第4話 ダイヤモンドプレイヤー

 バレないように地面の砂をかき集めていたら、怯えていた青髪の女の子が少しだけ言い返していた。

 元男爵家なのは間違いないらいし。とはいえ、装備は初心者用みたいだが。


「……確かに私にも至らない点はあったかもしれません。ですが、家の事を馬鹿にしてほしくありません。私の両親も、使用人たちも、とても立派でした」

「ハッ、だったらなんでお前はそんな落ちぶれてんだよ? あ、そうか、親が事故でおっちんで没落したんだったな?」

「自分だけが不幸のど真ん中みたいな甘い態度して、そういうのがムカつくのよ。ほら、パーティを追放されたくなかったら、ガルダンの足でも舐めなさいよ」


 男たちが遠慮なくまくしたてる。

 そういうことだったのか。しかし、さすがに言い過ぎだ。


 すぐにでも助けることはできる。


 だが彼女は、怯えながらも立ち向かっていた。

 自分の主張をしっかりできないと、結局どこかで淘汰されるだろう。

 けれども相手の男は、彼女よりも遥かに身長がある。


 普通なら怯えてもう言えないだろうが――。


「……それはできません。私にも誇りがあります」

「うるせえ! いいか? お前の命は俺が握ってんだよ。やれっていってんだろ!」


 そのとき、リーダーの男が彼女の頭を掴もうとした。

 無理やりにさせるつもりか。


 しかしよく言った。


 ――後は俺に任せろ。


「――い、いってえええええええええええええ! なんだよこれ!? 砂か!?」

「オッサン、新人に当たるなんてみっともないぞ」


 俺は、冒険者ギルドの地面に落ちていた微量の砂をかき集めて、砂の盾を作った。

 青髪を守るように展開したのだ。こいつは硬い土を殴ったも同然で、痛そうに手をさすっている。


「あんた誰? 私たちの事を知ってる? 泣く子も黙るガルダンファミリーよ」

「知らねえよ。おばさん」

「おば――私はまだ四十代よ!」


 ……年齢について言及すると角が立ちそうやめておく。

 それより、こいつらは流石に目が余る。


「ん? くっくっくははは、おい、よくみろそいつの手に持ってるやつ」

「え、何あんた。アイアンの癖に私たちに絡んできたのかい?」


 ついさっきもらったアイアンのタグを見て、鼻で笑われた。

 目、鼻、口、耳、穴という穴を、砂で塞いでやろうか?


「あなた達、これ以上はやめなさい! 規定職務違反になりますよ」


 そのとき、後ろから先ほどのギルド受付のお姉さんが叫んだ。

 パーティ同士の揉め事はある程度容認されるが、過度がすぎると流石にルール違反。


 男は舌打ちをして、ぶっきらぼうに言い放つ。


「ちっ、行くぜ。おい――ユフィア、お前もだ!」


 ん……ユフィアだと?


「……私はパーティを抜けます。あなた達に感謝はしていますが、これ以上はついていけません」

「ああん? テメェ、いい加減にしやがれ!!!!!!」


 男が、また問答無用で拳を振りかぶる。


 ――いい加減にするのは、お前のほうだ。


「――ひ、ひゃああああああああああああああああ」


 俺は、砂女子ゴーレムを一体作り上げた。

 そのまま男のおしりに砂剣をぶっさす。

 

 おしいな。もう少し砂があれば明日から垂れ流しだっただろう。


「い、いってええええ。な、なんだこいつ、お、おい! こいつを何とかしてくれ!」

「す、すばしっこいのよ!?」

「い、いってええ、くそ! ユフィア、覚えとけよ!!」


 何度かぶっ刺すと、男たちが逃げていく。

 ユフィアと呼ばれた青髪はかなり頑張っていたらしく、肩が震えていた。


「大丈夫か?」

「は、はい。あ、あの……ありがとうございました。初めてパーティに誘われて入ったんですが、ずっと無茶なことを言われてしまっていて……」


 その姿は、かつて上司に文句を言われ怯えていた部下を思い出した。

 あの時は立場があって助けられなかった。

 だから、感謝したいのは俺のほうだった。


 いや、その前に――。


「もしかしてだが、下の名前……アートリアっていわないか?」

「え、ど、どうして知っているのですか!? もしかして、生前の父とお知り合いなのでしょうか?」


 やっぱりだ。


 彼女の名前はユフィア・アートリア。


 【フリファン】の中でも人気の高いキャラクターだった。


 男爵家に生まれた彼女だが、身内の不幸で、ポツンと世界に放りだされる。

 それからは様々な困難が降りかかる。


 そして最後は、魔物のスタンピートを防ぐために、亡くなってしまうのだ。


 それを知っているのは、俺だけか……。


「ああ、面影があったからな」

「嬉しいです。だから助けてくれたんですね。本当にありがとうございます」


 ユフィアの性格は、聖女のように素晴らしいと書かれていた。

 なのに、理不尽すぎる最後を遂げる。


 ……このままだと、間違いなく。


「これからどうするんだ? パーティを抜けたみたいだが」

「……一人でも冒険者を続けます。恥ずかしながら、明日食べるご飯がなくて」

「だったら俺と組まないか? ちょうどパーティを探してたんだ」


 すると彼女は目を見開いた。それから、微笑んだ。


「お気持ちは大変嬉しいのですが、その……すみません。私は彼らの言う通り、本当に落ちこぼれなんです。だから、ご迷惑をおかけしてしまいます」

「いや、そんなことない。ユフィア、君は強くなるよ。その杖は初心者用だからな」

「……それは知っているんです。本当にお金がなくて、これしか……。それと私、貴族学園でいつも最下位だったんです」


 最下位? ユフィアが?


 これは原作とは違う、なぜなら彼女は――いや、もしかしたら。


「ユフィア、【ステータス】を知ってるか?」

「え? 【ステータス】とはなんですか?」


 やはりそうか。

 俺は家を追放されたことにより【ステータス】が現れた。

 もしかしたら、彼女にも条件があるんじゃないか?


「俺が保証する。ユフィア、君は強くなるよ。だから、パーティを組んでほしい。俺もまだアイアンだが、二人でやればきっと狩りも楽なはずだ」

「……ありがとうございます。本当に良いのでしょうか?」

「ああ、”君”がいいんだ」


 これは決して彼女の為だけじゃない。


 ユフィア・アーリア。


 原作で俺が知っている彼女は、空を駆けまわり、とてつもない魔法で多くの魔物を倒していた。


 だから気づかなかったのだ。

 まさかあのユフィアだと思わなかった。


 彼女が原作で亡くなるまでに到達した冒険者ランク。


 それはなんと――ダイヤモンド。


「魔法は、何が使えるか教えてもらえるか?」

「私は、【水】しか使えなくて。それも、大した魔法できません」

「……最高だな」

「え?」


 彼女はまだ気づいていない。


 ユフィアの本当のスキルは【水】ではない。 

 儀式でも稀有すぎてわからなかったのだろう。


 本当のスキルは神託級。

 そして、俺と最高の相性、【水】の亜種――”凍”だ。


 さて、楽しくなってきたぜ。




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