第5話 冷凍ブロッコリーと君
「体が痛い…」
月曜日の昼休み、僕は大学のベンチで昼食を食べていた。建物の山側にあるベンチは、日当たりが良く、まるで天国のような心地よさだ。持参した冷凍ブロッコリー、ゆで卵をつつきながら、僕はぼんやりと昨日の筋肉痛を思い出していた。
葵が言った通り、筋肉痛はまるで全身が火を噴くような痛みだった。しかし、今日は少しはマシになっている。
友人たちは食堂でランチを取ると言っていたが、僕は彼らを断った。食堂で買うものがないのだから仕方ない。
「明日からは食堂で何か1つ頼んで、みんなと一緒に食べようかな…」
そんなことを考えていると、凛が突然僕の隣に座ってきた。彼女の登場に僕は驚いた。
「涼くん、元気?」
「凛?」
彼女の明るい笑顔に、僕の心は一瞬で温かくなった。凛は何かのついでにここに来たのだろうか。それとも、僕に会いに来たのだろうか。
「その食事…本気で筋トレ始めたんだね。減量から始めてるんだよね?」
「うん。友達に詳しい人がいてね。教えてもらったんだ。減量から始めるといいって」
凛は僕の話を聞いて、少しうれしそうな表情を浮かべた。僕のやる気を見て、彼女も少しは僕のことを認めてくれたのだろうか。
「そうなんだ。頑張ってるんだね。でも、無理しないでね」
「うん。ありがとう…。あのさ、凛に聞きたいことがあったんだ」
凛の大きな目が僕をまっすぐに見つめる。その視線に僕は少し緊張したが、勇気を出して質問を続けた。
「凛は、大会で優勝できたら、って言っていたよね。いろんな大会があるって聞いたけど、どんな大会のことかな?」
「そうね…。JBBAかANNBBAみたいなナチュラルのボディビル団体の大会がいいわ。あと、付き合う相手なら体が心配だからステロイドは使わないで欲しいわ」
「ナチュラルの大会か…。ステロイドは使わないで、ってことか」
凛が僕の体を心配してくれているのが嬉しかった。インターネットで調べたところによると、ステロイドを使えば短期間で筋肉をつけることができるが、副作用も多いということだった。
「女の子にはフィジークが好きな子も多いって聞いたんだけど、凛は嫌いなの?」
「フィジークって、上半身ばかり鍛えるから、チキンレッグが多いのよね。最近はレベルも上がってきているけど、私は全身を限界まで鍛え抜いたボディビルが好きなの」
凛は本当に筋肉が好きなんだな、と改めて感じた。彼女の言葉に、僕は笑みを浮かべた。
「なるほどね。凛がそこまでこだわりを持ってるなんて知らなかったよ」
「ふふ、意外でしょ?でも、涼くんが本気で頑張ってるのを見ると、私も嬉しいんだ」
彼女の笑顔に、僕の心はますます燃え上がった。凛のために、そして自分のために、僕はもっと頑張らなければならないと思った。
「ありがとう、凛。これからも頑張るよ」
「うん、応援してるよ」
◆◆◆
少しの間、僕はベンチに座ったまま、彼女との会話を思い出していた。
太陽が雲に隠れて、涼しい風が吹き抜けた。
彼女は僕のことを応援してくれている。それだけで筋トレのモチベーションが上がる。彼女のためにも、自分のためにも、僕はもっと頑張らなければならない。
まだ筋肉通が残る腕で、プロテインシェイカーを振り、一気に飲み干した。今日から週5の筋トレが待っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます