第2話 筋トレ界隈はカオス
「筋トレは自重で十分」
「筋肉をつけたかったら仕事をやめろ」
「毎日、腕立て、上体起こし、スクワット100回、ランニング10km」
家に帰ると、僕は筋トレに関する情報を集めることにした。動画サイトには無数のトレーニング動画があふれ、どれを見ても新しい情報が飛び込んでくる。インターネットを検索すると、筋トレグッズやサプリメントの広告が次々と表示され、見るだけで混乱してしまった。
「筋トレ界隈、カオスすぎるでしょ…」
早速、心が折れそうになった。でも、凛と付き合うためには、こんなところで諦めるわけにはいかない。
「信頼できる筋トレの先生を探さなきゃな」
ふと思い出したのは、高校時代のクラスメイト、駿のことだった。彼は当時から筋肉隆々で、今思えば筋トレ民だったに違いない。彼に聞けば、正しい筋トレを教えてもらえるかもしれない。SNSで彼を探し、メッセージを送ることにした。
「駿、久しぶり!筋トレを始めたいんだけど、教えてくれないかな?お礼はするからさ!」
すぐに返事が届いた。
「やっと目覚めたか、涼。お前は筋トレをやるべきだとずっと思っていたんだ。お礼なんていいから俺と一緒に筋トレしようぜ」
「俺は週に5回はジムに行ってるからさ。まず、ジムで合トレしよう」
(週に5回?ジムでアルバイトでもしてるのかな?)
僕は、駿の言葉に感謝した。彼の助けがあれば、凛との約束を果たすことができるかもしれない。
「ありがとう、駿。頼りにしてるよ」
ちょうど明日からは週末だ。駿と一緒にジムに行くことになった。
◆◆◆
「こんにちはー、涼くんですか?私は葵って言います!」
駿と約束したジムのエントランスに行くと、可愛いショートカットの女の子がいた。無邪気で明るい雰囲気と、活気に満ちた瞳が、周囲の目を引いている。隣りにいる駿よりも先に声をかけてきたので、僕は戸惑った。
「あ、はい、僕は涼です」
「駿、この子は葵。俺の彼女。友達と合トレする言ったら一緒に来たいって言ってさ。連れてきたんだ」
駿は、僕に葵のことを紹介した。彼女は僕らと同じくらいの年齢で、明るい性格みたいだ。葵は、笑顔を浮かべながら、軽く片手を振ってみせた。その仕草がなんとも可愛らしい。
「よろしくね、涼くん!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
葵は、僕に笑顔で返してくれた。その笑顔には、どこかおちゃめで親しみやすい雰囲気があった。
「じゃぁ、早速いこうぜ」
僕は、駿と葵と一緒にジムに入った。ジムは会員制だけど、ビジターは結構高いらしい。駿がビジターチケットをくれたので助かった。
「マシンがすごいたくさんあるね…」
ジムには、いろんなマシンが並んでいた。タンクトップのマッチョがたくさんいる。あんなにマッチョな人たちは普段どこに生息しているんだろう。
早速、マシンの使い方を教えてもらうのかと思ったら、駿はマシンを通り過ぎて、奥の休憩エリアに向かった。
駿と葵は、休憩エリアのテーブルで僕の向かいに座って聞いてきた。
「で、涼はなんで筋トレを始めようと思ったの?」
葵は好奇心いっぱいの目で僕を見つめ、頬杖をつきながらニヤリと笑った。
「へへー、お姉さん、わかる気がするなー。女の子にモテたいからでしょ」
彼女のいたずらっぽい笑顔が、まるで猫がいたずらを仕掛ける前のようだった。この二人は本当に仲が良さそうだ。
「実は…好きな人に告白したんだけど、筋肉がないとダメだって言われて…大会で優勝したら付き合ってくれるって言われたんだ」
駿と葵は顔を見合わせて、驚いた顔をして聞いてきた。
「大会?ボディビルとかフィジークとか言ってた?」
「詳しくは言ってなかったけど…三角筋がメロンじゃないと、って言ってたかな」
僕がそう答えると、葵と駿はまた顔を見合わせて、悩んでいた。
「たぶんねー、それはガチムチ好きな人だと思うよ。でも、女の子の筋肉好きは結構幅があるから、もうちょっと聞いてきたほうがいいと思うな!」
葵は、下を向いて一瞬深刻な顔をしたあとで、もう一度笑顔で聞いてきた。
「それにしても、三角筋がメロンかぁ…。じゃあ、涼くん、これから肩メロンマンを目指すんだね!」
駿が真剣な顔で話を続けた。
「涼。いろんなレベルの大会があるけどさ、初心者が優勝するとなると年単位の時間がかかるよ。それまで彼女さんと付き合えないけど、大丈夫か?」
僕は、駿の言葉に驚いた。
「え、そんなに時間がかかるの?」
「「うん。かかる」」
駿と葵は、同じように答えた。
「マジか…考えが甘かったんだな…」
葵は、僕の肩をポンと叩きながら励ました。
「でも、涼くん!一歩ずつ進めば絶対に結果が出るからね。私も応援するから、がんばって!」
その笑顔に元気づけられ、僕は再び決意を固めた。葵の明るさと駿のサポートを背に、僕の筋トレ生活がいよいよ始まったのだった。
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