第5話

 軍手をはめ、右手に鍵、左手に皿を持つ。

 我ながら滑稽な姿だ。

 若干緊張しながら鍵を差し込む。鍵は何の違和感も無くスッと鍵穴に収まり、軽く回すとカチャっと甲高い音がしてあっけなく戸がガラガラと開いた。

 ドライブインの自動販売機でこの鍵を見つけてから、とうとうここまでたどり着いた。

 どうしてこの鍵がペットボトルに貼り付けられ自動販売機に放置されていたのか?

 まさか家人がした事とは考えられないが、「誰か」が鍵を盗み出して、わざわざまわりくどい地図と一緒にペットボトルに貼り付け、あんなところに置いておく理由も見当がつかない。

 ここまで来て、結局何もわからないなんて事だけは避けたい。せめて理由だけでも知りたいところだ。

 そっと中を覗くが人の気配はない。

「すみません」

 そう声に出してみたが、やはり家の中はしんと静まり返っている。

 あらためて冷静に考えると、大皿を持って見知らぬ家に侵入しているのだから正真正銘の不審者だ。万が一家人が戻ってきて通報されたら一巻の終わりだ。不在のうちにさっさと調べてしまおう。そう決め込むと、忍び込む罪悪感よりも好奇心が勝ち、気が昂ぶってなんだかワクワクしてきた。

「しかし立派な玄関だなぁ」

 実家の何倍の広さだろう。檜かなにか、高級な木材が使われているのは庶民の俺でもわかる。香り高い木の匂いと、その香りに相まって、家の中も品のある匂いがする。

 だが、その匂いの中に、わずかだが何か異質なものを感じた。

 なんだろう?子供のころによく匂った感じがするがよくわからない。

 玄関の正面にはこれもまた見事な、俺の身長ほどある木彫りの虎が鎮座し、今にもこちらに飛びかかって来るかのようだ。これだけ大きいと重さもさることながら金額も相当なものだろう。

 いちいち関心しながら慎重に各部屋を見て回る。玄関を入って右横にトイレ、その奥の扉の向こうに脱衣所と風呂がある。どれも一般的な家庭の物の、倍はありそうな広さだ。向かい側の襖をあけると八畳ほどの和室。廊下を進むとリビングがありソファーや照明などの家具はどれもこれも高級感が漂っている。

 しかし、一向に「誰か」にも「理由」にもたどり着かない。廊下を進み右手はダイニングキッチン。ここにも何もなさそうだ。もう少しくまなく探す必要があるのだろうか。しかし、いつ家人が戻るかもわからない。

 段々と焦りが生じ、額に汗がにじむ。何か、何かめぼしい物はないか。

 目を凝らしてさらに奥へ進むと、廊下の端がかすかに白く変色していることに気が付いた。しゃがみ込んでみると、何やら白い粉のようで、先の部屋まで続いている。粉はやがて砂利のような形状になり、部屋の前には小石ほどの白い欠片が一つ落ちていた。

 うん?さっき感じた匂いだ。玄関にかすかに流れてきた匂いは、この部屋から漂ってきている。白い欠片は何かの破片のようだが、これは一体なんだろう?

 俺はそれを拾い上げると指で弾いて飛ばし、襖を開いた。

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