考えると、思わず気分が高揚してしまうほどの密度が詰まっている。
それがヒュンッと飛ぶと、リザードマンの目と鼻に直撃した。
魔物のほとんどが俺たちと同じで、視覚と嗅覚で敵を視認、酸素を取り込んで窒素を吐いている。
つまりどうなるのか?
「グッギギャアアアアアアアア」
――溺れるのだ。
足を止めて、リザードマンはその場で剣を振り続けた。
確かにまだダメージはほとんどなく、発展途上だ。
だがそれをわかっているからこその魔法。
最小限の力で、最大限の力を出した。
さすがだ――。
「す、すいません! これぐらいしか――」
「最高だ。いい自己紹介だった。――次は、俺の番だな」
最初だ。できるだけ派手なほうがいいだろう。
砂女子でめった砂刺しにしてもいいが、できれば彼女から尊敬されたい。できれば称賛もされない。できればモテたい。
決してユフィアが可愛いからじゃない。ちょっとだけ黄色い声援が欲しいだけだ。
魔法はイメージの世界。
ゲームではコマンドを選ぶだけだったが、今は違う。
無限の可能性が、広がっている。
「――グギャア!?」
「お前は、砂の竜巻を見たことがあるか?」
砂で動きを止めると、竜巻をイメージした。
砂埃が徐々にくるくると踊りはじめると、一気に加速する。
やがて砂がはじけると、リザードマンに直撃した。
これが新しく覚えた――
カッコイイ名前だ。
直撃すると、風圧と主に空に飛んでいった。
……やりすぎたか? ドン引きされるかも――。
「凄い……凄い凄い凄いです! 本当に凄いです!」
だがユフィアは喜んでいた。
流石この世界の住人、ちゃんと肝も据わっているらしい。
「でも、これはまだ序の口だ。レベルをあげれば、ユフィアも強くなるよ」
「……そのレベルというものがあがれば何とかなるのでしょうか? この杖のおかげで魔法もいつもより強いとはわかりましたが」
いずれダイヤモンドになるとは流石に言えないが、俺が傍にいればもっと早く到達できるはずだ。
非業の死を遂げるのも回避してあげたい。
すると、ユフィアが「……え、【ステータス】? と呟いた」
「もしかして、視えたのか?」
「え、あ、はい! 声がしました【信頼できる仲間】の条件をクリアしたと。レベルが、書いてあります。あれ【水】ではなく、【
ハッ、そういうことか。
時系列を考えると、原作ではまだあのパーティーにいたはず。
だがそれを俺が早めた。
これから彼女は、どんどん強くなるはずだ。
【ステータス】は彼女にしか見えなかったが、俺と同じで1レベルかららしい。
ここからスキルを覚えていく思うと、楽しみだ。
それから喋りすぎてしまい、少し喉が渇いたなと思っていたら、どこからともなく竹筒を渡してくれた。
とんでもなく透き通った水。
そうか、これは盲点だった。
彼女がいれば飲み水に困ることがない。
原作で喉が渇いてわざわざ水を飲む、なんてコマンドはない。
砂の唯一の弱点もカバーできる。
やっぱり俺たちは相性がいい。
笑顔で礼を言ってゴクゴクと飲み干す。凄い、サラサラしていて、それでいて飲みやすい。
「ありがとうユフィア、俺が飲んだ水の中でも一番美味しいよ」
「本当ですか!? パーティーメンバーの人は、気持ち悪いといって一滴も飲まなかったので……」
ほんとうに最低な奴らだな。まったく、水分補給は大事だというのに。
「まだ飲まれますか?」
「ああそうだな。いいのか?」
「はい! お待ちくださいね!」
するとユフィアは、ニコニコと微笑んだ。
本当にいい子だな。ちょっと真面目で変な子だと書いていたが、とにかくいい子だ。
ん? どうした? なんで口をあけてるんだろ――。
「――チョロロロロロ。はい。できましたよ!」
「……ん?」
するとユフィアは口からマーライオン。いや違う。
口から唾液? いや、水をジョボジョボ出していた。え? ええ?
「な、何してたんだ? 唾液……?」
「え? あ、いえ! 水魔法です! 色々試したんですが、これが一番綺麗な水が出るんですよ! 大丈夫です! 凄く綺麗なんで!」
満面の笑みでそう言われて手渡される。
何とも言えぬきまずさで飲み干すと、やっぱり美味しかった。
これが、ユフィアの聖水。
「……もう一杯もらえる?」
「はい! チョロロロ」
やっぱり水魔法は最高だな!
その後、もう一回おかわりした。
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