第12話 ベンチプレスにかかる橋
「肩が痛い…」
僕は増量期を終え、2回目の減量期に入った。
周りのガチムチは僕より遥かに重いウエイトを挙げている。負けじとウエイトを積みたくなる。サラリーマンは電車で腕時計バトルするらしいが、ガチムチはウエイトでバトルをする。隣が100kg積んだら、105kgを積むのがガチムチだ。
しかし、僕は減量期だからウエイトが伸びない。減量期は体のクッションが失われて怪我をしやすい時期だ。それがわかっていたのに、怪我してしまったことを後悔する。
僕は駿に肩の痛みを相談していた。
特定の角度に腕を動かすと肩が痛むようで、筋トレをしているときより、むしろ日常生活で鋭い痛みを感じる。ウエイトを持っていなくても痛い。
「たぶん、フォームに原因があるんじゃないかな、いつものメニューを見せてくれよ。軽いウエイトでフォームをチェックしていこう」
駿はいつも助けてくれる。なんていいやつだ。
◆◆◆
「ベンチプレスのフォームが崩れてるな。ブリッジを意識しすぎて尻が浮いてるし、バーベルを下ろす位置も上過ぎる。それだと肩に負担が来るよ」
駿は僕のフォームを見て、すぐさま原因を見つけた。尻はほとんど浮いていないと思うが、尻に荷重がかかっていないのがわかったようだ。
「今日はフォームの改善だけしよう。あと、痛みが引くまでベンチと肩の種目はやらないように」
駿は丁寧にフォームを指導してくれた。
「ブリッジで胸を張ろうとはしてるけど、今のままだと頂点が腹の近くになっている。腰の下に空間を作るんじゃなくて、胸の下に空間を作るようなイメージでブリッジを組むんだ。腰椎じゃなくて胸椎でアーチをつくるんだ」
僕は駿が言う通りに試してみるが、うまくいかない。駿は粘り強く、僕の体を押してアジャストしてくれる。しだいに、ブリッジのフォームが改善されていく。
「いい感じになってきたな。肩も肩甲骨も柔軟性はあるみたいだ。これならいいんじゃないかな」
駿は僕のフォームを見て、満足そうに微笑んだ。本当にいいやつだ。
「ありがとう。駿はどうやってフォームを学んだの?」
「動画サイトのレクチャーをたくさん見たし、1回だけパーソナルトレーニングで教えてもらったこともあるよ。他にもスマホアプリで筋肉とか骨の構造を見られるアプリがあって、それで勉強してる。このアプリ」
駿は僕にスマホアプリを開いて見せてくれる。骨格や筋肉の構造が3Dで表示され、関節の動きと筋肉の動きがわかる。筋トレ向きというより医者向けなのかもしれない。
「これは便利だね。僕も使ってみよう」
ガチムチは人体に詳しい。動画サイトでもガチムチは何でこんなに人体に詳しいのか不思議に思うぐらいだ。こういう努力をしているんだな。僕も学んでいかないと。
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