第7話 死に方を選ぶ

 來夢はかなり追い込まれていた。


 思った以上に、リーダーは強かった。


 四年間のブランクで、もう昔のようには戦えないとわかっていたはずなのに。


「お前の目的は何だ?」

「なんだろうな。強いて言うなら、死ぬためかな」

「は?」


 意味がわかりそうで、わからない。そもそも、街の外で暮らす魔法使いの考えることなんて理解できない。


「この世界では、魔法使いなんて害獣扱いだ。そんな世界は、もううんざり。自分の力じゃ、何も変えられなかった」


 これは君もわかってくれるだろ? とリーダーは來夢に問いかける。


「じゃあ街に来ればよかったじゃないか。少なくとも害獣扱いはされない」

「そんなのは御免だね。とにかく、最後は強い奴と戦って死ぬって決めたんだ。死に方くらいは選んでもいいだろ」


 死ぬなら勝手に死ねよと來夢は言いかけたが、相手の方が強いので、否定的なことは言わない方がいいだろうと口には出さなかった。


「でも、こんなのしか来なかった。ハッキリ言って、弱すぎる」

「なっ……」

「だってそうだろ? 自分の魔法で死にかけてる奴と、時間稼ぎしかできない奴、そして魔力がほとんどないヒーラーに、俺からすれば強くもないリーダー。そんなチームが派遣されて来るなんて、期待外れだった」


 事実である部分が多く、反論できない。聖弥のことはあえて隠しているわけだし、一方的に言われるしかない。


 來夢は舌打ちをして、期待外れで悪かったなと吐き捨てた。


「だから気が変わった。お前ら全員殺して、まだやる。こいつ相手なら死んでもいいと思う奴に出会うまで」


 そう言いながらそいつは來夢に近付き、手で拳銃の形を作り、銃口を向けた。


 銃口となる人差し指の先には魔法エネルギーの球が作り出されている。それを突きつけられて、來夢は何もできない。


 距離が近すぎて、シールドも機能しない。なんなら、二人で死ぬような形になるかもしれない。いや、こんな一発で死ぬようなことはない、か……


 來夢がそんなことを考えている間に球のエネルギーは溜まり続け、手から離れるその瞬間に、そいつは銃口を人質の人間の方に向けた。


 來夢は止めようとするが、そんな間も無く球は発射された。


 人間は向かってくる大きな球に、悲鳴を上げることしかできない。座らされている状態から、立ち上がって回避するなんてできるわけがない。


 だが、その球は人間に当たる少し前に弾けて消えた。


「……!?」


 リーダーのそんな反応から、これは意図的に消したわけではなさそうだ。


「お前が……? そんなわけ……」

「私だよ」


 そう言って、リーダーの後ろに現れたのは聖弥だった。


「っ……!? いつの間に……!?」

「いつの間にって。結構前からいたけど」

「おまっ……そんなことが……」


 ただのヒーラーだと思っていたのが、気配を隠して高速移動してきたというのは信じがたいだろう。


「まあよくも無能扱いしてくれたね。気配にも気付かない無能くん」


 無能とまでは言っていない気もするが、そう言われたリーダーは聖弥にキレたようだった。


 そして今度は攻撃が聖弥に向き、先ほどの球体を何発も生成しては発射する。途中から残り二人の仲間も一緒に色々な魔法を放つが、それを聖弥は人間への流れ弾も防ぎながら全て余裕そうにかわし、空中に浮遊する。


「強い奴と戦って死にたいとか言えるレベルじゃないでしょ。お前こそ弱すぎ」


 聖弥は笑いながらそう言った。聖弥の中での強い奴というレベルがぶっ壊れているだけだが、リーダーも聖弥を見たらそれを受け入れるしかなかった。


「お前みたいなのは死に方なんて選べないんだよ。身の程をわきまえろ」


 聖弥がそう言った後魔法で仕留めようとしたが、その間に外で妙な動きがあったのを感じたので一旦止めた。


 その直後、立ち止まることなく現地警察が建物の中に突入する。聖弥が気付いてなければ、その警察たちは魔法に焼き殺されていたかもしれない。


「お前ら、まずはあっちだ」


 そう言って、リーダーとその仲間たちは警察の方に魔法を放つ。


 一方突入した警察は、一斉にそいつらに向けて銃撃を行う。


 聖弥と來夢は物陰に身を隠して状況を見守る。


 少なくとも二十人ほどはいる警察からそれぞれ放たれる銃弾は相当な数があった。全てを避けるなんて難しいことで、避けられないものはシールドで防いで済ませるのが普通だ。だが、あっという間にそいつらは撃ち殺されていた。魔法を警察に向けて放つ暇もなかった。


「死んだ……?」


 正直、銃弾で死なないから街の魔法使いが駆り出されているわけで、まだ瀕死でもなかった奴らが銃弾で死んだというのが驚きだった。


「うぁっ……」

「たす……け……てっ……!」


 そっちに気を取られている間に、入り口付近にいた乃愛と輝星の方からそんな声が聞こえた。


 その方を見ると、乃愛と輝星が警察に捕まっていた。どちらも消耗している上に急なことだったのもあって、魔法が使えず何もできなかったようだった。聖弥は気づいていたが、そこまで何もできないとは思わなかった。


「乃愛! 輝星!」


 來夢は居ても立っても居られなくなり、衝動的に物陰から出て二人を助けに行こうとした。だが聖弥がそれをすぐに止める。


「何すんだよ……」

「落ち着け。敵のど真ん中に突っ込んでいくつもり?」

「それは……」


 一旦冷静になって、落ち着いて考える。


「さっきの一瞬、見てたでしょ? あいつらが一瞬で死んだのを」

「うん」

「自分で体感したからわかると思うけど、あいつが銃弾なんかで死ぬはずがない。消耗していない状態で避けてシールドを張るくらいは、乃愛や輝星でもできる」

「そうだな」

「あれは魔法を貫通する銃弾だと思う」

「えっ……? 何それ……そんなものが?」

「うん。私は知ってる。対処法も。だから私に任せて」

「……わかった」


 他に方法はないのだから、聖弥に任せるしかなかった。

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