第3話
地図でみる限り、今度の目的地は峠に向かうトンネルの手前にあるようだ。車を停める場所はあるだろうか?走りながらそう心配していると、後ろからクラクションを鳴らされた。
いつの間にか速度が三十キロを下回っていたようだ。バックミラー越しに車とバイクが数台並んでいるのが見える。慌ててハザードランプを点灯させ、やり過ごす。
危ない危ない、運転に集中しないと。向かう場所は道なりではあるが、気を引き締めてハンドルを握る。
しばらく走っているとトンネルが見えてきた。
手前の空き地にのぼりが立ち、奥に商店のようなものがある。
「ここか」
店の前に車を横付けすると、エプロンを着た気難しそうな爺さんが、店の入り口からこちらを上から下まで舐めるように見ている。
のぼりに書かれた字を読むに、どうやらここは骨董品屋らしい。
おそらくこの店の主らしい爺さんは、まだこちらをじっと凝視している。
トンネルの中から聞こえる排気音が徐々に遠ざかり、辺りは静寂に包まれた。
なんとなく居心地の悪さを感じて、爺さんに頭を下げる。
「ああ、あんただな」
そういうと爺さんは店の中に入り、ビニール袋に入った何かを抱えてまた出てきた。
「あのう、これは?」
「もうすぐ来る他府県ナンバーの車の奴に渡してくれって言ってたが、あんたじゃないのか?お代は貰ってるからな。ほら、言われた通り、この袋に包んで入れといたよ」
ぶっきらぼうにそう言って袋を手渡すと、爺さんはさっさと奥に引っ込んでしまった。
何か余所余所しいと言うか人と関わりたくないような感じだ。これで接客業が務まるのだろうか。そう思いながらも渡された中身が気になる。
車に戻り、ガサツに新聞紙を剥がすと、出てきたのはやや大ぶりな皿だった。30㎝はありそうなシロモノだ。だが見た目に反して、落とせば粉々に砕けそうなぐらい軽い。白地に鮮やかな赤い装飾が施され、端の方に烙印が押されている。高級な物なのかどうかは俺には判別がつかないが、いったい誰が、なぜこれを俺に?ますます訳が分からなくなってきた。
皿も気になるが、もう一つ気になるのは、さっき店主が言い放った言葉だ。
「もうすぐ来る他府県ナンバーの車の奴に渡せ」
誰かが、俺がここに来る事を知っていた。いや、正確に言うと、俺はここに来させられているのだ。誰かは分からないが、明らかにその誰かに俺は誘導されている。そして、俺の行動は監視されているのだろう。
あらためて周囲を確認しても誰の姿も見えない。「誰か」に心当たりも無ければ、その「理由」も想像すらつかないが、何か目的がある事は確かだ。何かヒントになりそうなものは無いだろうか。そういえば、店主はこうも言っていた、
「言われた通り、この袋に包んで入れた」
そうだ、皿の入っていた袋。さっき新聞紙を丸めて突っ込んだ袋を検める。
「やっぱりあったぞ」
入っていたのは、折り曲げられた地図。同じように矢印と丸印が記され、丸印の横にはカタカナでカギ、グンテ、サラ、と書かれている。おそらく筆跡を特定されないようにだろう、直線的な定規か何かで書いたような文字だ。
「鍵、軍手、皿。これを持ってここに来いってことか。面白いじゃないか、最後まで付き合ってやる」
指をボキボキと鳴らして気合を入れ、地図を眺めて目的地を確認していると、スマートフォンが振動し、ディスプレイには部長の名前が表示されていた。
「まるでストーカーだな」
ため息をつきつつ電源を落とすと、すぐさま再起動し、着信拒否に設定した。
もう何を言われてもいい。なんなら明日辞表を叩きつけてやる。俺は俺のやりたいように生きる。この先に何があるのか知らないが、ここで帰って後悔なんかしたくは無い。
「必ず確かめてやる!」
ハンドルを握る手に力がこもった。
―後先考えずに動くのはやめて、もっと地に足をつけてみろー
なぜか部長の声が脳内に反芻したが、俺はそれを振り払うようにアクセルを踏み込んだ。
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