第3話 ボス

 翌日、聖弥は軍事部隊を総括する『TeamS』という組織のリーダーに呼び出されて、その拠点に向かった。


 TeamSの拠点はこの街の特に都会な場所にある。人も多いし、建物も綺麗で高さがある場所だ。


 聖弥は早速拠点の高いビルに入り、まずは受付に声をかける。向こうから呼び出したのでそこはスムーズに通り抜けて、ボスと呼ばれる人の部屋に案内された。


 部屋の扉をノックすると、魔法で扉が開け放たれて中のデスクに一人の男が座っているのが見えた。


「よく来たね」

「初めまして。聖弥と申します」

「ああ。TeamSの雄生ゆうせいだ。よろしく頼む」

「よろしくお願いします」


 そう挨拶を済ませたところで、聖弥は部屋の中のソファに案内される。


 ボスの第一印象はそれほど悪くない。ボスと呼ばれるくらいだから、もっと怖い印象を持つだろうと聖弥は思っていた。


「君が中央から送られてきた助っ人で間違いないんだな?」

「はい」

「本当か?」

「はい」

「君の情報はデータベースにないようだったが……」


 組織のトップとなると、街の魔法使いの情報を調べることができる。だがそれもさらに上の身分の人間のことは調べられない。中央政府の部長あたりより上の情報は調べられない。王族もそこに含まれる。


 そんな人間がわざわざ派遣される状況を不審に思ったのか、今回わざわざ呼び出して聞くことにしたようだった。


「君は何者だ?」


 そう聞くのも無理はない。正直、聖弥としても自分が派遣される理由がわからない。聖弥はそれを今度兄に聞いてみるとして、ボスの質問の答えを探す。


「……ここだけの話に留めておいてもらえますか?」

「……状況による」


 それならば、絶対に口外できない状況だろう。そう判断して、聖弥はフードを脱いだ。


「私は、現在の王の妹です。この見た目が、その証拠です」


 ボスは聖弥のことを何度も見て、驚きを隠せないようだった。一旦、聖弥のことはちゃんとわかっているようだ。


「どこまで噂が広まっているか知りませんが、わかっていただけましたか?」

「は、はい。あ、あなたがあの、しじょっ……」

「ちょっ……それ以上は」

「あっ、失礼いたしました」


 古傷を抉られる一歩手前でボスは踏みとどまれたようだ。やはり、聖弥の悪評はボスレベルでは知られているようだった。


 さすがにボスレベルになると、王族のことも全く知らないわけではない。会ったことや顔も名前も知らないのは変わらないが、王族がどんな仕事をしたのか、どんな人間なのかは知られているようだ。


「でも、まさか、王族の方にお会いできるなんて」

「口外禁止でお願いします」

「わかっています」


 ボスともなる人物が守秘義務を守らないなんてことはないと、聖弥は信頼して話を進める。


「改めまして、これから仕事も受けていきますので、どうぞよろしくお願いします」

「はい。……というか、仕事受けることにしたんですね。どうやって來夢を説得したんですか?」

「えっ? 説得?」

「はい。そもそも、來夢が現場に出たがらなくて。だから、助けを求めた形で……」


 聞いてないよ……と聖弥は心の中で愚痴をこぼす。


「一応、第二部隊は正式に仕事を止めている状況なので、リーダーからの申請が必要になって……」


 助けてほしいと言われ、ちゃんと部隊には受け入れてもらえたのだから、仕事は受けるものだと思っていた。何が理由なのかはわからないが、この感じだと説得しないと何も始まらないだろう。


「まずは、その説得からお願いしたいのです。私ではもう……」

「……わかりました。説得して、また連絡します」


 聖弥はため息をついてそう答え、すぐにボスの部屋を後にした。

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