第6話 筋トレ都市伝説
筋トレを始めてから2週間が経った。僕は筋トレ前に、ジムの休憩エリアで駿と話していた。
休憩エリアはプロテインサーバーや、ガチムチ向けの雑誌など、下界では見られないものが並んでいる。
「筋トレ界隈には嘘が多い」
駿は真面目な顔で言った。嘘が多いことは僕もインターネットで思い知らされている。これをすれば痩せる、これをすれば筋肉がつく、という情報が溢れている。
明らかに嘘とわかる方法のほうが注目を浴びているのが不思議だ。
彼らはどこかからお金でももらっているんだろうか。
「昔はいいと思われていた筋トレの方法でも、間違っているということがわかってきた。人間の筋たんぱく質の合成と破壊が計測できるようになったことが大きい」
駿はどこからこういった知識を学んでいるんだろう。ガチムチは脳筋じゃなかったのか。
「身近な例では、高重量低回数と、低重量高回数のどちらがいいか、という問題がある。昔は筋肥大は低回数と言われていた。でも、結局のところどっちがいいかではなく、持ち上げた重量と回数を掛け算した合計次第だとわかってきた」
僕は駿の言葉を聞いて、疑問が浮かんだが、駿は僕の言葉より先に疑問に答えた。
「ただ、軽すぎると時間効率が悪い。重すぎると怪我のリスクが増える。限界まで追い込むオールアウトも必要ないとされている。オレもこれを知って驚いたよ」
「涼が目指すのは短期間でガチムチだから、効率を重視しよう。涼は今、何kgでベンチプレスのセットを組んでる?」
僕は駿の言葉に、昨日やったベンチプレスの重量を思い出す。
「40kgからウォームアップをして、フォームの確認。60kgで10回、あとは70kgで3セットかな。減量中だからウエイトは上げていかなくていいって言われたけど、こんな感じでいい?」
「その方法でもいいんだけど、それだと70kgの最後のセットはあまり回数ができなくなってきてるだろ。インターバルで3分休むと、低回数だと時間効率が下がる。だから、ドロップセットでウエイトを下げなから、重量x回数のボリュームを稼げるようにしよう。3セットと決めなくてもいい。やれるだけやればいい」
タンクトップのガチムチである駿が理論的なことを話し続ける。動画サイトでも見かける光景だ。この界隈だと当たり前なんだろうか。本当に助けになる友人だ。
「定期的に自分のフォームを動画で撮って確認する。少しでも痛みや違和感があったら無理せず止める。止める勇気も持つようにな。興奮しているから止めるのが難しいんだ。怪我ほど非効率なことはない」
僕は駿の言葉に納得して、動画を撮って自分のフォームを分析することにした。
◆◆◆
「僕の体は細いなぁ…」
家に帰って、パソコンの大きな画面で自分のフォームを見直している。動画サイトのフォームと比較するとよくわかる。フォームの分析のつもりだけど、自分の体も気になってくる。
僕のジムは本格的なガチムチ向けのジムだ。
動画に映る、名も知らない野生のガチムチたちの腕の太さ、足の太さ。
ステロイドを使えば…少しは近づけるんだろうか…
筋トレするよりも筋トレなし+ステロイドのほうが効果が高いらしい。これに心を惹かれるのは当たり前じゃないだろうか。
「いや、凛に言われたじゃないか。ナチュラルでと。目的を忘れるな」
僕は動画サイトだ有名になることが目的じゃない、凛と付き合うことが目的なんだ。
僕は駿に教わった筋トレサイトを読み漁って、眠りについた。
夢にはマッチョがたくさん出てきた。
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