第8話 聖弥と警察と

 聖弥は來夢からの許可が出たところで、すぐに二階から一階に飛び降り、警察の前に立った。


「何のつもり?」

「魔法使いを全員殺す。それがこちらの仕事なんでね」


 部隊のリーダーらしき男が、集団の前に出てきてそう答える。


「協力だけさせておいて。人間としてどうなの?」

「人殺しをする魔法使いに言われたくないな」

「別に街の魔法使いは殺してないんだけど。善悪の判断もできないわけ?」

「魔法使いは悪だ。それは明白だ」

「じゃあそんな悪に協力を仰いでいるということになるけど? それは人間を守る警察としてどうなの?」

「そんなの現場の人間が知るわけないだろ。いちいち噛みついて来るな」

「お前らに指示する権利はない」


 今さらではあるが、人間はクソ野郎だと聖弥は再確認した。


「撃て」


 リーダーがそう言うと、部隊の全員が銃を構えて一斉に射撃を開始した。


 聖弥は冷静にその弾道を読み切って、空中を縦横無尽に飛び回ってその全てをかわしていく。


 だが、さすがに数が数なだけあって、聖弥の左足に銃弾が命中し、聖弥は空中から落下する。


「聖弥!」


 來夢が思わず物陰から立ち上がってそう叫ぶ。


 聖弥は地面に打ち付けられるが、すぐに立ち上がって、何事もなかったかのように警察の方に目を向ける。


「な、何で……魔法を無効化するはずじゃ……」


 リーダーはそう呟く。


 この警察の銃弾は魔法を無効化する。それはシールドだけではなく、回復魔法も阻害する。なのに、聖弥の足は傷一つ無い。驚きを隠せないだろう。


「あれは幻影だよ。私の幻」

「えっ……? いやでも、この状況でそんなことが……?」


 少なくとも幻影の足に銃弾は当たった。魔法無効化によってその幻影は消え、銃弾は貫通して本体に当たるはず。


 そして聖弥が落下している間にも銃弾は飛び交っていたわけで、それも傷一つ残さずやり過ごすなんて現実的ではない。


「まだわかんないかな」

「ん?」

「お前らの銃弾は私には効かないんだよ」

「は……?」

「だから、お前らの攻撃は効かない。さっさと解放してもらっていい?」


 言っていることが真実だとは信じられない。でも、銃弾が効いていないことは確かだ。だからといって、ここで引き下がるわけにはいかない。それが警察だ。


「早く。それとも死にたいの?」


 聖弥は威嚇のために、ほとんど威力のない魔法の波のようなものを発生させる。人間にはそれが何なのかわからないので、警察はそれに怯える。


「人間を殺すような魔法使いを野放しにはできないな」

「言っておくけど、こっちは付き合ってあげてるんだよ? お前らの命は私が握ってる」


 聖弥はできれば話し合いで解決したかったが、その意思がない相手に付き合っていられない。


「自分たちじゃ何もできない弱者なのに、強者ぶって支配して使い捨てる。こっちが何も言わないのをいいことに。こっちが実力じゃ上だってことを忘れて」


 銃弾をものともせず、聖弥はそう言いながらリーダーの目の前までやってくる。


「私たちは本気を出せば一人で警察を全員殺せる。それが魔法使いだ。お前も知ってるだろ? お前らが悪魔と呼ぶ魔法使いのことを」


 そう言って、先ほどより強い波を発生させ、その勢いでフードを吹き飛ばす。


「……!? まさか……」

「やっと気付いたんだ。私がお前らが言うその悪魔。ここにいる人間たちは全部お前次第。わかるだろ? あとはどうする?」


 さすがにあの悪魔相手にこれ以上やるわけにはいかないということで、二人は解放された。


「乃愛! 輝星! 大丈夫か!」


 解放されるや否や、來夢がすぐに飛んできて、二人の背中をさする。聖弥の魔法のおかげで、二人の状態はほとんど回復していた。


「一つ聞いていいか?」

「何?」

「どうして銃弾が効かない? 本部からは悪魔にだって勝てると言われていたのに……」

「そもそも何で勝てるなんて思ったんだか。その弾を作る研究、誰のおかげで進んだと思ってるの?」

「まさか……」

「私が相手になってあげたの。完成した後に殺されても困るから、対策は完璧にできてる。馬鹿なの?」


 聖弥は余裕そうにそう言った。


「まあ、対策ができてるんだから魔法使いには効かない。お前らに魔法使いを支配することはできない。さっさと帰れ」


 この次の段階は殺しにかかることだ。警察が黙って帰ることを祈るばかりだ。


「それとも、死にたいか?」


 そう言うと、見立て通り警察はすぐに撤退した。


「よかった……」


 警察が立ち去ると、來夢は安堵してそう呟いた。


「二人とも、大丈夫?」

「大丈夫。聖弥のおかげで」

「うん。聖弥、すごいね……!」


 乃愛も輝星も、特に問題はなさそうだった。


「無事に終わってよかった……」

「よかったけど……」


 乃愛は心残りがあるようだった。


「みんなよくやってた。上手くいってた。予想外のこともあったけど、いい経験だったと思うよ」


 乃愛の言いたいことはわかる。自分が捕まって迷惑をかけた。魔法も聖弥や輝星の援護が無きゃ当たっていない。自分では何もできないのを実感して、素直に喜べないのだろう。


「チームの作戦は上手くできた。それを今後も意識してやっていけばいい。まあ、もう少し人が欲しいところではあるけどね」


 そう言いつつも、今はそこまで考える時ではない。そう聖弥は問題を一旦保留にしておいた。

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