地球という名の遊園地

さんがつ

【小噺】地球という名の遊園地

ここは閉園の決まった、とある星の遊園地です。


この星の遊園地は、他所の星では体験する事が出来ない、レアな遊具が沢山置いてあります。

しかしどの遊具おもちゃも時代遅れ。

今となっては古臭く、替えの効かない部品ばかりで、メンテナンスが出来る状態では無さそうです。


「多くの遊具おもちゃもいつかは壊れる。そして皆の記憶から薄れ、知らぬ間に消えていくものなのだ」


数多の星を統括する大きな星に住む人達がそう言っているので、この星の遊具おもちゃ達はそういった運命を辿ると決まっていました。




*****




さて。

あなた方はそんな「いわく付きの遊園地」にやって来たようですが、こちへやって来た目的は何でしょうか?


あぁ。なるほど。


「閉園前に楽しみたい?」


そうですね。わかりますとも。

もう少しで閉園しますものね。最後にもう一度…。そのお気持ちはよくわかります。


では。

そちらのあなたはどうですか?


おぉ、なるほど。


「レアな遊具が知りたかった?」


なる程です。えぇ、好奇心に勝るものは有りません。

そんなあなたにはこの星の遊具おもちゃはピッタリだと思います。


ではお隣の方は?


「遊具の修理が出来るからやって来た?」


本当ですか?

なるほど。この広い宇宙です。そう言った方が一人位いらっしゃっても全く不思議にも思いませんね。

うん、うん。

なるほど、なるほど。聞けば聞くほど、それは素晴らしいアイデアですね。


え?

私ですか?

う~ん。そうですね…。

お答えしにくいのですが、実はここに来る予定では無かったのです。


つまり、何と言いますか…。

実はこの星の最寄り駅…えぇ、宇宙ステーションの「月の駅」ですが、そこで下車する予定は無かったのです。


ところがこの星の遊園地が閉園すると聞いた、あなた方のような方が大勢いらっしゃいましたから、成すすべもなくこちらへ来た次第です。


えぇ。そうです。

大勢の人の波にのまれたままの状態で電車を降りて、そのままこの場所まで来てしまった…といったところです。


はい。

そんな間抜けだから、あなた方とは違ってこのような姿なのです。

まったく返す言葉もありませんね。


ところがですね。

ミイラ取りがミイラになるとは正にこの事で、そのような具合でこちらにやってきましたが、大勢の人が楽しそうにこの遊園地を目指しているのを見ていたら、彼らが何を楽しみにしているのかが気になってしまい、気が付いたら遊園地の中まで一緒に入ってしまいましたのです。


ん?

だったらもう一度、一緒に遊びませんか?ですか?


いいえ、いいえ。

お誘い頂いて、とても嬉しい気持ちなのですが、私はここの遊具おもちゃで遊ぶつもりは一度も無かったのです。

はい。この星に住んでいるのに一度もです。

私はただ楽しんでいる人の顔に興味があっただけの様で、彼らを見ているのが楽しいのだと気が付いたのです。


「こんな所まで来たのに勿体ない?」


はぁ。

そう言われましても。

う~ん。困りましたねぇ。


あぁ、そうだ。

ほら、例えばですが、あの急流下り。


「水が跳ねて楽しそう?」


いいえ、いいえ。

私は水に濡れるのが嫌なのです。

それにあのジェットコースターも。


「風をきって楽しそう?」


いいえ、いいえ。

あのような乗り物。恐ろしくて自分が乗りたいだなんて、ちっとも思わないのですよ。

うん?あのサーカスの猛獣ショウですか?


「火の輪を通るのがドキドキする?」


いいえ、いいえ、

あのような危ない行為。ましてや動物がするだなんて恐ろしいとしか思えません。


とは言ってもですね。

先ほども話しましたが、皆さんが楽しそうにはしゃいでいる様子を見るのは、楽しくて気分が良いものなのです。

そうなんです。

楽しそうな笑い声なんて、聞いているだけで私も嬉しくなってきますよ。


おや?

何の合図でしょうか?

今、大きなラッパ音が聞こえましたね?


あぁ、そうだ。そうでした。

今から閉園記念のパレードが始まるのでしょう。

閉園もこの星のお祭りのようなモノらしいですからね。きっと盛大で、大変な混雑具合になるでしょう。


えぇ。そうです。

私は「楽しそうだな」と思う前に、混雑具合の心配をしました。

そうなんです。きっと私はそういう性分なのです。


という事ですから、そうなる前に、そろそろから出ようと思います。


うん?

それは勿体ないから、パレードの最後まで見届けた方が良いのではないか?ですか?

う~ん。

確かにそうなのですが。


いえね。

ここへ来てしまった時の事を考えると、そう悠長な事は言っていられないような気がするのです。

つまり閉園の間際まで残っていると、多くの人の波に流されて、私が本当に行きたい場所とは違う行先の列車に乗ってしまいそうな気がするのです。


はい。

こればかりは私の問題なので、自分で考えて最善策を取るためにそうしたいのです。

ですから今から駅へ向かって、発車まで車内で待つことにします。

もし早く出発する列車があれば、先にから出ても良いかも知れません。


そうです。私はそういった性分なのです。

えぇ。私はそういったつまらない考えのですから、先にから出ようと思います。


いえいえ。

お気遣いいただきありがとうございます。

はい。皆さん方は最後まで楽しむのでしたね。

きっと最後は素晴らしいパレードになるでしょうから、皆さん形の良い思い出になると思います。


では皆さん。

そろそろ私は失礼させていただきます。

そうそう。

最後までお気をつけてお帰り下さいね。


それでは、またいつか。

次にお会いする日までの暫しの間のさようなら…でしょうか?




*****




あぁ、先に駅に来て正解でした。

そしてすぐにでも発車する列車を選んで幸いでした。

まさかこの星が崩れるのも遊園地のショーだったなんて。


最後は天体爆発のショーですか?

それともこれが新たな創世の合図なのでしょうか。


まさかこの私が、この星に残された多くの建造物が崩れ、全部ただの土くれになり、散り散りなるのを見届けるだなんて思いもしませんでした。


どうやら天体爆発と同時に、この星の遊園地も閉園になったようです。

全く、星ごと崩すだなんて、宇宙人は我々には思いもつかない方法で終わらせるのですね。

しかもこれが新たな地球の始まりだなんて、さぞかし宇宙人とやらは大層立派な人格者なんですね。

にはサッパリ分からない価値観ですよ。


あぁ。

そうですね。

どちらでしょうか。


人間の私は逝き損ねたのでしょうか。

それとも人間として生き延びたのでしょうか。


人間の私には、宇宙への往行は、あての無い旅のようなものです。

それに静かな車内にたった一人です。

誰に問う事も出来ず、この列車の本当の行先は人間の私にはわかりません。


ただ手にした切符を見れば、書いてあるのは出発駅の「月の駅」。

そして南十字を経由して、シリウスに行くのだとそれだけです。

何時になれば着くのか、それともいつまでも着かないものなのか。


それでも列車の窓を覗けば、広大な宇宙空間の遠くには、青白く輝く太陽のような大きな星が見えます。


そうですか。

行きたい場所は決められないのでしょうか。

きっと人間である私の行先は、切符に書いてある通り、シリウス星しか無いのでしょうね。

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