第2話 訓練開始! 飛行訓練
顔合わせも終わり、早速訓練を行うことにする。
まずは飛雷針を使っての飛行訓練だ。そのために俺たちはブルーハーバーの砂浜へとやってきていた。白い砂浜の先には青い海と空がどこまでも続いている。
俺、アテナ、ラミアー、ペル。部隊は揃っている。
「それでは、これより飛雷針を使っての飛行訓練を行う。準備はできているか? 準備ができているなら空間魔法を使って支給された飛雷針を取り出せ」
生徒たちは頷く。三人は腰のベルトに差していた魔法針を抜き、それを振った。すると空間が歪み、そこから巨大な針が現れる。その針には騎乗用のパーツが取り付けられていて車輪のないバイクのようにも見える。三メートルほどの槍のようでもある。
飛雷針はかなり大きく、かなり重い。ラミアーはなんとかそれを支えている状態だ。
「お、重いですの」
大変そうにしているラミアーに対し、アテナは口元に手を当てながらくすくすと笑う。
「へなちょこねー。あんたも身体強化魔法は常に使っているんでしょ?」
「つ、使ってはいますけど。重いものは重いのですわ」
「先が思いやられるわ。ね、おじさん」
こっちに話を振るな。先が思いやられることには同意するがな。
「身体能力の補助には強化魔法だけでなく技術部が開発した強化スーツがある。お前たちにはそれも支給されているはずだ。魔法を使って着替えてみろ」
俺がそう言うとアテナは露骨に嫌そうな顔になる。逆にうきうきした様子なのはペルだ。
「私、あれ着るの恥ずかしいんだけど」
「そうなのー? 私はあのスーツはヒーローの衣装みたいで好きだけどなー!」
「あんたの感性は独特ね」
「えへへ。それほどでもー」
「誉めてないわよ」
アテナとペルは片手で飛雷針を支えながら魔法の針を振る。そうすると彼女たちの姿が歪み、ほどなくして、体にぴっちりとしたスーツを着た姿で現れる。黒色のスーツに包まれた二人の女性的な体のラインがしっかりと認識できた。
「……これ開発したやつ変態よ。まじありえない」
「えーかっこいいじゃん!」
「かっこよくないって」
そんなやりとりをする二人の横でラミアーは飛雷針を支え続けていた。片手で飛雷針を支えながら魔法の針を使っている余裕はないようである。
「あの、すいません。誰か助けて欲しいのですが」
「しょうがないな」
二人はラミアーの消え入りそうな声に気づいていないし、仕方がないので俺が手を貸す。
「ほら、持っててやる。その間に強化スーツを着るんだ」
「ありがとうございます。ゼウス先生」
人族からの感謝を貰ってもな。
ほどなくしてラミアーも強化スーツの姿に変わる。身体強化魔法に加えて、強化スーツの効果が加わると。
「おほっ!? 軽々ですわ! 金属の塊も軽々持てますの!」
「スーツの性能は確かなようだな」
しかしなんというか……アテナやペルと比べるとラミアーは本当に非力そうな体型をしている。魔法使いとはいえ、多少は体を鍛えておくべきだと思うのだが。そこら辺も考えて彼女たちを鍛える必要があるだろうか。
「では、準備もできたところで早速飛んでみようか。飛びかたがわからない者は居るか?」
俺が聞いてみるとアテナとラミアーの二人が手を挙げた。まあ、そうなるだろう。ペルは技術部に頼まれて試験飛行を行ったりしていたようだが、通常は飛雷針に乗って飛ぶ者は限られる。これは海から来る怪獣に対抗するための特別な兵器だからだ。
「いいか。これの乗り方は魔法の箒とよく似ている。魔法の箒よりはよっぽど重いがな。だが難しいものではない。コツをつかめば乗りこなせるはずだ」
そうしてアテナとラミアーへの指導が始まった。ペルは勝手に飛び上がり上空を旋回しているが、まあ放っておこう。無茶をしたときはまたさっきのように修正が必要だろうが。
いや、あいつはげんこつをくれてやったところで簡単に修正されるような奴でもないか。何もやらないよりはましか。
