第13話 目標と約束

 減量1か月、増量3か月のサイクルを3回繰り返した。1年が経ち、筋トレを始めた季節と同じ春が来た。


 桜が満開で、大学は新入生で賑わっている。キャンパスでは明るい声が聞こえる。僕たちは大学の2年生になった。


 大学生活はほとんど変わらない、変わったのは僕の体が大きくなって、服がパンパンになったことぐらいだ。


 僕は大学で凛と一緒に歩いている。ボディビル大会優勝を果たせてないから付き合ってはいないが、少し距離が近くなった。


「自宅のパワーラックの調子はいい?」


 僕は一緒に組み立てたパワーラックについて聞いてみた。あれは凛と一緒に組み立てた思い出の筋トレマシンだ。


「大事に使ってるわ。冬の間は物干しとしても使っちゃったけど」


 凛は笑いながら話してくれる。


 ワンルーム8畳の凛の家では、パワーラックが半分ぐらいの床面積を占めている。パワーラックやチンニングスタンドが物干し竿として使われるのは、よく聞く話だ。そのまま物干し専用になった機材が日本中にあるんだろう。


 僕たちは大学の出口に近づいていた。ここにも綺麗な桜が咲いている。桜の花びらが凛を彩っている。きれいな黒髪が風で揺れている。


「出場する大会は考えてるの?」


 凛が突然聞いてきた。最近はボディビルの大会で優勝するという話はしていなかった。ただ、僕はずっと計画していた。


「来年の夏に、地方オープンのジュニアボディビルに出ようと思う」


 23歳以下の大会だ。来年の夏で僕は21歳になる。まだまだ対象範囲だ。オープンと名前がつく大会は初心者でも参加でき、他大会で入賞などの参加資格がいらない。


 あと1年は減量増量を繰り返して、来年の春頃から4か月減量で臨む予定だ。


「あと1年ちょっとだね…」


「それまでにもっと筋肉をつけて、仕上げていくよ。大会の日は…見に来てくれないかな?」


 まだ規定ポーズすらわからないし、塩抜きも水抜きもしたことない。不安は多い。でも凛に見てもらいたい。


「絶対に、行くよ」


 凛は笑顔で答えてくれた。この笑顔のためなら、僕はもっと頑張れる。

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