Epistle X — The Cinderella Quadrille
43.一途な一幕
†
ゴールデンウィークが開けると、篝乃会ではダンスパーティーの練習はもちろん、聖母祭の準備も並行して進められるようになった。
聖母祭の当日はまず、午前中に学院行事である『御宿りの祈り』が行われる。篝乃会のメンバーが学院敷地内にあるマリア像を巡り、それぞれに花冠を捧げていく。一般の生徒はクラスごとに定められた場所に集まり、聖書の朗読や聖歌の斉唱、お祈りを行う。
「ねえアリサさん、少し理不尽な話だとは思いませんこと?」
生徒会室で美弦と二人きりになった際、不意にそんなことを訊ねられた。
「『御宿りの祈り』は格式高い学院行事であり、花冠を捧げることも各役員に割り振られた大役です。本来であればあなた方新入生にも果たす義務が生まれるはずですが、篝乃会への正式な加入はあくまでダンスパーティーのあと。ゆえにその大役を担うことができません。にもかかわらず、こうして準備だけはお手伝いしなければいけないなんて」
「いえ、わたくしは別に。準備に携われるだけでも光栄だと思っていますわ」
小道具に関する書類の整理をしながら当たり障りのない返答をする。
美弦は相変わらずほくそ笑んでいるばかりで、なにを目的に話しかけてきているのかいまいち読み取れない。
「ふふ、優等生らしいご返答ですこと。貴船さんのご指導が行き届いている証拠かしら。そういえば、今日はまだお姿を拝見していませんわね」
「お姉さまでしたら被服室です。家庭科クラブに依頼していたドレスの確認で」
「そうですか、あの方には適任ですね……それより、テーブルの下に書類が一枚落ちていますの。そそっかしい長妻さまが落として行かれたものです。アリサさん、拾って届けに行っていただけませんこと?」
「どうして、長妻さまが落とされた時にお呼び止めされなかったのですか?」
「茂みから飛び出した
「手袋をされていても、ですか?」
「白い手袋は汚れが目立つものですから。ご存知の通り」
アリサは仕方なく指示に従い、書類を拾って長妻藤花を捜しに行くことにした。このまま美弦と二人きりでいるよりは気楽な仕事に思える。
部屋を出ようとした時、外からドアを開けた讃と鉢合わせた。今日も両腕で大事そうにテディベアを抱えており、無機質な眼差しでアリサを見つめてくる。
「姫裏さま、ちょうどよかったです。長妻さまが書類を落とされたそうなので届けに伺おうと思うのですが、どちらにいらっしゃるかお心当たりは――」
「讃が行くから、いい」
アリサの手から素早く書類を抜き取ると、讃は踵を返して廊下を歩いていった。
「ふふ、相も変わらず一途なお方。アリサさんもそう思うでしょう?」
アリサは零しかけた溜め息をぐっと堪え、また書類整理の仕事に戻った。
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