「おじさん。これ本当に飛べるの!? 魔法の箒に比べて重すぎない!?」
「飛べなきゃ始まらないでしょう。わたくしは先にコツをつかんでみせますわよ」
「二人とも話してないで集中しろ」
ほどなくして先にコツをつかんだのはアテナのほうだった。彼女は上昇を始めながらラミアーへ勝ち誇った笑みを向ける。
「あんたまだコツをつかめてないのね? 偉そうなこといってた割りにはダメダメねー。じゃーお先に」
「なんですって! あなた、すぐに追い付いて泣かせますわよ」
「私が泣かされるのは千年後かしらー。あ、千年後だと人族は生きてないか。きゃはははー!」
「このエルフー!」
だから言い争いはするなって。とはいえ、アテナはコツをつかんだしラミアーももう少しでコツがつかめるのではないかと思う。
「うう……上昇できません」
「そんなことはないはずだ。思うに、今のお前は力みすぎている。もっと肩の力を抜いてみろ」
「力を……ですの?」
「そうだ。集中しつつリラックスだ」
ラミアーは目を閉じた。そして、ふわりと彼女は上昇を始める。やがて彼女はアテナと同じ高さまで追い付く。
「追い付きましたわよ。さあ、あなたを泣かせて差し上げますわ」
「ところでどうやって私を泣かせるつもりなの? 聞かせてもらいましょうか?」
「それは……その……」
「お嬢様はお優しいのねー。お優しすぎて人を泣かせる方法も思い付かないみたい。それともただの馬鹿なのかしらー」
「このエルフー!」
はあ、放っておくといつまでも言い争っていそうだな、あの二人は。
俺は腰のベルトから魔法の針を抜き軽く振った。
飛雷針が出現し、強化スーツに身を包む。俺のスーツは生徒たちのものより古い旧式のスーツだ。外見は伝統的な甲冑のようであり、これを着るたびにかつてエルフの兵を率いて戦っていた時代のことを思い出せる。
飛雷針に乗り生徒たちの元へと上昇する。
俺の姿を見るなりアテナはラミアーとの言い争いをやめて羨ましそうな視線を向けてくる。
「ゼウスおじさんのスーツは良いよね。ぴっちりしてなくて」
「お前たちのスーツのほうが性能は高いはずだ。俺は広報からこのスーツを着るようにいわれてるから、ずっと古いスーツしか着られない。お前たちが羨ましいよ」
「だったら私のスーツとおじさんのスーツとで交換する?」
「馬鹿言え」
さて、飛行訓練を始めようか。
「俺が先を行く。お前たちはついてこい」
「は、はい!」
「了解だよー!」
ラミアーとペルの二人が返事をし、アテナもついてくる。まずは軽く飛行して、生徒たちが飛雷針に慣れるようにする。それからが本番だ。
「ちゃんとついてこられるか? それすらできなくては話にならないぞ」
と言いつつも生徒たちをおいていくつもりはない。飛雷針の最高速度は最高で時速四百キロほどだが、今はその十分の一程度の速度で飛行する。安全すぎるほどの安全運転だ。
目的はあくまでも生徒たちを飛雷針での飛行に慣れさせることだからな。速く飛ぶ必要はない。少なくとも今はな。
「簡単なものだろう? 魔法の箒になら子どもだって乗ってるんだ。それと同じ要領のこいつを操れないわけがない」
「はい、なんとか」
「思ってたよりは簡単なものね」
よし、アテナもラミアーも居るな。ペルはあまり心配していない。
多少の心配はあったが、生徒たちはちゃんと俺の飛行についてきた。要領は魔法の箒と同じなのだ。
「こいつに乗って飛ぶのが楽しくなってきたんじゃないか?」
「そうね。おじさんの飛行技術に追い付くのも時間の問題かしらー」
ずいぶんな自信家だな。
「なら、アテナ。もう少し飛んだら、ひとつゲームをしてみようじゃないか?」
「ゲーム?」
聞き返してくるアテナに俺は応える。
「ああ、簡単なゲーム。鬼ごっこだ」
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