第3話 ガチムチへの道

 ジムの中は明るい照明と、鏡に反射されたガチムチの筋肉で満ち溢れていた。機械の音や汗の匂いが漂い、活気ある雰囲気がジム全体を包み込んでいた。


「涼の目標はガチムチだから、本気で計画していかないといけないな。競技レベルで成果を出していくためには、筋トレだけじゃなく食事も含めて学んでいかないといけない」


 駿は真剣な表情で言った。


「涼は、何か持病があったりするかな?少食だとか、お腹を壊しやすいとかもない?」


 僕は頭を振った。


「いや、とくにないと思うけど。胃腸も強いほうじゃないかな。元気だよ」


「じゃあ、まずは大丈夫かな。ガチの筋トレは体に悪いんだよ。まずは体重を測ってみよう。それから、体脂肪率も測ってみよう」


 駿が言うと、僕は体重計の前に立った。本格的な機械で、結果は小さな紙に印刷されて出てきた。結果を見て、駿が言った。


「178cm、75kg、体脂肪15%か。やっぱり涼は才能あると思うよ。部活やめてからは運動してないんだろ?」


「そうだね。部活しているときからあまり変わってないね」


「じゃぁ、減量からはじめよっか。駿くんも今減量期だからちょうどいいね!まずは1か月で5kg減らしてみよう!」


 葵も筋トレに詳しいんだな。僕はいい友人たちに恵まれたと思って、彼らに感謝の気持ちを抱いた。


「まずは減量なんだね…じゃぁ食事を減らして、有酸素運動…あそこで走ってくればいいかな?」


「いや、有酸素運動は一切しなくていい。むしろするな」


 僕は駿の声に驚いた。有酸素運動が減量じゃないのか。じゃぁ周りで走っている人たちは何をしているのだろうか。


 周りを見渡すと、筋トレマシンの方はガチムチ中心で、走っている人たちとは人種が違うようだ。走っている人は、スリムな体系の人と、ぽっちゃり気味のおじさんが多かった。


「減量は有酸素運動じゃないの?」


「有酸素運動は脂肪だけじゃなく、筋肉も落ちる。筋肉をつけるのも、脂肪を減らすのも全部筋トレだけでいい。なんなら筋トレ以外の運動はやめてもいい」


「そうなのか…」


「とくに食事を減らして、有酸素だけをすると筋肉ばかりが落ちてしまう。つらいだけでメリットがないんだ」


 今まで僕が常識と思ってきたことは何だったのだろうか。ただ、駿の言葉は信頼できる気がした。


「筋トレはするとして、それで脂肪が減るの?」


「そこで大事なのが食事なんだ。涼の基礎代謝は1800kcalぐらい。生活を含めたら1日の活動代謝が2500kcalぐらい。脂肪1kgが7200kcalだから、体重の5%分を減らすには…1日あたり900kcalぐらい不足するように食事しないといけない」


「2500kcalから900kcalを引いて…1600kcalだよね。昼に食べたカツ丼が1000kcalとか書いてあった気がするんだけど…」


「そうだな。減量期にカツ丼は食べられない。あと減量中はとくにたんぱく質の摂取が大事になる。カロリーが摂れないから、たんぱく質を取るにはプロテインを買ったほうがいい」


「プロテインは飲んだことなかったなぁ…」


「肩メロンマンはみんなプロテイン飲んでると思うよ!あとステロイドっていう筋肉増強剤もあるけど、これは彼女さんに聞いてから考えたほうがいいかな。私は反対派じゃないけど、出られなくなる大会もあるからね」


 葵は女性視点のアドバイスをくれる。そうだな。少し知識を得たし、次に凛に会ったときに聞いてみよう。


「摂取するプロテインのカロリーと、筋トレで消費するカロリーを考えて、食事を調整していこう。まずは、1か月後に体重70kgを目指そう。もちろん筋トレはしながらだ。週5で」


 駿は立ち上がって、僕の肩を叩きながら言った。


「…がんばるよ」

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