第7話 減量から増量

「体重5kg減ったよ」


 減量を始めて1か月が経ち、ジムで駿に報告した。


 体重は予定通り5kg減った。とくに停滞もなく順調に減ったからチートデイを考える必要もなかった。


「いい感じだな。じゃぁ今日からは増量期に入ろう。月1.5kgの体重増を目安に3か月続けよう」


「やっと食べられる・・・」


 僕は1か月間の減量で、食べたいものがたくさんあった。最初の食事は何にしようか。楽しみでたまらなかった。


「増量はペースを考えないといけない。増量ペースを上げすぎると筋肉よりも脂肪が多く付いてしまう。筋肉と脂肪が同じぐらいのペースで増えるのを理想だ。涼の活動代謝が2500kcalぐらいだから、筋トレで消費するカロリーを引いて、1日3000kcalぐらいで目安に調整しよう」


「3000kcalなら、いろいろ食べられるなぁ・・・」


 僕はそう言いながら、今日はカツ丼を食べようと思った。


「でもPFCバランスは考えて食べるようにな。一番大事なのは総カロリーだけど、その次に大事なのはたんぱく質、炭水化物、脂質のバランスだ。涼の好きなカツ丼は炭水化物、脂質が多い」


 駿は僕の心を読めるのだろうか。僕はカツ丼が好きだ。顔に出さないように落胆した。


「とは言え、今日は減量最終日だしな。今日ぐらいは食べてくるといいよ」


 急に駿が神に見えてきた。


 ◆◆◆


「おいしい・・・」


 カツ丼を食べ始めて、満腹感が出てきた。減量中は食べる量を減らしていたから、満腹感は久しぶりだった。体中に栄養が行き渡っている感じがする。


「ひさびさのカツ丼はおいしいか?」


 駿はサラダを食べながら聞いてきた。僕は、駿と葵と一緒にファミレスに来ている。駿はまだ減量期だからサラダしか注文していない。葵はチキンステーキを食べていた。


「1か月がんばりましたねー、筋トレのフォームも良くなりましたし、増量期に入ったら楽しくなりますよ!」


 葵はいつも明るく励ましてくれる。女の子だからガチムチには見えないけど、僕と同じぐらいのウエイトをデッドリフトで挙げる女の子だ。見た目の可愛らしさからは想像もつかない。


「そういえば、みんなはどんなサプリを飲んでるの?」


 僕は疑問に思っていたことを聞いてみた。インターネットは筋トレサプリ情報で溢れている。


「オレはプロテインとクレアチンだけ飲んでるよ。HMBとEAAは昔飲んでたけど、今はやめた」


「私はプロテインだけかなー、プロテインはWPIを選んでるよ。WPCだとお腹が緩くなる気がしたんだよねー」


 駿と葵がそれぞれ答える。僕は薬局で買ったプロテインだけを飲んでいる。


「クレアチンっていいの?」


「体感としてはわからないな。それなりに効果が認められているみたいだから、なんとなくで飲んでる」


 駿にしては珍しく、歯切れが悪い回答だった。


「無理して真似しなくていいと思うぞ。それよりも総カロリーとPFCを重視するといいよ」


「このカツ丼を食べた後から本気出す」


 3人で、笑いながら筋トレ談義をした。


 明日からは増量だ。

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