第6話 乃愛と輝星

 それから第二部隊は、仕事を再開した。


 ちなみに、あの後『ジャック・ナイト』は全滅が確認された。おそらく第二部隊の裏切り者も死んだ。その人を苦労もせずに倒したことから、來夢は聖弥の凄まじい魔法を実感した。



 まず四人の最初の仕事は、とあるショッピングモールでの立てこもり事件。あの時と少し似ていた。


 警察が言ってくる不敬な小言を無視して、四人は規制線の中に入っていく。


「……中にいるのは、魔法使い六人と人間二十人。人質も結構いるから、当てないように気をつけて」


 感じ取ったものから聖弥がそう指示し、他の三人は頷いて答える。


「じゃあ、來夢頼んだ」

「……うん」


 來夢は深呼吸をしてから、ショッピングモールの中に突入した。他の三人もそれに続く。


 ショッピングモールは最大三階建てで、一階から天井まで吹抜けになっている。人質がいるのは二階しかない部分の二階で、ハッキリした場所までわかっていた。


 そして突入するとすぐに、それに気付いた魔法使いたちが出迎える。


 まずは斬撃魔法の挨拶から。全員が予測して避けられるほどのもので、大したことはない。おそらく、ただの自己紹介だ。


「これはこれは。箱庭の魔法使いたち」


 斬撃で立った煙の向こう側から声が聞こえる。どうやら、二階の吹き抜けを横切るような通路からのようだ。


 煙が消えると、予想通りの通路のガラス壁の上に立っている男の姿が見えた。


 その後ろに側付きの二人。そしてその何本か奥の通路に人質と残りの魔法使いがいて、それで全員のようだった。


「でも、四人か」

「何か問題が?」

「いや。むしろ警戒しなければならないだろう」

「さすが。わかってるな」

「來夢?」


 そんな話をしている場合ではない。早く人質を解放してもらわないと、給料が出ない。


「……人質を解放してもらおう。でないと、殺す」

「どうせしても殺すんだろ? だったらやり合おうぜ、魔法使い」

「……来いよ」

「行け」


 向かってきたのは側付きの二人だった。來夢はすれ違うようにリーダーの男の方に向かって跳ぶ。


 來夢が行ってしまったので、乃愛と輝星でその二人を対処することにして、後ろで聖弥が二人をフォローする。


 二人が同時に魔法を発動させ、その効果で辺りが暗くなる。


「……アイリススパーク!!」


 輝星がそう叫び、手のひらを敵に向ける。


 すると、虹色の電撃がいくつも発生し、敵二人に向かって行く。だが敵も弱いわけではないので、当然のようにかわすが、それでも無限に電撃が発生する。


 まだ今の輝星では命中精度が低くて、単なる消耗戦になってしまう。正直それでは勝てない。消耗戦をやっていられるほどの魔力を保てない。少しでも保っていられる敵の魔法使いたちの方に分があるだろう。


「……輝星、」


 乃愛がそう呼びかけると、輝星は電撃を弱めて後ろに引く。


 もう魔力切れか、と敵が呟く。ここからは一旦向こうのターンになる。


 実際魔力切れに近付いてはいた。一息置けば影響はないが、一旦引く必要はある。


 そこを突いて、敵は攻撃を仕掛ける。


 一人は急激に間合いを詰めて前にいた乃愛に襲い掛かり、その後ろからもう一人が炎系の魔法で援護する形。


 乃愛への攻撃を防ごうと輝星がその前に入って、電気の膜のようなものを張りながら、ナイフでの近接攻撃をいなす。だが炎の攻撃にまで手が回らず、輝星はその攻撃を少し受けた。


「っ……」


 痛がっているが、そこに聖弥が回復魔法を使ってそれを和らげる。これで敵から見た聖弥は、ただのヒーラーだろう。魔力も隠せているし、まさか史上最悪の悪魔と呼ばれる本人だとは思うまい。


 相手の攻撃も一度仕切り直し、もう一度飛び掛かってくるところで、乃愛が大きく息を吸った。それに合わせて、聖弥は二人の足を止める鎖をどこかから出現させ、二人は気づかぬうちに動けなくなっていた。


「……リジェクト」


 乃愛がそう呟くと、暗くなった周囲の空間から赤い筋が伸びる。そしてその筋は二人の体を次々と貫き、魔法が一通り終わった頃には床が血まみれになっていた。それは二人の血液でもあり、乃愛の血液でもあった。


 乃愛と輝星は二人で一つだ。乃愛の魔法の弱点、発動までに時間がかかること、使った後の代償が大きいこと。でもその分、大きな殺傷能力を持つ。それを生かすための時間を作るのが、輝星の役割。


 まだ輝星の魔法の威力は足りない。実戦で致命傷を与えるような威力は出せない。だからこれくらいしかできない。でも、殺傷能力のおかげで実戦でないと試すことのできない初見技だったが、よくここまで上手くいったな、と聖弥は思った。


 一応、乃愛の魔法の弱点である、命中率の低さをカバーするために聖弥の魔法を使ったりもしたが、それでもこれは二人で仕留めたと言っていいだろう。


「乃愛、大丈夫?」

「う、うん。なんとか」

「二人ともよくやった。あとは見ていて」

「わかった」


 これは残る課題だ。魔力切れと、魔法の代償。克服しないと、まともに戦えない。今は聖弥がいるからいいが、いつまでもいられるわけではない。


 ――あと四人。

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